第6話
制服から寮服に先生の魔法で着替えさせられる。ノービレ寮の寮服はキモノというレントランド王国の隣の和心国の服をモデルにしてるらしい。これが普通に可愛い。隣のルミの寮服はグレイ国という国の服がモデル。昔読んだ不思議な世界のアリシアという絵本の主人公であるアリシアが着ている黒いワイシャツにサスペンダーというかたちでとってもかわいい。寮服に着替えたら寮ごとに集まるように指示されたため、とりあえずエミリアを探す。紫、紫、紫と。お、いた。エミリアの元へ走っていき方を叩く。すると驚きながらも抱き着いてきた。
「同じ寮だったのね!うれしいわ!」
私もエミリアと同じように抱き着き返してから寮の人たちの顔を見た。エミリアを除いて知ってる顔が二人と知らない顔が二人か...。あれ、まって。さっきまで保健室にいたやつがなんでここにいるの?まさかの瞬間移動!?口をパクパクさせて呆然としていると、エミリアがそいつを指さす。
「あら、マネアはラトと知り合いなのかしら?」
首をとれるんじゃないかという勢いおいで横に振る。知り合いじゃない。断じて知り合いではない。こんなやつ知らない。
「ああ、そうだよエミリー。さっき保健室で会ってね。兄上から聞いていた通りとてもお転婆な子なんだね。」
...誰こいつ。私がさっきまで話してたやつじゃない。移動手段はとりあえずどうでもいいとして、今目の前にいる奴はなんだ。爽やかな笑顔でエミリアと話している?驚きのまま固まっていると、そいつは私の肩を叩く。
「これから一緒の寮どうし、仲良くしてくれると嬉しいなマネア嬢。」
なんつってなバーカ。
え?今耳に入ってきた言葉と頭に念力?のように伝わってきた言葉が二つある。ぽかんとしているとふたたび頭に言葉が伝わってきた。
ぽかんとしてんじゃねーよブス。
私はそいつの顔を見た。そいつはさわやかな笑顔を周りに振りまきながらも私と目が合った一瞬にやりと笑った。同一人物だ。こいつはさっき保健室であったやつだ。わなわなと込みあげてくる怒りは抑えられない。でも、だ。今こいつは頭の中に直接語り掛けてきただけで言葉にして発したわけではない。だから、私がここでこいつに何かしたら頭がおかしい庶民認定をされ、私を睨む貴族がきっと増えるわけで。我慢だ、マネア・リッター・グロキニア。私は将来騎士になる女。これくらい我慢できるはず…!
「初めまして、マネア・グロキニアさん。私、マリアンヌ・ローズフィリップと申します。」
「わっ!よ、よろしくおねがいします!」
何変なことに気をとられていたんだ、阿呆。怒りを我慢してたところを話しかけられて思わず変な声が出てしまった。というか待って、今目の前の子なんて言った。記憶が正しければ、というより私の耳が聞き間違えてなければ
「ローズフィリップ家…?」
「はい。ローズフィリップ家の長女であるマリアンヌです。」
ラルドさんは現騎士団騎士団長である。そして、ローズフィリップ家は現王妃様の専属護衛騎士の家だ。王様は王妃様を溺愛していて当時の騎士団長であった人を引っこ抜いて王妃様の護衛にしたと、師匠から習った。そんなローズフィリップ家の娘。なんだ、私の代は。そろいもそろってすごい家の人しかいない。なんというか貴族黄金時代てきな何かな気がする。とにもかくにも、強い。ローズフィリップ家とは強すぎる。何が強いかと聞かれたら、騎士になりたい私からしてみればそのステータスすべてが強く感じられた。エミリアから離れて、ローズフィリップ家の人と同じように私は一度頭を下げる。
「マネア・グロキニアです。よろしくお願いします、ローズフィリップさん。」
しばらく返事が返ってこないから、なんだと思ってちらりと彼女の顔を見る。すると顔を真っ赤にして申し訳なさそうに口を開いた。
「…マリアンヌ、いえマリアで大丈夫です。そのかわりマネアとお呼びしてもいいですか?」
可愛い。天使だ。
「大丈夫です。」
即答だったと思う。何よりもここ最近はカノンのせいで貴族だけではなく、庶民の子たちからも一歩引かれていたから身分はどうであれ友達が増えるのは嬉しかった。
後に私はマリアに関する問題解決のために、当時一番仲の悪い奴に頭を下げることになるのだが今の私にそんなことを知る余地はない。