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レストルームは今日も宙を舞う  作者: びたみん
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正夢は何を知る

 だが、ゆったりとした時間もそう長くは続かなかった。


「また来た!」

「ビル!!」

「おう!」


 やべぇ……ビルのやつ真っ直ぐ歩けてねぇ。

 おいおい、俺が手本を見せてやるよ!


 ズルッ!


 先ほどのスライムの水溜まりに足をとられ盛大にすっころんだ。

 それを見ていたビル大爆笑。


「ガハハハハハ!今のやべぇ!ズルっ…ズルッ、おぉう。ハハハッ!」

「いやまじで痛い。ビル!」


 ガンッ!!


 スライムはビル目掛けて刺突を繰り出すが、手斧と穴だらけの盾で防がれ怒声があがる。


「バカやってんじゃねぇシャキっとしろ!」

「やばいわね。ちょっと呑みすぎだわ」

「だぁってろ、ヴォォルカニィィィックソォォォド!」


 ブワッと炎が上がり、一気に水生物は水蒸気と化した。

 それは飲んでいない時よりはるかに強力な一撃。


「俺もできるぜ!ォォォォオオプン・ジ・ステェェイタァァァアアス!!」


 ピコンッ!


「うはっはっ!いいねぇ、サイッコウだわ!」

「ッチ!集中しろ!」

「おうよ!飲んでる時の方が調子がいいぜぇ」

「まずいわね…」


 平然とするビルに対してセシリアが冷静に分析をする。

 その一撃は確かに強力だが、過剰な一撃でもあった。


「ビル。魔力ダダ漏れ」

「おう?補給してっから大丈夫だよなぁ!」


 ドサッ…


 それを最後にビルは突然……寝た。


「はぁ。マスター、テントまで運んでやれ」

「あぁ分かった」

「次襲撃があったら…」

「パーティ全滅」


 俺は持てないからビルの両脇を抱えてズルズルと引っ張った。

 その姿を見て三人は溜息を吐くのだった。


 テントに入ってビルは何かを言っていてる。


「ムサイ、お前はもう少しコミュニケーションをだな……」

「ポォォォル…いいか、他人の意見を……」

「セシリア…生足いいなぁ……」


 セシリアさんだけ酷い。

 しかしこの人はパーティメンバーを本当に大切にしているんだとわかった。

 それはビルが父親でメンバーが子供、即ち家族の様な関係だと思う。


「ビル、羨ましいな」


 その寝言に俺の名前は入っていなかった。

 やや悲しい気持ちになるが、それが当たり前だと思いテントから出ることにした。


「ビルは寝た。すまなかった」

「マスターは大丈夫なのね。次の襲撃に備えるわよ」

「っかし、しつけぇな…」

「いや、これは攻城戦だ。相手の衰弱を待つ狩りに近い」


 夜襲も波状で行うことで、一晩中寝られなくする作戦だ。


 襲撃者は気にせず休息をとる事ができるが、防衛側はいつ来るか分からない襲撃に備える必要がある。

 防衛隊が十分にローテーション出来ればそれも問題ないが、不十分だと衰弱する一方である。


「いつも通り一人を監視役にあてて、一か所に固まって寝よう」

「テントが急襲された時の対処ね」

「ならムサイが火守する」


 それに皆が頷き、ビルの寝るテントへと足早に向かった。

 闇夜に風が吹き葉は揺れて擦れる。ザワザワとした感触が拭えなかった。



「おはようビル」


 葉の間から木漏れ日が差し込み、眩しさを覚えつつもセシリアに起こされたことを理解した。

 寝ぼけながらも起き上がると周囲を見渡す。


「…どうやら生き延びたか」

「そうね。王都へ急ぎましょう」

「あぁ、皆を起こせ」

「あなたで最後よ」


 セシリアに言われて焚火の方に目を向けると、朝食の準備に取り掛かっていた。

 起き上がり皆の元へと歩みよる。


「ポール盾は大丈夫か?」

「問題ない。穴二つ程度なら大丈夫だ」

「そうか。ムサイの手斧も研いだか?」

「いい。準備大切」


 二人の反応に満足していると、セシリアがスープを沢山入れて器を渡してきた。

