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第七話 初勝利の余韻

 遂に初勝利を遂げた月美と舞。ここで一度、各自の持つ情報の共有を。

 月美は自室でパソコンに向き合っていた。その画面には、今日アースから聞いた内容が纏められている。その内容に不備がないかを確認しつつ、アースと舞との会話を振り返る。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 どうやらアースも知っていることはそう多くは無いようで、今回は主にアースの持つ情報の整理が行われた。既に明かされていた情報もあるが、今までの振り返りも兼ねて全て書くと以下の通り。


・怪物の目的は不明。

・怪物は月美達の精神体と同じように、物理的概念を持たない。

・アースは守護神のような存在であり、彼の目的は地球を守ること。

・アースは、怪物によって起こされる被害がどのようなものか分からなかった為、様子見の為に時間を止めた。

・現状止まった時間のことを知覚出来るのは、怪物、アース、月美、舞のみ。

・現在は仮の結界を張って、敵の侵攻のペースを抑えている。しかしそれは12月辺りには張り直す必要がある。

・月美と舞の力の根源は何なのかは分からない。

・現状、怪物に効果があるのは月美と舞の力のみである。


 要は、分からないことが多過ぎるということが分かっただけだったという訳だ。そんな中、舞が意外な提案をした。


「なんか怪物とか力とか、似てるみたいで別のが出て来た時にややこしくなりそう。せめて、名前とか付けないかい?」


 そんなことがあり、怪物はアースという神に等しい存在に歯向かう虚なる精神体ということで「デビルホロウ(虚な悪魔)」と、月美と舞の力はその悪を祓うものとして「聖因子」と名付けた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 こうして回想と確認を終えた月美はパソコンを閉じる。この会話をしてから学校の授業を終え、こうして自宅に戻るまで数時間が経ったので、何か書き漏らしがあるかもしれないとは思ったが、そのときはそのときだ。


ーそれにしても…あの子の着眼点には驚かされたわね。私は、あの子のことを何も知らない。もう一度、いえ、これからは積極的に接触していった方が良いのかしら?


 そう考えて、月美は自分自身に苛ついた。今回の件で、舞も敵側だという疑念はほぼほぼ無くなっていた。もし仮に舞が敵側ならば、既に蛾型の怪物によって月美は殺されていたはずだから。それでも、今回協力したのは月美に情報を集めさせる為で、月美を利用して新しい情報を集めさせてから殺す為に近付いた可能性も0ではない。そして、月美が自分自身に苛ついた理由。それは、自分がブレていることを理解していたからだ。前述した通り、月美はまだ舞を完全に信用したわけでは無い。これは、生まれた環境に起因するものだ。


『立場や金に頼って、自分を過信するな。怠けるな。今の立場や金を保つ為、他人以上の努力をせよ。』


 たとえ今は諸事情があり力を持っていないとはいえども、幼少からの叔父の言葉は頭から消えることは無い。自分が騙されたら、金城の名に傷が付く。そんな環境で育ったが故に、100%の確証が無ければ信じられない。

 しかし今、月美は舞を信じたいと思っている。そんな、らしくもない矛盾を抱えている自分に嫌気が差す。

 彼女はバックから砂時計を取り出す。止まった時間の中で使用していた拳銃の聖因子の残量を表示する機能を、進んだ時間でも使えるようにする為のツール。そして月美の肉体とリンクし、時間が止まった際には精神体を作る機能も兼ね備えている。砂の2割ほどが落ちている。アース曰く、時間経過で聖因子は回復するはずとのことだ。


ーただそれは、アースを信用するならの話だけれど。


 舞だけでなく、アースも仲間であるとは限らないのだ。彼の目的が地球を守るという極めて抽象的なものである為、舞よりも信用ならない存在だ。


ーもう既に、乗り掛かった船。騙されるぐらいならこっちが裏をかいて利用するぐらいの気持ちで挑まないと、きっと死ぬ。


 今後も二人が信用に足る存在か見極めつつ、敵と判断したら欺いて切り捨てるという方針を立て、パソコンを閉じた。一度目を瞑り気持ちを入れ替え、宿題を始めた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 舞が自宅の扉を開く。いつも通り「ただいま。」と言いかけた口を、玄関に靴が無いことに気が付いて閉じる。


