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レストルームは今日も宙を舞う  作者: びたみん
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求心者(デミネーター)

 ビルと朝っぱらから二人で呑んでいると、卓に近づく三人の気配がした。

 それは熟練の雰囲気を醸し出しており、ギルド内でも彼らが歩けば道を開けるくらいだった。


「ビル、待たせたな。全員集まってるぞ」

「おう、まぁ座ってくれ」

「おいおい、俺たちは朝から呑まないぞ。…その御仁は?」

「ふふふっ…喜べ、念願のパーティメンバーだ」


 その一言に俺への視線が集まる。

 それは今来たパーティメンバーだけでなく、ギルド内全員から注視されていた。


「荷物持ちをする事になった増田だ。よろしく」

「あ、あぁ。俺は盾技士のポールだ、よろしく頼む」

「私は短剣技士のセシリアよ」

「ムサイ…」


 ビルを含めて男女二人ずつのメンバー構成だ。

 言葉数の少ないムサイは人見知りが強く、ビルは肩をすくめて助言してくれた。


「仲良くなると楽しい奴なんだがね、ムサイは手斧技士だ」

「俺は装備以外の荷物を持てばいいのか?」

「いや、それはマジックポーチで収納するから大丈夫だ」


 ん?不思議な収納袋があるのか?

 俺はそんなものを貰っていないが、それは貰う前に連行されてしまったせいだろう。


 しかし疑念は後を絶たない。

 自分の荷物を持つなら、荷物持ちがなぜ必要なのだろうか。



「ならば、なぜ俺が必要なんだ?」

「ポーチは一人一つしか持てないから追加ポーチ役だ。“死なない”“捨てない”がマスターの役目だと思ってくれ」


 ふふふっ…それで一割貰えるなら御の字だ。

 雑魚の俺はパーティ全滅時に運命を共にする事になるから、ハイリスクとして返ってくる。


 だがそれも熟練ならばリスクは軽減される。

 俺は今…月が廻っている!


「ビル、ルートは打ち合わせ通りでいいな?」

「あぁヤツは想定通りの動きをしている。ムサイ、砥石の追加はしたか?」

「良い。それと予備武器も追加した」

「セシリアは…」

「私は大丈夫よ。解体用ナイフを彼に持ってもらうわ」


 そう言ってセシリアさんから10本近くのナイフ…それと包丁サイズまで入った革巻きを渡された。

 俺はポーチをギルド嬢から受け取りそれをしまうと、準備は良いらしくビルは立ち上がっていた。


 四人に頷くと、覚悟を決めたように頷き返した。


 ガシャ…ガシャ……


 ギルド内のすべての人間が俺たちを見ている。

 クエストに行くだけで、そんなに注目されるのだろうか。


 外に出るとギルド長…タコ野郎が待っていた。


「ビル、ポール、セシリア、ムサイ…お前たちは人類における宝だ。必ず帰ってこい…!」

「旦那は心配しすぎだぜ。安定の飲酒運転だ、任せてくれ」

「私たちがこの街の安寧を手にするわ」

「殺るだけ殺る…」

「パーティは俺が守る。決めてくるぜ」


 なんか凄い送り出しだ。

 イチイチこんな事をしていては依頼もろくすっぽこなせないだろう。


「なんか盛大だな…ビルの人望は凄いな。ただのビール崩れだと思ってた」

「はっ!一緒にビール飲んでてた奴が言うな。なぁ旦那」

「マスターよ、俺はお前の事を侮っていた。よもや初心者がこんな偉業にチャレンジするとは…」

「…なんだって?」


 俺はただの荷物持ちだぞ?

 ビル達が凄まじいクエストを受注しようとも、俺には一切関係ない。


「ビル達の戦闘は、嵐巻き起こる大乱戦になろう…」

「ーッ!?いやいやいや、どうせ森の主討伐とかだろう!?」

「この地へ侵攻した【求心者(デミネーター)】の討伐…ビルほどの勇者でなければ無理だ!」


 なんだって?!求心者(デミネーター)だって!!


 …なんだそれは?

 どこかの薬の名前だろうか。全くわからん…


「ビル、求心者(デミネーター)とはなんだ?」

「お前のような白いモヤが出た奴の命を狙う者の名だ。覚えておけよぅ。ハッハッハ!!」

「っはっはっは!…じゃねぇ!びっくりだよ!」

「落ち着けよマスター…酒が足りねぇなぁ」


 酒の問題じゃない。

 命の問題だ。


 するとビルは突然笑い顔をやめ、剣呑とした瞳で見つめてきた。

 突然の変貌に俺はチビりそうになる。


「先日の王都騎士団遠征で求心者(デミネーター)の拠点を割り出した。だから直ぐに討伐依頼が来たのだ」

「なん…だとッ!」


 先日の遠征って、俺に極刑が下った凱旋パレードのことじゃないのか!?

 なんたる不運!!


 最初から月なんか墜落してたぜ!!


 そう言えばチータ先輩も遠征でどうのと言っていた。


「いや待ってくれ、昨日今日の初心者が…」


 ガシッ!

 タコ野郎が俺の口を遮るように両肩を抑え込んできた。


「さすが俺が見込んだ漢だ。やる奴だと思っていた!」

「あぁ、酌み交わした時からそうなるだろうなって思っていた」

「このタコ野郎…図ったな!」

「何のことだ?ビルと酌み交わすなんざ、常人には無理だぜ」

「あの酒は俺持ちだ。今度もっと行こうぜ」


 チッ!

 ギルドの酒代で命を対価に置かれちゃたまらん!


 だが…払えないのも事実……

 情けないぜ!!


「ビルには敵わないな。すぐに帰ってくる」

「おう!任せたぞ…」


 大声援の中、俺達…いやビルの勇者パーティは求心者(デミネーター)とやらの討伐に乗り出した。




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