第四話 得体の知れない力
第四話です。今回からジカンヨトマレにも登場していたキャラが参戦します‼︎
舞と別れて電車を乗り換えて最寄駅に着き、家へと向かう月美。彼女は理由も分からないまま巻き込まれた自身の数奇な運命に関して考えながら歩く。
ー私は…そして、木村舞は、一体何者なの?何故私達だけが、あの止まった時間を…
「あ、月美ちゃ〜ん。奇遇だねぇ。」
そんな月美の目の前に現れたのは、眼鏡をかけた一人の少女。月美の従姉妹である金城愛だ。神名市に強大な影響を及ぼす「金城家」の一人。
そんな彼女の手には、様々な新品の実験器具が入ったビニール袋が握られていた。一見、買い物帰りのように見える。しかし、月美はそれを見ただけで大体の事情を察してしまう。
「…わざわざこんなところまで来て、私に一体何の用ですか?」
「え〜?奇遇って言ったじゃ〜ん。ほらぁ、これを買いに来ただけでさぁ…」
「それぐらい、神名市でも買えますよね?なのに何故わざわざこっちまで?」
愛の行った雑な理由付けは一瞬で看破されてしまう。どうやら、彼女は買い物をする為に来たところでたまたま月美に会ったように見せようとしているらしい。だが、本当の目的が月美に会うことだということぐらい、簡単に分かる。そうでなければ、このような荷物の量なのに付き人が一人もいないというのは明らかに不自然だから。軽く視線だけで周囲を確認した限り、隠れてこちらの様子を伺っているような人物は見当たらない。こちらからは見えないほど遠くの建物から双眼鏡などで様子を見られているという可能性も否定出来ないが、金城家の従者が即時干渉出来る位置にいないことから、「金城家の長女としての金城愛」としてでは無く、「月美の従姉妹としての金城愛」としてここに来たようだと判断する。
「…ちょ〜っと、話したいことがあって〜。」
「…分かりました。場所を変えましょう。」
従者に邪魔されないので、愛の要望を拒否して走って逃げて家に逃げ込むことも考えた。だがもしものときのことを考えると、あまり関係を悪化させるのは得策では無いと判断する。実際は拒否したところで、月美に悪印象を持つほど愛の器は小さくないことなど、月美は良く知っているのだが…
二人は会話もせず、黙って月美の家の近くにあるカフェへと向かう。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
カフェにたどり着くと、ランチタイムを過ぎて空いている時間帯だったからか、二人は四人席へと案内された。恐らく多くの荷物を持つ愛への気遣いだろう。愛と月美は向かい合う席に座り、愛は隣の席に荷物をそっと置いてからメニュー表を広げる。
「月美ちゃんは何か頼む〜?」
「…いえ、出先で食べてきたので。」
「そっかぁ…」
そう呟きつつ愛は店員を呼び出して、コーヒーを二杯注文する。彼女がコーヒーしか頼まなかったことから、そう長い話では無いだろうと判断し、内心安堵する。
「…それで愛さん。話とは何ですか?」
なるべく早く用を済ませたい月美は、余計な回り道を許さずに本題を聞き出そうとする。それが、ボロを出さない一番の方法だから。
「あ、そうだったねぇ…ちょっとした〜、お願いがあってさぁ。」
「お願い?命令では無く?」
意図的に冷たい声で問いかける月美。聞かれた愛は、「うん、ただのお願いだよ。これは命令なんかじゃない。」と、目を伏せて答える。
愛も、ずっと前から知っていたはずだった。月美が、愛に対して。仁美に対して。そして「金城家」に対して。常に見えない強固な壁を作っていることを。それでも。いくら分かっていても。悲しいものは悲しいし、辛いものは辛い。
そんな愛の様子を、月美は必死に気付かないふりをしながら簡潔に答える。
「そうですか…分かりました。話は聞きます。愛さんの要求を受け入れるかどうかは、その内容次第ということで。」
「うん。ありがとう。じゃあ、言うねぇ?仁美と、同じ高校に…」
「ごめんなさい、お断りします。」
その要望の用件を理解すると、月美は最後まで言い切ることを許さずにすかさず断る。
「…どうしても、駄目?」
「もし仮に、命令と言われていれば従っていました。」
月美は、愛の性格を理解した上で冷たくそう言った。命令だと言って月美を強引に仁美と同じ高校に行かせることなど、愛の立場上では簡単なことだ。それでも、愛はそれを選ばない。月美のことを、大切に思っているから。
「そっかぁ…理由だけ、聞いたいんだけど〜…良いかなぁ?」
「理由が無いからです。仁美と一緒の高校に行く理由が。」
それを知っていても、いや、知っているからこそ彼女は愛を突き放すことを選ぶ。確かに愛は月美のことを大切に思っている。しかしその優しさは、罪悪感から生まれたものでもある。昔の出来事から生まれた罪悪感。
