第2話
そして私が魔物に襲われてから6年が経ち、学園に入学する日がやってきた。レントランド王国では、貴族王族平民関係なくヘスティア学園という国で唯一の学園に通うことになっている。学園は最短で2年、平均して4年、最長で6年間学園に通う仕組みになっていて、すべての生徒が寮で暮らすのが決まりだ。2年で卒業する人たちは大人になったとき魔法や武器を使わない職業になることが決まっている貧しい人たち、4年で卒業する人たちは普通の人たちや貴族たち。そして6年間学園に通う人たちは王族か天才かだ。ちなみに普通の人達というのは、この国の6割の人口を占める商家の人たちのことだ。私のように騎士になりたいと考えている子たちは最低でも6年間この学園にしがみつくこと、それが最低条件で、その中から主席か次席か3席か、というぐらいに優秀な成績をのこさなければ騎士になることは出来ない。私は死ぬ気で6年間勉強し続けなければならないのだ。
私は施設の自室、といっても複数人の共同部屋だが、そこで入学前に届いた真新しい制服に着替える。そして、施設の先生や友達ではなくある人に見せるために施設の玄関まで走っていき、外に出た。
「師匠!制服、似合ってますか!」
「そんなに急いで来なくても私も団長も逃げませんよ、マネア。」
「わかってるけど、いち早く師匠に見せたかったんです!!どうです?似合ってますか?」
ある人、というのは私に剣を教えてくれた師匠であるテラ・ヘクシリアだ。師匠は騎士団所属の騎士であり、魔物から助けってもらったあの日に騎士団長を追いかけまわして弟子にしてくださいといい続けた私を騎士団長の代わりに弟子にしてくれた男性だ。テラの師匠は俺だからお前も実質俺の弟子だよ、だなんてまたもや騎士団長にうまく誤魔化された私。最初の頃は不満ありげに剣を教わっていたが、師匠は教えるのが上手いだけでなくすごく優しかった。だからすぐに大好きになったし、年齢も近かったから兄のようにも思えた。だから、結局は師匠が師匠でよかったのかもしれない。師匠から剣に関することを学ぶたびに私はメキメキ成長していった自覚もある。師匠は薄緑の髪をハーフアップにしていて顔は女の子っぽい。だから、最初の頃は割と真面目に師匠のことを女と勘違いしていて彼氏はいるのかとかしょっちゅう聞いていた。実際問題いたら、何かと疑問が生まれてしまうのだが師匠には彼女も彼氏もいなかった。
「マネア。貴方の剣は同年代の中で一番優れていると私が保証します。胸を張って学園で学んできてくださいね。」
「師匠・・・!!」
私は勢いよく師匠に抱き着いた。考えてみれば、師匠に出会ってから毎日のように稽古をつけてもらっていた。師匠に会えなくなるのはかなり寂しいのかもしれない。師匠を堪能して、何故か一緒にいたラルドさんにも挨拶した後、施設のほうへ振り返りみんなに手を振る。そして空間転移魔法を展開させた。空間転移魔法は高度な魔法であるから、私には使えない。じゃあ、なんで空間転移魔法が使えるのかというと制服とともに送られてくるきれいな石に魔法が込められていて、その石を砕くことで魔法が展開されるのだ。自分の身体は学園へ、そして荷物は寮へ。随分と楽な仕組みだ。
石を砕いてから瞬きを一度した間に魔法は完了し、目の前には見たことがないくらい大きな建物。私は自分の手を握って剣を構える姿勢をとった。師匠からならった騎士団の敬礼だ。ヘスティア学園の最初の行事であるクラス分けテスト。入学式より前に行われ、6年間学園にいたいなら上位をとって特別クラスに入らなければならない。このテストがきっと人生で初めての踏ん張りどころ。
私はリンシャからもらった髪飾りを握りしめた。一種の願掛けのようなものだ。絶対に成績上位に入って見せる。私は何度も頭の中でその言葉を復唱してから試験会場へと入っていった。