 その中にゴロゴロと入った大きな肉を見て、先日を思い出す。


「タイガーの肉が取れたの。生気を養って」

「ほう、あの時の奴か?」

「何を言っているの?タイガーの肉が取れたのは久しぶりよ」

「ムサイがんばった」

「そうかそうか…ん、誰か忘れていないか?」

「ビル呑みすぎだぜ。俺たちはいつものメンバーじゃないか…まだ寝てるのか?ハハハッ」

「ふふっ。熱いから気を付けてね」


 何か大事なピースを欠いたような、変な感じだ。

 だが心地よい。


 俺達はタイガーの討伐依頼でこの森の奥へとやってきた。

 ムサイが襲われたと聞いた時は焦ったが……襲われた?


 誰に聞いた?


「もう、どうしたのよ?ビル」

「帰還までが冒険だ。しっかり頼むぜオヤジ」

「……ポール、その盾の穴はどうした?」

「あん?これは昨日タイガーとの戦いで……」

「タイガーでそんな大穴が開くか。ムサイ、誰に助けられた?」

「助けられていない。一人で倒した」

「ポールは助けてない。そうか…」


 皆の言っている事が矛盾している。

 それにタイガーの討伐でひと月もかけて遠征する理由がない。


「俺は夢を見ているな!炎帝ヴォルカニックソード!!」


 ザンッ!


 ヴォルカニックソードで目の前を切り裂くと、空間が割れてガラスが砕けるように景色が落ちていく。


 突然顔に何かがぶつかり、息をするのも苦しい。


 ヴォルカニックソードの炎がその顔に触れた物を燃やし尽くし、カスを手でどけた。


「チッ!敵襲!おきろおおおお!!」


 だが誰も反応しない。

 テントに居た全員が、自分と同じようにスライムが顔に引っ付いている。


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


「ぷはっ!」

「はぁはぁ…」

「ウヴ…ぁ」

「大丈夫か!」


 全員の反応を見る限り平気だ。

 火守をしていたのは誰だ!


 焚火は消えている。

 周囲に視線を向けると、やや膨れた輪郭が見える。それは想像以上に大きくて何かが入っている。


 そこに居たのは…


「ムサイィィィィィィィ!うぉおおおおおお!!」


 《炎帝》ヴォルケーノランス


 手に溶岩の塊を生成してそれを投擲した。

 ムサイだけを残してスライムは吹き飛び、後方の木へと串差しにされた。


 マグマは大きなスライムを徐々に燃やしながら熔かし、そして液体から溶岩へと物性を変えて拘束した。


「大丈夫か、ムサイ!」



 その光景をテントから見ていた俺は、全体像を把握するのに時間を要した。

 顔についたスライムをビルが切り捨てた。

 そこまでは分かるが、焚き火が消えておりビルの叫び声までしか分からない。


 ビルの炎で時代に状況が見えてくると、ムサイに駆け寄るビルの姿が確認できる。

 それを見て俺もムサイのもとへと走り出していた。


「くっ!人工呼吸だ。肺に水分があるかもしれない」

「なんだそれは!」

「いいから黙って周囲を警戒しろ!!」


 俺は周りに構わず準備を始める。

 服の袖を破り、ムサイの頭が地面に直接当たらないようにする。


 まずは頭を少し上げて気道を確保。

 その状態で鼻をつまみ、口から空気を送り込む。


 何度か繰り返すうちにムサイの自立機能が働き、咳込みながら気道内の水分が吐き出された。


「……げほっ!ゲホッ!」


 ドンドンッ!


 横にして何度か背中を叩き、排出を手助けすると意識を取り戻したようだ。


「大丈夫か?」

「マス…タ……うん」

「よし、そのまま咳を我慢せず横になっているんだ」

「…分か……った」


 俺は体力回復用のアンプルを取り出し、頭を弾いてムサイに渡した。


「喉を通るようになったら、ゆっくりこれを飲むんだ」


 ムサイがコクリと頷いたのを見て、毛皮をムサイの体にかけてやる。

 全身が濡れていて想像以上に体力が奪われそうだった。



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