ーあ、そっか。今日お父さん、編集さんと打ち合わせって言ってたっけ。


 などと考えつつ、バックを床に置く。片付けを進めるにつれ、少しずつ鼓動が早まる。


ーそうだ。宿題、しなきゃ。そうしないと、アレが始まっちゃう。今日の宿題は…


 急いで宿題を思い出そうとする。鈍い頭痛。我慢出来ないものでは無かったが、宿題を思い出すのを阻害するには充分なものだった。少しずつ意識が薄れていく感覚。それから、何かが近づいて来るような気配も。


ーやだ‼︎来ないで‼︎ボクはボクなんだから‼︎


 耳を塞ぐ。目を閉じる。しかし、それでも気配は消えない。


ー来ないでなんて、白々しいじゃないですか。


 声が聞こえた。気配はある。その気配をもとに部屋を見回すが、それでも姿は見えない。その気配の正体を知っている舞にはそれが当然のことだと分かっていた。耳を塞いでも、意味など無いことを。


ーそれにしても、久しぶりですね。言いたいことがたくさん溜まっちゃいましたよ?


ー言わないで‼︎どっかに行って‼︎


ーそれが出来ないことは、アナタが一番分かってますよね?


 なんとか気をそらす為にリュックを漁る。宿題への糸口が見つかれば、今日の宿題を思い出せるかもしれない。宿題を思い出せれば、声が消えるかもしれないと思ったから。


ーふーん。逃げるんですね。いつもみたいに。


ー逃げる?なんのこと?


ーそんなの、ワタシに言われなくても気付いてるはずです。アナタは、『あのこと』から逃げてるじゃないですか。でも、良くないですよ。逃げ道に影山さんを使うなんて。


ーボクは、利用なんてしてない‼︎ボクはただ、本気で月美ちゃんが好きなんだ‼︎


ーえぇ。それは分かってます。けど…


ーうるさい‼︎どっか行って‼︎


ーまだ何も言ってませんよ?でもアナタは、ワタシが何を言いたいか知ってる。


ーそんなの知らないよ‼︎


 リュックを探る手は乱雑になっていた。動揺していて、表紙の文字も読めない。指に軽い痛み。紙で指先に浅い切り傷が付いたようだ。


ーいいえ、絶対知ってます。だって、ワタシがアナタなんですから。


 一つの影。ゆっくりと見上げると、今日初めて会った白い男。


「…どこから、入ってきたんだい?」


「私は地球上であれば、好きなときに好きな場所に顕現することが出来る。」


「すごいね。流石は地球の守り神サマだ。」


 白い男、アースの現実離れした発言に苦笑いしつつ返す。声はもう、聞こえなかった。指先の怪我を思い出し、傷口を舐める。指をくわえたまま台所に向かい、指を洗う。そしてコップを取り出して水を飲んだ。背中にかいた嫌な汗を服で拭う。


「それにしても、先程の君は異常だった。」


「あのさ、アース。健全な思春期の若者であるボクにプライベートはないの?」


 引きつった作り笑顔。そんな舞を真顔で見つめるアース。ごまかそうとしていることなど分かっていると言っているように見えた。


「…月美ちゃんといいアースといい、なんか察しが良すぎないかい?」


「君が、嘘をつくのが下手なだけだ。」


 恨めしげに「そーですか。」と言いつつ、ちゃぶ台の側に座る。


「いつからだっけな。一人っきりになると、たまーになんだけど、声が聞こえるんだ。ボクだけにしか聞こえない、ね。」


「どういったものだ。」


「…聞こえるって表現は、あんまり良くないかもしれないね。自分が心の底で思ってることが胸から溢れ出るみたいに、心を抉って来るんだ。それはまるで、ボクだけにしか聞こえない声みたいに。」


 そう。先程の声の正体は、舞自身のものだったのだ。だから、探しても見つかるはずなど無いというわけだ。


「なるほど…」


 それを聞いて、何やら考え込むアース。舞はそんな彼のズボンの裾を軽くつまむ。


「…なんだ?」


「お願いが、あるんだ。」


「ほう?」


「1つは、このことを月美ちゃんには言わないでってこと。好きな娘に、あんまりカッコ悪いとこ見せたく無いからさ。」


「もう1つは?」


「父さんが帰って来るまで、ここにいて。アースならすぐここから離れれるから、父さんに見られないでしょ?…きっと、今一人きりになったら、またアレが来るから。」


 アースは無言で座った。それが舞の要望を受け入れていることを指していると理解した舞は呟くように「ありがと。」と言い、ちゃぶ台に突っ伏した。

 少々舞にも不穏な空気が…?

 ジカンヨトマレから見てくれている方にとっては、作品の設定を思い出すきっかけになったのではないかと。

 次回は11月15日に投稿する予定です‼︎

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