エビフライとキャッチボールはできますか
さぁ、この大自然の中に…俺はまたボッチだぜ!
ハッキリ言って知的生命体がいた事に喜びを禁じ得ないが、一抹の不安と同時に手応え(一方通行)を感じていた。
「俺は…また会える。そんな気がする」
「ねぇ」
ビクッ!!
「なななんだよもぅ!ツンデレさん!!」
「はっ?」
意味不明な言葉と言わんばかりに、露骨に嫌な顔をされた。
「言葉なら通じてる。意味もわかってる」
なら安心だ。
ん?なぜ異世界の言葉が……いやそうではない!
いま大事なのは俺の心の声が!!
「聞こえる…のか?」
「聞こえない。顔に出てる」
読心術!
この最高のポーカーフェイスと絶賛された俺を相手に…
仲間内からは『あなたとやる麻雀は楽しい(笑)です』と定評があるのだぞ!
まぁいい。
酒が入れば誰でもポカーフェイスになる。そんなものは常識だ。
「来ないの?」
まさかのお誘い!?
予てより彼女は不在だったが、まさか地球外生命体と育むことになろうとは…
「ふむ、この地に来たばかりで分からなくてな。では参ろうか」
そう言って踏み出した瞬間、彼女は告げる。
「そっちじゃない」
「ですよねぇ。試してみました」
「試されるような事はしていない」
おかしいな。
さっき彼女はこちらに向けて去って行ったはずなのだが…
「わたしが試した…ふふっ」
「ぐぅ…」
「護ってくれるんでしょ?行こ」
「もちろんだとも!あっ、これ食べる?美味しいよ」
そう言って先ほど食べた黄色い果実を取り出した。
甘美なる香りがやはり素晴らしい。毒と分かっていても思わず食べてしまいたくなる。
「ぇー…それ死ぬよ?」
「生きてるが?」
「えっ?」
「えっ??」
これでもかと、眉根を寄せて怪しい奴を見る目で見られた。
だが二人のかみ合わぬ会話に、自然と時間はゆったりと流れて行った。
こういうのも悪くないな。
なんていうか楽しいし、ある偉人が知ったらこう言うだろう。
『リア充爆発しろ』
だが安心しろ、彼女とはそういう関係ではないのだからな。
大小さまざまな木々が鬱蒼と生い茂る密林なのだが、彼女の歩いた後は不思議と歩きやすかった。
後になって分かった事なのだが、彼女が素人にも歩きやすい様にしてくれていたようだ。
道中、緑色の果実を採って俺に見せてきた。
「これ、元気出る」
「ありがとう、そう言えば名前を聞いていなかったな」
「むぅ、自分から名乗るのが流儀」
「失礼した。俺は増田 怜雄人。クールなナイスガイだ」
差し出すその手を受け取り、ニコリとして彼女は俺の名前を復唱する。
「うん、マスターウォシュレット…よろしく」
…なんだって?
日本語の名前が聞き慣れなくて違えたか?
百歩譲って増田=マスターは理解できる。
名前の方はどうだ?
レオトをウォシュレットとカスリもしてないんだが?
おぃい?
「すまん難しかったか。レオトだ。レ・オ・ト」
「ウォ・シュ・レッ・ト?何が違う??」
顎に手を当てて本気で考えている。
間の数もあってないんだが?やっぱり転移した時に自動翻訳してるのか?
BE COOLだ増田。
聞こえはいいが、ここで『便器』と名付けられたらお終いだ。
最初が肝心。
俺はこれまで見せたことがないほど真剣な瞳を向けて、彼女の両肩を掴み囁いた。
「…………ごにょごにょ…」
「ひゃっ!」
ボッと耳まで真っ赤になって、俺の眼を見ようとしない。おかしいな。
俺はレオトと言う名前を覚えてもらいたくて、必死に連呼しただけだが。
「あのぅ……」
「何かな?」
「そう言うの、セクシャルハラスメントって言う」
がはっ!
自分の名前を連呼しただけでセクハラ扱い!
あぁそうか、急に両肩掴んで耳元で囁いたからか。それについては謝罪せねばなるまい。
「すまない、そういう意図はなかった」
「知ってる。名前が卑猥」
えぇ…
な ま え が ひ わ い !
産まれてごめんなさいとか、そう言うレベルの話でした。
流石にそこまで言われて俺も冷静ではいられない。彼女に文句の一つでも言うべきだろう。
「それは酷いんじゃないかな。いくら美人でも言って良い事と悪い事が…」
「だって連呼するんだもん!その…マスター…………○○○。○って!!」
……おーい、神様どこですか??
まじで卑猥でした。
「申し訳ない、マスターと呼んでくれ」
「あい分かった。わたしはエビー、エビーフライ」
「なんのジョークだ?」
「むぅ!」
えぇー…名前だけで会話がドッジボールなんだが。
キャッチボールしようぜ?
「はははっ、エビー行こうか」
「気やすく名前で呼ぶな」
この世界の名前は欧米風でした。
エビフライなんて名前してたら、エビが苗字だと思うじゃん。
あ、分かった!
苗字が大分類でフライ(揚げ物)、名前が小分類でエビ(具)か。
スゲー納得したわ。
「悪い、まだ慣れてなくてな。フライ」
「エビーでいい。マスター」
どっちだよ!
このツンデレ野郎が…
「集落まであと少しで着くから頑張れ」
「おう」
俺は言われた通り滋養強壮をつけるため、エビーがくれた木の実を口の中へと放り込んだ。
お?こいつも中々美味だ。
口の中が弾けるようなポップな味わい。
最高に気持ちが…あれ……刺激が上の方まで…
「くっ…エビー……」
脳内が激しく揺さぶられ、立っていられなり仰向けに倒れてしまった。
「マスターどうした?マスター!?」
こんな衝撃初めてだ…
産まれて初めて下から女の子を拝見したぜ。
「ナイス…アングル……」
「えっ?ちょっ!この!!記憶飛べぇ!!」
これを最後に意識を手放した。
いや、吹き飛んだ。




