フライ一族の真実
「うおおぉぉぉ!」
ポールが前に盾を突き出して突出する。
ジュエルは盾を蹴り飛ばし、その勢いを殺すことなく横へと逸れた。
「甘いわ!」
ポールの影となっていたセシリアが飛び出し追撃する。
それはまるでダンスのように美しく、無駄なく流れるような攻撃だった。
それらを見事に躱すジュエルの身体能力は凄まじいと言える。
だがそれもそう長くは続かない。
徐々にジュエルの動きに合わせて攻めるセシリア。
その刃が届いた…と思った瞬間だった。
ペチンッ!
じゅるん…ぷるん……
斬りこんだ短剣が頬を掠めた瞬間、短剣を液体が弾き飛ばしジュエルを守るように位置どった。
「ふん。《流転》流動生物生成か…相変わらず厄介だ。物理が効きやしない」
「君の《炎帝》も厄介じゃないか。ここからが人外の戦いだよ」
「なにが…人外の……戦いだ!」
ガンッガンッ!
ポールが呻き、セシリアを後退させるために盾でスライムの攻撃を防ぐ。
だが盾の状態を見て我が目を疑った。
鋼鉄製の盾に穴が二つ。
スライムの刺突を防げず穴が開き、その先へと攻撃を許してしまったのだ。
「なっ!セシリア!?」
《炎帝》ヴォルカニックソード
ザンッ!
セシリアに迫った二本の刺突腕を焼き切った。
炎がビルの剣から吹き出し周囲は赤く照らし出され、あまりの高熱に顔をしかめる。
俺に使った時とは比べ物にならない火力。
彼があの時言った「本来なら蒸発している」と言う真の意味が理解させられた。
「ちぃ!行け…全てを刺せ殺せ!」
「……」
ぷるんっ…シュッ!
ぷるぷるした感触からは想像できない勢いで飛び上がり、俺達の頭上でウニのように針を突き出した。
俺はその光景に腕で顔を覆い、目をつむった。
だが一向に刺さる気配は訪れない。
腕をどけて目を開けると、ビルに斬られて二つになり燃え上がるスライムがあった。
「ははっ…ビルすげぇ!」
「まだだ!行け!」
そう言ってジュエルは先ほどのスライムを複数生成して一斉にビルに仕向けた。
するとビルはヴォルカニックソードを振るい、目にも止まらぬ速さで斬り伏せジュエルへと歩みを進めた。
「バカな…僕のスライム達が物の数秒で……」
「はん、前回一体で負けたからって数を増やしても無駄だろうが」
戦力1を何回1で乗じても勝てないのだ。
相手に立ち向かえる戦力…絶対値を2以上に引き上げなければ。
「そんな…僕はこんなにも頑張ったのに……果実だって無かったはずだ!」
「果実?あぁ、この近辺にはなかったな。俺の場合は発酵種(酒)だがな!」
「なんっ…お前が普段呑んでる……ただの酔っ払いだと思ってた」
言いたい事は分かる。
俺もただのアル中だと思ったからな。
と言うか洞窟周辺に特殊な果実がなかったのはその為か。
魔力の補給路を断って、見惚人としての能力を奪おうとしたのか。
「地力が違いすぎる。大人しく撤退しろ」
「討伐命令なんだろう?」
「同じ見惚人だからな、お前を殺しはしたくない。取り逃がしたと言っておくよ」
「普段なら応じた…でも、お前!」
ジェル・ジュエルから、突然の指差でご指名だ。
アンコールはないぜ。
「俺は何もしていない(真実)」
「貴様の持つ人形について聞きたい」
「え?自作ですけど、売ってませんよ」
「フライ一族について知っているか?」
…ここでフライ一族?
