第4話
まずは一つだけ言いたい。貴族の女の子たちって怖いな。
第一王子様との手合わせが終わってから、怖そうに演技する理由を聞いた。理由は今はいない兄の代わりに第一王子になったから、その兄の真似をしてるだけらしい。元々の自分の性格だと、良い王様になれっこない。何でも完璧な兄のように。と思っての結果だそうだ。私から言わせてみれば、めんどくさいな。ぐらいの意見しか出てこない。黙っておいたけど。そんな第一王子は剣がすこぶる苦手である。だが、気軽に誰かにお願いするということが出来なくて悩んでいたところに、図書館での一件があり私に目をつけたということだ。王子っていろいろ大変だな。それぐらいは思った。
そして、放課後に手合わせするようになってから3日。たったの3日で貴族の女子にばれた。私が仲いいエミリアがなんかどえらい貴族様らしくて嫌がらせされることはないが、知らない人から睨まれることが増えた。最悪だ。だが、一度お願いを引き受けた手前やっぱり嫌ですと第一王子にいうことは出来ない。ので、だらだらと剣の練習を続けている。
「すまないな。僕のせいでグロキニアにこんなにも迷惑をかけるとは。」
「別にいいですー。」
これも庶民以下の私が王族に関わってしまったからなのね、なんて悲劇のヒロインみたいなことは考えない。だって、いちよ庶民でもクラスメイトでもありますからー。とりあえずは今度の試験でいい成績残して、第一王子と話してても睨まれないようにはしたい。試験までは後3週間だから、今日から毎日の復習にプラスして試験勉強だ。
「そうだ。王子様」
「いい加減、カノンでいい。剣の練習を始めてから一か月は経つんだ。せめて王子様はやめてくれ。」
「はいはい。」
カノンとはそれなりには仲良くなったとは思う。エミリア、ルミを除くとここ最近は一番一緒にいる気がする。ルミとエミリアには、カノンと私が放課後にあっていると噂が出始めたとき、まぁ本当のことなんだけど、尋問に遭い事の経緯をしっかり話している。カノンからは許可をもらっている。誰に話すのか聞かれて、ルミとエミリアと言ったら何故か頬を赤くして「...ビアンカネーヴァにもか」と言った。ふむふむ、恋愛相談には乗ってあげるからな。
と、まぁそんなことは今はどうでもよくて。今の私には解決しなくてはならない課題がある。それをカノンに聞きたいのだ。ルミたちには「マネアが分からないなら私たちにはわからないわ。」と言われている。
「カノンは宇宙原理学得意?わからないところがあったんだけど、」
「宇宙原理学か。僕は得意じゃないけどラトが得意だったはず。どの問題だ?聞いとくよ。」
「ラト?」
誰だ、それ。少なくともクラスにはそんな名前の人はいない。私のそんな疑問に気づいたのかカノンはため息をついて教えてくれた。
「僕の弟だよ。明日、寮分けの魔法種確認の授業があるから、その時僕と同じ髪色の人を探すといい。それがラトだ。」
へー弟。弟!?一回飲み込んで理解した。私第二王子様の名前しらなかったんだ、てか同じ学年だったのだと。衝撃の事実が襲い掛かる。そういえばそんなことエミリアが話してた気もするが、忘れていた。そんなこと普通忘れるか?確かにカノンも溜息をつくわけだ。
日付は変わり、寮分けの魔法種確認の授業がやってきた。
レントランド王国での魔法とは自身のリアの形状を変化させて現象を起こすことである。リアとは自分の魔法への体力のようなものであり、人によっては最大量が違う。また、人によってリアの形状を変化させやすい、させにくいものが変わり、それによって得意な魔法が変わる。例でいえば、師匠はリアを風に変えるのが得意だがラルドさんは得意ではない。逆にラルドさんはリアを水に変えるのは得意だが師匠は得意ではない。みたいな感じだ。そして、最も得意な魔法を自分の魔法種という。師匠の魔法種は風、ラルドさんの魔法種は水といったところだ。魔法種はリアの最大量が決まってくる10歳くらいに確かめるのが一般的だ。
そして、上位クラスのみ魔法種によって寮分けがされる。先生曰く本人たちの能力を最大限伸ばすためだそうだ。寮では1年から6年の生徒が集団で生活している。だから、ルミと同じ部屋なのは今日までになってしまうわけで。寂しい。とても寂しい。から。朝からルミに引っ付いている。ルミからはうざがられているが仕方がない。同じ学園内にいても寂しいのだ。同じ寮になりたい。
寮は4つあり、男女共同である。
水・炎系のカレイジャス寮
雷・光系のグードシューティヒ寮
力・地系のアンコンケラブル寮
風・音系のノービレ寮
基本的に魔法種はこの8つになる。例外もあるらしいが、その例外のことはよく知らない。まだ授業でも教わってないのだ。寮名はその寮で大切にすべきことを名前としている。グードシューティヒは温厚という意味。だから、グードシューティヒ寮は温厚という言葉を大事にしているということだ。授業でこのことを習ったときはこのグードシューティヒ寮になんとなく入りたいと思った。理由はない。なんとなくだ。だから魔法種は雷がいいな~とは思った。
学園内のホールに上位クラスが全員集まる。1クラス20人のクラスが2つ分、ということで40人いる。
二人ずつ魔法種を確認していくみたいだ。
授業が始まり、一番最初に名前が呼ばれた。私が一番最初だから席順で確認していくのか。一番前に出てくるように指示されたから、座っていた場所から前に出る。隣のクラスの人も一人前に出てきた。
カノンと同じ紫色の長い髪
第二王子はこの人か。カノンよりも女の子っぽい顔。男の制服を着ていなければ男と気づけないかもしれない。第二王子と目が合う。目が合った瞬間、第二王子はひどく歪んだ顔をして睨んできた。意味が分からないが、反射的に同じように睨み返す。先生はそんなことに気づかず、早く来るように声をかけてきた。前には水晶玉があり、そこに手を当てる。私の手の上に手を当てた。そして、先生から言われたとおりに手を当てている水晶を壊すイメージで呪文を唱えた。
「リア・ソロシーバ」
水晶が黒く濁り、割れた。
破片が飛び散り自分のほうに何個か向かってくる。
驚いた顔で先生たちが杖をふり、私の周りには結界が張られ、視界は暗くなる。何が起きてるの。わからない。視界はすぐに明るくなり周りを見渡すと、同級生の人たちが皆眠っているのが目に入った。誰か起きている人はいないのか。必死になって探す。誰か、誰か!だが、数分もせずにひどい眠気が襲ってきた。そして、体はまるで何も意思を持たない無機物のように地面に打ち付けられる。抗いたいのに抗えない眠気。いったい何が__________