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レストルームは今日も宙を舞う  作者: びたみん
19/29

悲劇と喜劇

 言われて進んだ突き当りに『Rest Room☞』の看板があった。

 不快指数マックスのこの洞窟で俺は用を足せるのだろうか?


 ふッ…そんな事はどうでもいい。

 命がかかっているのだ、用を足している場合ではない。


 そんな事を考えながら奥へと進むと、素掘りから突然綺麗に壁が削り取られた空間が現れた。


「なんて言うトイレ……ベガスもびっくりだぜ」


 岩盤を掘り進んだらそこは花崗岩(御影石)の岩盤だった。

 そこを綺麗に加工して見事なトイレへと変貌させた。そこに照明として油の篝火…


 なんていう白とオレンジの調和がとれた空間だ。

 これなら落ち着いて物事を済ませられる。


「いやちがう。俺はここに用を足しに来たんじゃない……」


 レストルームから飛び立ったあの時の事を思い出す。

 そう、便座に腰かけて考え込んでいた…つまり祈るような恰好をしていたはずだ。


 今なら自信があるぜ。

 神にでも祈って逃げたいくらいだからな。


 俺はゆっくりと隔壁(ドア)を開け、いざ死地へと旅立つ。

 だが目の前の光景に絶句した。


「ーッ!?便座が……!」


 ない!

 和式だ。


 椅子の代わりに埋め込まれたオマル形状のそれ。

 これでは祈りのポーズが取れない…!


 いやまて、BE COOLだ増田よ。


 水を流す先端部分に座ればいけるんじゃないのか??

 …やや厳しいか。


 かくなる上は…女子トイレ……だが、さすがにモラルに反する。


 完全にコンプライアンス違反だ。

 その前に法律違反か?ん、この国の法律が分からん。


 想定外の事態だ…そうか!


 バンッ!バンッ!!


 俺は外に飛び出し三つある個室を手当たり次第に開いた。

 すると一番奥に…


「あった……」


 見慣れた椅子。

 洗練されたその流線形は、全ての無駄を省いた究極形。


 俺はズボンを下ろし、転移することに全神経を集中した。


 …

 ……

 …………?


 何故だ!なぜ転移装置が起動しない!?

 いや待て落ち着け。もしかしてあれか?あぁ…しないといけないのか??


 しかし躊躇(ためら)われる。

 借りた手前、使うのはやぶさかではないのだが…途中で起動したらどうなるんだ??


 考えるのはやめよう。

 やはり便利な物にはリスクが伴う。


 それが人としての尊厳だったとしても…だ。

 さぁやろう…いや、ポーズだけな。


「神の力を見せてやろう、起動せよ!時空間転送装置(レストルーム)


 全神経を集中して起動条件をいま…!


 …いま!


 ………いま!!



「何もおきねぇ……」


 コンコン…


「あの、大丈夫ですか?お腹痛いのですか??」

「…あ、大丈夫です。直ぐ出ます」


 俺の尊厳が静かに息を引き取った。

 この後は、ただ平然を装うことしかできない。


 スマートに扉を開け、外に出て最高にクールなスマイルを向けて大丈夫な事を告げるんだ。


 さぁ!


 ゴォォ…ゴゴゴ……ガチャ…。


「セシリアさん、心配をかけました」

「きゃ…」

「えっ?」

「きゃぁぁぁぁぁ!」


 もの凄い勢いでトイレから出て行く彼女の背中を見て、俺は額に手を当てた。


「下、上げてねぇじゃん」


 社会的に死んだ瞬間であった。

 だがこのままではどうにもならないので、俺はやる所までやることにした。


 トイレから出てジュエルのいる部屋へと戻った。

 開口一番、仲間から罵声の嵐。


「へんたい…!ムサイは軽蔑(けいべつ)……」

「マスター、後から行ったセシリアが泣いて出てきたぞ!」

「きさまぁぁぁ!女子トイレで何をしていた!」


 ストレートすぎて生卵の方が痛くない。

 心的に。


 だがここはもう引き下がれない。

 押し通すしか俺に道は残っていないのだ。


「はっ!ぶら下げる物が小さいと言う事も小さいな!ポールよ」

「なっ、何を根拠に…」

「俺はお前のイチモツを…見てるんだぜ?」

「ムサイは知らない?セシリアは知ってる?」

「えっ?やだ…ビルの方が詳しい……」


 もはや人類の命運をかけた戦いから、人と人の醜い低レベルな争いへとシフトチェンジしていた。


「今はそんな時ではないだろう!」


 えっ?まさかの助け舟!?

 ビルさんさすが!


「そうね…今は求心者(デミネーター)を倒すことが先決。不毛な争いは後でいいわ」


 いや、当事者が何を言う。

 後でまた言われたくないんですが。


「いやダメだね。俺は(せがれ)をバカにされたんだ、引けねぇよ」


 ポールさんナイス!


「そうだな。決着をつけよう……」

「喰らえ!!」


 俺は目の前に迫る盾を構えた巨漢を受け流そうとした。

 だがそんな計画などゴミ箱に捨てられてしまった。


 ガンッ!


「なぜ…」

「へっ…酒飲みは放っておけないからな…!」


 ビルさん超イケメン!

 この一言に女性陣も顔を赤くして黄色い声を上げている。


「同じ趣味とあれば尚更な…」


 …んん?

 同じ趣味??


「見せたがり…だからなッ」


 やべぇ、尊厳を自ら燃やし尽くしてる奴がいる!

 誰か自警団呼んで自警団!


 あ、俺も連行されるわ。

 だが…ちょっと待ってくれ。


「なぁビル…俺はビルと同じ趣味などないし、あれは事故だった」


 これで完璧に自己擁護できた。

 無実だ。ふふふっ。


 あれ?

 って言うか……


「何でセシリアは男性用トイレに来たわけ?」

「「……えっ?」」

「べべべ別に見たいわけじゃないし!心配だったから着いて行っただけだし!!」

「お前…女子トイレに行ったんじゃなかったのか?」


 俺とビルはセシリアの顔を見ると、どこかへと顔を背けてしまった。

 その様子を見ていたポールは挙動不審となり、顔を真っ青にしている。


 そういう事だったのか…


「セシリア…お前……」

「ちっ!違うわ!!」

「セシリーもう無理。ムサイも知ってる」

「あぁ…あぁぁぁもう!そうよ、私は好きよ?何が悪いっていうの?!」


 まさかの告白!

 でもポールがかわいそう過ぎて直視できない!


「まて、俺は今うつつを抜かせない…」

「そうだよ。マスターには大事な物がある」


 そう言ってムサイが指さすのは俺のぶら下げた人形だった。

 それは愛情込めて作られたお手製、誰がどう見ても大事にされている代物だった。


「お前…それは!?」

「チッ!バカやってないで来るぞ!スイッチ切り替えろ!」

「「おう!(えぇ!)」」


 俺達の喜劇を見ていたジェル・ジュエルが、俺の人形を見た途端に突然唸りを上げた。

 第二ラウンドはここからだ、負けるわけにはいかない…


 だからみんな頑張れ。

 カッコよく言うが、俺には何もできないからな!!


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