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レストルームは今日も宙を舞う  作者: びたみん
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白い毛はストレスですか

 目が醒めたら一年後だった。

 と言う(くだり)はもうないから安心して欲しい。


「ここはどこだ?」


 冷たい床…というか痛い。

 薄暗い空間で目を開けると、そこは石畳だった。

 そしてみえる棒状のものは…やはりアレだ。


 だがそれより、横に置かれた水とパンの存在に視線が行く。

 俺は一心不乱(いっしんふらん)(むさぼ)りついた。


(こんなに…美味い物は初めて食べた!!)


 水は泥臭く、パンはカピカピ。

 実は非常にまずいのだが、人間の身体は必要な物を見つけると味変する謎機能を持っている。


「すみません、勘違いで投獄されましたー!」


 自分の声が響き渡り非常にうるさい。

 だがこれなら門番に聞こえるだろう。


 コツコツコツ……


 そう思っていると直ぐに足音が聞こえてきた。

 はやり誤認逮捕はよくない。俺の意見を聞いていただこうと思う。


「死刑囚うるさいぞ!静かにすることが貴様の仕事だ!」


 驚愕の新事実!


 死刑囚?…俺何したっけ?

 たしか疲れ果てて関所の前でオッ倒れた。


 それで死刑にされたらこの街は死体で一杯だ。


「あの…覚えてないのですが」

「あぁ?!王様の帰還の目の前で道を塞いだだろうが!十分な死罪の資格がある!?」


 ふぁ!?

 つまり俺は行き倒れたのに暗殺者扱いという事か!?


 BE COOLだ増田よ。


「ふふふ…脱水で動けず、運悪く塞いでしまい…」

「堀の水でも飲めばよかっただろうが!」

「死ぬわ!」

「だから今から死ぬの!」


 あぁ…ダメだ。

 看守は行ってしまったし、そもそも無罪放免にする権限を彼は持っていない。


 俺は隅の方に置いてある椅子へと腰かけ、頭を悩ませることになった。


 死罪の時に言えばいいんじゃね?と思い付くが、御帰還パレードの真っ最中だ。

 ゴミの処理など秘密裏(適当)に行われるに違いない。


 目をつむり真剣にどうする考えていると、網膜が明るさを検知した。



「む?ここは…どこだっ!」


 先ほどの薄暗い石畳と異なり、明るく見たこともない木造家屋だった。

 清掃の行き届いたその部屋は扉一枚あるだけの空間。


 俺は扉を開けて振り返ると、そこが何だったのかを理解する。


 こいつは…この世界に来た時からの相棒。

 レストルーム(トイレ)。


 だが何でこんな所にいる?

 俺は階段を見つけて下に降りると宿屋である事を理解した。


「あの時の騎士様はすごかった…」

「あぁ、バッサバッサと……」

「たまんねぇな!ハハハ!」


 賑やかな食堂では昼間から酒を酌み交わし大いににぎわっている。

 王の帰還に合わせた凱旋パレードだろうか。


 俺はその場を後にすると、城へと直行することにした。


「すみません、謁見希望です」


 罪人だがなにか。

 だが城だって簡単に受け付けてはくれない。


「今日は凱旋でダメよ。それに身分証は?」

「あ、ないです」

「それなら冒険者ギルドに行きなさい」

「ありがとう」


 冒険者ギルド…中々ファンタジー的な言葉が聞こえたな。


 まぁ、突然ファンシーな世界へ飛ばされるよりは良いだろう。

 成人男性が可愛いウサちゃんと鬼ごっことかシャレにならん。


 まぁいい。

 俺は冒険者ギルドへと向かうと、道中助けを求めるお姉さんがいらした。


「姉ちゃん、そろそろ頼むよ?な?」

「いやです…離して!」


 観戦した方がいいか?

 いや、覗きの趣味の話ではなくてだな…助けが必要かどうか。


 すると男は女性の胸元をグイッと引っ張り雄たけびを上げる。


「いや…!いや!!」

「返すものは何だっていいんだぜ!」



 俺は小石を拾い上げると、気を引くようにそれを放り投げた。


 ゴッ!


「ぉう?」


 クリティカルヒット!


