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レストルームは今日も宙を舞う  作者: びたみん
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騎士団長はフリーター

 訃報はすぐに王城にも知らされた。

 伝令は息を切らして跪き、いかに早くこの事態を通達しようと邁進したのかがよく分かる。


 それを聞いたチータ騎士団長は驚き、戦友の死を嘆いた。


 各部門(特に軍事関係や政治家)は、ビルの訃報(ふほう)を聞くや否や焦りを露わにし、他国への情報流出を阻止するため箝口令(かんこうれい)を敷くように王へと進言した。


「落ち着くのだ!ビルの訃報は確かに残念だ。だがしかし、我が国にはもう一人いるじゃないか…」


 そう言いながら王は騎士団長チータの方を見て、不気味な笑みを浮かべた。

 モルモットの予定だったが、ビルが死んだとなれば別問題。


 彼への厚遇(こうぐう)を継続して信頼を得て、騎士団の英才教育を受けさせよう。

 半年もすれば一人前の戦士に変貌するはずだ。


 そんな心の声が顔から漏れ出ており、あの男…マスター・ウォシュレットとはポーカーフェイスで良い勝負が出来そうだ。

 まぁ、明らかに彼奴(きゃつ)は好感が持てる反面、目の前の上司は悪意に満ちた笑みだ。どちらが人として好まれるかは火を見るより明らかだった。


「あの…」

「なんだ伝令。まだおったのか」

「報告はもう一件…」

「んん?まさかもっと悪い知らせじゃないだろうなぁ…はっはっは」

「白判定マスター・ウォシュレットが同任務にて消息不明。ギルドの報告によると、戦死した可能性が高いとのこと…」

「は?奴は屋敷にいるのでは??」


 チータはそれに対して首を横に振って応えた。


 実は屋敷から忽然(こつぜん)と姿を晦ました事を報告していなかった。

 と言うのも厳重な警戒の中で突然消息を絶ち、どこに行ったのも見当も付かなかったのだ。


 事態が変わったのはひと月前。

 宿屋から自警団に通報があって足取りが判明した。


 その内容は信じがたいもので『備品が破壊されてツケ払いをした輩が、規定の一か月過ぎても支払われなかった』という内容だった。


 どうやって屋敷から脱出したのかもわからず、なぜ宿屋を破壊したのかも不明。

 女性関係でトラブルになっていたとの事だったが、その後の調査でビルの遠征パーティに加わって出立していたことが分かった。


 いずれにしても不可解な点が拭えず、追跡調査隊を出して結果が出るまで保留にしていたのだ。

 だが熟練した冒険者パーティを追った所で、追いつける訳がない。


「王、全ては私の失態によるものです」

「うぐぐぐっ!きざまを…断じでも意味がない!!寛大(かんだち)だからな!」


 王、キレる。

 部下からの信頼が薄いと、こうも事態は悪化する悪い例だ。


「探し出せ…!ウォシュレットの骨の一片でも見つけて証明せい!!」

「ハッ、ハイ!直ちに!」


 チータは走ってその場を逃げた。


 だが王はまだ気が付かない。

 部下を叱責しなかった自分を褒め称えている奴には一生分からないのだ。


 騎士団長を王都から追い出して誰が王都を守るのか?という単純にして馬鹿な事に。

 だからこいつは愚王なのだ。


 しかし優れた部下たちに助けられたと言える。

 ビルの死は箝口令によって秘匿され、王都から見惚人(みそれびと)が居なくなった事を知られるのは、だいぶ先になった。


 チータ騎士団長は中庭に部隊を集めて、遠征部隊を構築していた。


「BグループからDグループは残れ。あー、この間の練武会で優勝した…」

「団長、Gグループです」

「おう、AとGグループは遠征部隊だ。直ちに食料その他備蓄を準備しろ」

「「ハッ!!」」

「俺はバルザックのところで情報を収集してくる」


 副騎士団長にそう告げて冒険者ギルドへと向かったが、道中に裏路地で女性の声が聞こえて足を止めた。

 それはあまり気分のいい内容ではなく、どうしようかと思案することになる。


「姉ちゃん…いい加減払えや」

「しつこいですね!私は嫌だと…」

「あぁん!前は邪魔が入ったが……その体でも…フグッ!」


 呆れて物も言えない。

 女性に金を貸して返さないから肉体労働だと?