今回の件。愛の様子から察するに仁美を孤立させないことが目的だろう。仁美の立場を考えれば、そうなることは容易に想像出来る。彼女はいずれ金城家を纏める者となる身として、愛を始めとした自分の家族以外の誰も信用しない。万が一信用してしまった誰かに騙されて、弱みを握られることは決してあってはならないから…
確かに愛が言う通りる仁美を孤立させないことが一番の目的だろう。だが、愛にはこれに負けない程大きな目的があることを月美は理解していた。それは、月美も孤立させないこと。月美も仁美も、考え方の本質は似ているのだ。とある人間から影響を受け、他人と壁を作るようになったのだから。
月美が冷たく言い放った言葉の余韻が去り、店員が頼んだコーヒーをテーブルに置く。愛はミルクと砂糖を多めに入れ、月美は何も入れずにそのまま軽く息をかけ冷まし、一口飲んですぐ口を離してまた息をかける。
「どうしますか?お願いではなく、命令だったことにでもしますか?今なら訂正を受け入れますが…」
「うんん。それはしない。」
「そうですか。」
静かに吐き捨てるように答える月美。別に命令されたらされたで、さして大きなデメリットがあるわけでもない月美にとっては、愛の返答に耳を傾けることに大きな意味は無かった。
結局月美は吐息だけでコーヒーを冷ますことを諦め、たっぷりとミルクを入れて強引に冷まし、一気に飲み干す。その大量のミルクのせいで甘く変わってしまった味が気に食わなかったのか、それともこの会話へのストレスなのか、彼女は軽く眉をひそめてしまう。
「とにかく。今回の件は無かったことに…自分の分は自分で払います。お代はいくらですか?」
「…いやぁ、私が強引に付いて来させちゃったんだからさぁ。私が払うよ〜。」
「分かりました。それでは、今回はお言葉に甘えさせて頂きます…失礼します。」
言い終わらぬ内に彼女は立ち上がり、急ぎ足で店の出入口に向かう。一度店員に止められかけるが、上手く愛が二人分払うということを伝えて店を出る。そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、愛はゆっくりとコーヒーで喉を潤す。
「…ダメかぁ…」
机に突っ伏してそう呟く。愛の目的は、全て月美が想像した通りだった。仁美と月美。両方を孤立させないこと。それが、自分が二人にかけてしまってきた様々な負担への、彼女なりの償いだった。
「…ちょ〜っと、欲張り過ぎだったかなぁ?」
残されたカップを見つめていると、店員がこちらにやって来た。月美の使用したカップと、いつの間にか空になっていた自分のカップを回収しに来たようだ。
他には客のいない静かな喫茶店。テーブルの上が空になり、どこか居心地の悪くなった彼女は勘定を済ませて神名市へ戻って行った。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
月美は急ぎ足で家に帰ると、直ぐに自室へと向かった。自室に辿り着くと、枕を掴み、振り上げてベッドに叩きつける。月美の中に渦巻く感情をあざ笑うかのような軽い音。
ー何なの?今日は…訳が分からないことばかり起きる…
時間が止まって時点で溜まりきっていたストレスが、愛との会話を経て限界を迎える。
というのも、月美は金城家に関わる際、特に愛と関わる際には常に最適な発言を思考している為、精神的な負荷がかかるのだ。
訳あって、愛に優しく接してはいけない。厳しく接してはいけない。常にその中間にある最善の選択肢を選び取る必要がある。その思考だけで無く、愛を傷付けているという罪悪感も月美を苦しめる。
ー今は何から対処すべき?愛さんが一度で諦めるとも限らない…その対策をすべき?それともあの止まった時間の停止の解明が先?どちらもまた起きるかどうかは分からない…仮に起きたときにリスクが高いのは時間の停止かしら?ただ…調べるにしても方法が思い当たらない…
「とりあえず…現状は、どこかで木村舞が情報を手に入れて、それを流してくれることに賭けるしか無いのかしら?」
自分で言ったものの、奇跡的にそのような状況が起こる可能性がどれだけ低いかを考えて自虐的に鼻で笑う。この、藁にもすがるしかないような今の状況を。
仕方がない話なのだ。仮に行動をするにしても、あまりにも情報が、手がかりが足りない。
そんなことをこれ以上考えるのもどこか馬鹿らしく思えて、彼女はベッドに潜り込む。溜まりに溜まった疲労が月美を眠りの世界に誘うのに、そう長い時間はかからなかった。
今回から影山月美の従姉妹にして金城仁美の姉、金城愛が登場しました。ジカンヨトマレでの月美と愛の関係とどう違うのか…その辺も見ていただけると嬉しいです。