エビーの事を聞かれた訳ではないから少し濁すか。
「一族には少し前に世話になった」
「「なんだって!?」」
「クククッ…やはりな」
なぜかビルパーティから驚かれる始末。
一体全体何がどうなっているのだろう。
「なぜそれを黙っていたの!?」
「フライ一族が他人を集落に入れるなど異例だぞ!」
「えっと…それを俺は今初めて知りましたが?」
「いいパーティだね君たち。フライ一族は見惚人を継承する唯一の一族だ」
俺が「エーッ!」って言いたい。
エビーから何も聞いていないんだが、聞く前に集落を飛び出したのもあるがな。
「人形はフライ一族の中で、一人だけ出現する見惚人に似てる」
「一人だけ?全員ではないのか?」
「そうポンポン神に祝福されても困るだろう?見惚人が死ぬと新たな見惚人が産まれる稀有な集落だ」
王はそれをマネて俺の子孫に力を継承しようとしたのか。
ビルは冒険者や戦力として信頼が置けるから、ポッと出の俺はモルモットに都合が良かったか…
「その人形…ずっと気になってた」
「ムサイは気づいていたのか。俺は分からなかった」
「と言うか一族の姿形を知ってる奴はいないだろう?」
「ムサイさんなぜ?」
「むぅ…そういうのじゃない」
はて?
俺はムサイに何かしただろうか?
「一族の中でも、その髪の長さと象徴的なシルバーブロンドの髪は見惚人だ」
わぉ、ピンポイント来たコレ。
だが更なる追撃が来る。
「貴様…エビーに会った事があるな?」
ムサイがピクリと反応したが、何に反応したか分からなかった。
冷や汗が止まらない。
名前まで出てきたら隠すことも難しいだろう。
だが、名前を知ってるという事はエビーの知り合いという線もある。
「あぁ、密林で倒れている所を介抱された」
「「なんてやつだ!」」
ビルとポールからブーイングが上がる。
エビーは絶世の美女として世に知れ渡っているらしい。
「なるほど、もう一つ。その人形の女性は若かったか?」
「女性に年齢など聞けるか。だがそうだな、ムサイと同じくらいと思ってくれ」
「クククッ…ハーッハッハ!!」
突然笑い出したジュエルに皆が怪訝な表情を向けた。
そんな気味の悪い光景に耐えきれず、ビルはジュエルにヴォルカニックソードを向け警告する。
「妙な真似はよせ。本当に斬るぞ」
「これが笑えずにいるか…怒れずにいるかビル!……イセエはなぁ!!」
「お、おい。俺が知っているのはエビー・フライだ」
「そうさ…イセエ……イセエ・エビー・フライ。その人形本人の母親さ!!」
「なんだって?」
エビー・フライはJr.だったのか…
名前がジョークのような物なのに、母はその上を地で行く存在。
しかし…母親はサイズがデカ過ぎないか?
だが神妙な面持ちをしていたのはもう一人いた。
ビルは斬ると宣言していたので、異様な光景に危機感を感じてヴォルカニックソードを振り下ろした。
恐らくこれが最後の一撃になると考えて。
「…どうしたビル?その程度の炎じゃ僕は斬れないよ」
「なにっ!」
ビルの一撃をジュエルの眼前でスライムが受け止めていた。
見るからにビルの火力は変わっていない。
スライムはビルの剣を弾き、独特の動きでジュエルと共に後方に距離をとった。
「《流転》粘性生物生成。墜ちろ炎帝」
「くっ!」
先ほどより液体粘度の高いスライムを生成した。
ビルの持つ剣に纏わり着き、酸素供給を絶つことでヴォルカニックソードの炎を消し去ったのだ。
ビルが下がる間にも触手が鋭く伸びていき、ビルを追いすがる。
キンキンッ!
鋭い金属音はセシリアが距離を置くビルを支援した音だ。
そこにポールも加わり盾で殴り飛ばそうとする。
「クッ!硬すぎる!」
「下がれ二人とも!こいつは今までと違う!!」
「無駄さぁ。串刺しにしろ!」
「ムサイ!!」
ガキンッ!
ムサイが飛び出し手斧でジュエルを斬り付けた。
だがやはり高い効果は見られないが…なぜこんな事をしたのか。
「落ち着け!」
「違う。クレイジータイガーを両断した時はもっと凄かった」
「そうか…!でもなぜ?!」
「クレイジータイガーの皮は確かのアレくらいの高度があったわ…マスター!」
言われて俺はポーチから解体用のナイフを取り出すと、セシリアに放り投げた。
ひと月の旅で攻撃用に使っていた短剣は劣化してきており、解体用の方が優れる逆転現象が起きていた。
スパスパッ!
包丁を構えたセシリアの攻撃によって触手が両断し、そのままの勢いでジュエルへと迫るセシリア。
その本体を…捉えた!
ザシュ!
「かはっ…」
「「セシリア!!」」