 王都の中ではこんな事が横行しているのか……自警団と少し話をせねばならぬな。


「大丈夫か?」

「あ…はい。その、ありがとうございます」

「いやなに。しかし何度かあるのか?いつも助けがあるとは限らんぞ」

「以前も通りすがりの変な男性に助けられて……」

「変な男性?」

「石を投げつけるくせに、言う事は紳士的な変な人です。直ぐに逃げ出しましたが」


 ……これはアイツか?

 まさかな。


 行き倒れて死刑宣告を受け投獄。

 自分が路頭に迷って困っているのに、道中で見知らぬ女性を助けただと?


「フフッ…どんだけ紳士なんだよ。だから俺はお前が好きなのだ」

「あの~」

「気を付けたまえ、今回が気まぐれ故な」


 それだけ言うと冒険者ギルドへと再び歩き始めた。

 これは彼奴が歩んだ道だ、この道を辿ればきっと出会う事が出来るだろう…


 俺は城出る前に辞表を置いてきていた。

 明日には掃除に入室した執事かメイドがそれを見て議会の偉い人へ渡すだろう。


 あんな王に仕えるのなど、真っ平ごめんだ。


「あぁ…自由とはこんなにも楽なのか!」


 誰が見ても直ぐにわかる騎士団長チータ。

 その男が周囲の目も憚らず、背伸びをして悠然と闊歩する姿を見た市民は、驚くと同時に既視感を覚えていた。


 ドンッ!


 チータは冒険者ギルドの門戸を派手に開くと、背中になびく虎のマントをなびかせて奥へと進んだ。


「アン嬢、バルザックはいるかい?」

「はいー。少々お待ちくださいー」


 執務室へと向かったアン嬢の声がこちらにも届いてきた。

 いつもなら『おしとやかさ』を要求するのだが、今日からそんな小言など気にも留めない。


「おさー、騎士団長がきてますー。はいー」


 二つのうるさい足音がして現れるスキンヘッドの男。

 晴れやかなチータとは対照的にバルザックの目は真っ赤に腫れており、昨日何があったのかを察した。


 バルザックが親指を立てて執務室に行くように促してきた。


「要件はビルの事だろう。今朝尋問されたぞ」

「いや違う。同行した男の方だ」

「…マスター・ウォシュレットか?」

「そうだ。ビルが旅立った日に奴はここに来ただろう?」


 それから俺は宿屋を壊したから依頼を受けたいというマスターの話を聞いた。

 そしてその足で往復二月も帰ってこれない遠征に出たことも。


「なぜ許可した?白なのは知っていただろう」

「ビルがいたく気に入っていてな。奴が来るなら依頼を受けると言うほどだった」

「なんだって?それなら相談をしてくれれば…」

「おいチータ、騎士団はいつだってそうだ。上から目線で俺達を見下して」

「違うぞバルザック!仕事上そのように映るときもあるが…」

「違わないさ。マスターが孤児なのを知っていたか?マスターが何をした?行き倒れて死罪など…それなら冒険者として国境を跨いだ方が…」

「バルザァァック!それ以上言うな!!」


 バンッ!


「すまねぇ」


 バルザックは謝罪したが、チータは思わず声を荒げて机を叩いたことを反省した。

 だがそれほどまでに危険な会話だったのだ。それが知れただけでも死罪になるような事だ。


 口を無理にでも紡ぐ必要があった。


「これから騎士団は足取りを追う。防衛力が下がるから頼む」

「あぁ分かった。ビルを倒した相手だ…気をつけ」

「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ?」


 そう言いながら席を立ち、扉に手をかけた。

 バルザックは見送ろうとしたが、チータはそれを手で制した。


「騎士団長を見送るのは罪なのかい?」

「いや?俺はフリーターのチータ様だからな。そんな気遣いは無用だぜ」


 それを聞いてバルザックは驚き目を見開いたが、やがて何かを納得したようだった。



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