 大事な事だからもう一度言う。

 気を引くようにそれを放り投げたんだ。当てるつもりはなかった。


「なんだてめぇ!」

「もう少し待ってやれよ、嫌がってるだろ」


 それだけ言ってダッシュで冒険者ギルドへと走った。


「はぁはぁ……すみません…はぁはぁはぁ…身分証の発行を……お願いします」

「えーっと………ギルドカードの提示をお願いします」


 完全に変質者だ。

 俺にそう言った意図はなく、むしろ今女性を助けてきた誰かのヒーローだ。


「ふぅ…あ、一般庶民(罪過付)です」

「はぁ、ぁいえ。では登録からお願いします」


 言われて水晶のようなものに手をかざすと、やがて真っ白になった。

 いやー、身の潔白が晴れるようで気持ちがいい。


「あの…」

「はい?」

「少々お待ちください」


 そう言って受付は奥に行ってしまった。

 おれは待ちぼうけを喰らったので周囲を見渡すと、この世界には多種多様なジョブがある事が分かった。


 まぁ俗にいうロールプレイングだな。

 だが魔法使いと言うのはないらしい。基本的に物理系の職業と思われた。


「兄ちゃん新入りかい?」

「何の用だ?」


 お決まりパターンだな。

 いびって、なじって遊ぶ先輩からの粛清。


 だがトイレから転移した俺にチートスキルはない。

 その二の腕で殴られたら首が折れて、俺の人生は終了のお知らせだ。


 ドンッ!


 受付に置いたのは泡立った何かが入ったジョッキ。


 いや、受付に置くなよ。まじで怒られるぞ。

 喉カラカラだから丁度いいや。オゴリだしな。


「付き合うよな?それともモヤシか?」

「場数が違う(サラリーマンなめんな)」

「ほぅ…そうは見えねぇな」


 すると相手はジョッキ片手に腕を差し出してきた。


 こいつはアレか…

 俺は木製ジョッキを持って相手の腕と交差させる。


「ふんっ…分かってるじゃねぇか。言うだけある」



 互いに口をつけた瞬間…闘いが始まった。


 だが直ぐに異変が生じた。

 口の含んだ瞬間、強烈な刺激を感じて思わず咽て泡を飛ばしてしまった。



 びゅぶぅ!



 やや前髪の薄くなった相手に、ビールに似た泡が吹き飛び不時着する。

 減ってきた場所に…だ。


「ぐあははははっは!!やべえなビル!」

「お前の負けだ!毛が増えたじゃねぇか!!あっはっはは!」


 だがビルと呼ばれた男は硬直して動かない。しかもジョッキから口を離す気はないようだ。


 悪い事をした。

 では続行という事か…この男、やるな!


 二口目。



 びゅぶふぅ!



 再びの失敗。

 なんだこの炭酸の強さは!口に含めないじゃないか!!


 ビルは増毛された自らのヘッドに何かを感じていた。

 ビールの発酵が進めば育毛できるだろうか?いや、今はそういう話ではない。


 だがジョッキから口は離さない。


 素晴らしい根気だ…この漢気、まさに矜持!


「ふまない、ばじめででぬ(初めてでね)

ふい(良い)ふぉれよりぬけりが(それより行けるか)?」

「あぶぁ」

よじ(良し)


 ゴキュ…ゴキュ…ゴキュ……


「ふはぁ!」

「くうぁぁ!!」


 ビルと俺は目が合う。

 互いにその視線は相手のジョッキへと移される。


「「つぎ!!」」

「うおおおお!!」


 周囲からは歓声が飛ぶ。

 アルコール度数は大して高くなさそうだが、いかんせん刺激が強烈である。

 エビーから貰った緑の果実を思い出される。


 運ばれたジョッキを手に取ると、再び合間見える視線の交差。


「「いざ…!」」


 ゴキュ…ゴキュ……ゴキュゴキュ!


「ぶはぁ!!」

「良いぞ新入り!」

「リーマンなめんな!」

「ジョブか?聞いたことねぇな!」


 それからなんか記憶が途切れ途切れだ。



 おかしい。

 誰かに横腹を小突かれている。


 ハッとして気付くとギルドの天井を見ていた。

 どうやら倒れていたようだ。

 だがビルも倒れており、俺だけではないことに安堵した。


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