はじめての街
村を追放されて…いや、逃げ出してからひと月が経っていた。
俺は食べられそうな物を片っ端から試食し、この密林の事をだいぶ詳しくなっていた。
「こいつは食うと腹痛になる…あぁ、このキノコは最悪だったな。笑いが止まらねぇ」
そんな調子でほぼ毒に満ちたこの世界、俺は生を全うしていた。
「ぐげぇ!」
「お、今夜は焼き鳥か」
鶏冠のついた鳥が俺に飛びかかり、首を捻って地面に叩きつける。
首を落として振り回しながら拠点へ帰投する。
シュールな光景だが血抜きを行っているのだ。
スプラッタは俺の許容範囲を逸脱する。だから安心してほしい。
えっ?
トイレの話から入った奴が何をいうかって?
だからオブラートに包んで言ったじゃないか!
レストルームと。
そうそう、拠点に戻ったら素晴らしい話があるんだ。
まずはこれを見てほしい。
純白の天使。
やはり拠点にトイレは必須だ。
綺麗な小川もあったから整備したら生活水準が劇的に向上した。
そして素晴らしい話はこの個室についてだ。
こいつ…動くぞ……!
そんな訳はない、便器だぞ。
だがこの個室に不思議な光が集まっている事を認知している。それがなんなのか分からないが、俺には重要なファクターであると推測している。
何カッコつけてるんだって?横文字並べればいいと思ってるんだろうと聞こえてくる。
実に嘆かわしい!
そして耳の痛い話だ。
さて、こんな生活を続けたところで進展がない事に困っている。だから旅立とうと思う。
この密林で得た知識は、密林を出るために十分な経験となるだろう。
「よし、出よう」
それがフラれた彼女から逃げるとか、そんなんじゃないから!
俺はお世話になった純白の天使に敬意を示し、明け方に出発した。
この辺りに出没する動物は肉弾戦(弱)でどうにかなる。
だから俺は甘く考えていたんだ。
この世界のことを。
しばらく進んで未知の場所へと踏み入れた。
そこはもう後戻りができない場所であって、本当の意味で最終ラインだった。
「怖い…かな。だがもう一人は無理だ。寂しい…」
俺は意外に寂しがり屋だった。
そんな気分に反して天候は良く、木々の合間から陽光が道を照らし出していた。
ここを行けばおそらく街道に出て人の街へと行けるはずだ。大体の目星をつけていたのだ。
人のいるところに出るため密林を名残惜しそうにしながらも抜けた。
そして見つける知的生命体の叡智。
それは堀と反り立つ壁で周囲を囲んだ壁に圧倒される。
「ついに見つけたぞ同胞よ…待っていろ。今行くぞ!」
だが歩けど一向に城門が見えてこない。
一体どこまで続くのか、はたまた入り口が不思議な力で守られているのか。
「はぁはぁ…行くしか……ないのか?」
俺は反り立つ城壁と堀の深さを見やる。
とても登れた物ではない。
いざ行かん、パラダイスダイブ!!
とか言って堀に入ったら最後、浮かんでこないだろう。
その辺で拾った枝を杖代わりにして歩いていると、ようやく何かの行列のようなものが見えてきた。
「ふふっやったぞ…!だが、水が欲しい……」
俺は城門まで辿り着くとその場に倒れ込んだ。
まるで俺を祝福するかのように、皆が俺を見ている。
(はははっ知らない人たちに心配されているのかな…)
この世界に来てから俺は心配しかされていない。
でも裏を返せば、優しさで満ち溢れた素晴らしい世界ではないか!
俺はこんなにも素晴らしい世界の片隅に、ゴミのように倒れた。
そして近づく何かの行列。
そこで俺の意識は途絶えた。