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第三話 大好きなキミの為に

第三話。舞の予想外な告白を聞いた月美は、一体どのような答えを…

 1人の少女の、目の前にいる月美にしか聞こえないような小さな声が紡いだ告白の言葉が、月美の鼓膜を振動させる。


「ボク、ね…月美ちゃんのことが、好きなんだ…その…恋愛的な意味で。」


 唐突な舞の告白。それは、自分がしていた想像の遥か上を行く発言で。聞いた月美は、当然ながら戸惑い…


「…そう。どう、反応すれば良いのかしらね…」


 と、ついつい素で答えてしまう。そんな彼女に似合わない、明らかに動揺している反応を返した月美の姿を見た舞は安堵したように少し口の端を吊り上げる。


「何が面白いの?」


 その様子に気付いた月美が、舞に冷たい視線と言葉を浴びせる。自分がふざけていると、月美のことをからかっていると誤解されたかもしれないと思った彼女は慌てて訂正する。


「いや、今の様子とか見てたら、実は脈アリかもって。ほら、もしも完全にダメだったら普通即答するはずだし、月美ちゃんがボクの想いをちゃんと考えてくれただけでも充分嬉しいしありがたいなって…キミのこと、もっと好きになっちゃったよ。」


 満面の笑みを月美に向けて言う舞。あまりにもポジティブ過ぎる彼女を見て、月美は半ば呆れてしまう。


「私があなたを?あり得ない。あなた、変人なの?」


 しかし、そうして呆れながらも、口ではそう言いながらも。彼女は考え込まずにはいられない。舞の言葉は理にかなっているからだ。彼女の言う通り、完全にダメなら確かに即答するはずだ。はっきりと言おう。影山月美の価値観の上では、舞に付き合って欲しいと言われても、現時点ではその答えはNO一択だ。繰り返し言おう。これはあくまでも、現時点ではの話だ。

 それでも彼女は、何故か今直ぐに答えを出してはいけない気がした。ちゃんと目の前の少女のことを理解してから、いつかは答えを伝えなければならないと。考えることから逃げて、固まった現段階での価値観やルールだけで簡単に答えを出してはいけないと。胸が疼くような感覚。


「あ、好きだって言ったけど、別に返事は強要しないから…」


「こっちの話を聞きなさいよ…それに、そういった発言は、逆に相手の焦りを生むのよ?」


「あぁ、ごめんごめん…」


 二人はそれから、黙って食事を済ませた。その中で何度も、お互いの方を見て、話しかけようとするもそれを諦めて、また黙って食事を進めるというやりとりが行われた。結局話し合いとじゃんけんの結果、自分の分は自分で払うということになった。その後、店を出てから連絡先を交換し、二人は駅に向かって歩き始めた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


ー本当に、これで良かったのかしら?現状、あの止まった時間を認識していたのは、私の知っている限りだと彼女だけ。だから、今後情報を交換する機会は絶対に来るはず。その前提を元に、私はこの子と連絡先を交換した。でも、少し軽率過ぎたかしら?まだ彼女が私と同じ立場だと決まった訳じゃ無い。最悪の場合、時間が止まってあの怪物が現れた元凶の可能性も0じゃない。でもこの子の前では何故かは分からないけれど、どうも調子が狂う…


「どうしたんだい?月美ちゃん。怖い顔になってるよ?」


 電車の中で考え込む月美。そんな月美は、彼女の顔を覗き込むように見て話しかけてきた隣の席に座る舞と目が合う。どうしても彼女が敵には見えなくて。月美はそんな自分の甘さに、小さくため息を吐いてしまう。


「別にどうもしないわ。少し考えごとをしていただけよ。」


 窓の外を見ながら呟くように言う。離れていく神名市の景色。その中心の地区で、一際目立つ金城邸から軽く目を背ける。


「なら良いや。それより、来週は空いているかい?」


「まぁ、空いてなくは無いけれど、あまり長い時間を外で過ごすのは避けたいわね。まだまだ期間があるとはいえ、少しずつ受験も近付いている訳だし。」


「えっ⁉︎じゃあ、やっぱり月美ちゃんボクと同学年なんだ‼︎どこの高校受けるの⁉︎分からないところとか聞いて良い?」


「あのねぇ、その為に連絡先を交換した訳じゃ無いのよ?」


 舞の呑気にはしゃぐ様子に呆れる月美。もはやこの重なる月美の舞への呆れが、「木村舞はこのような人物である」という諦めの境地に至るのも時間の問題だろう。


「えぇ?良いじゃないか、少しぐらい‼︎」


 月美はスルーを選択。会話が途切れて辛くなったのか、少し月美に近付く舞。しかし会話が再開することはなく、月美が乗り換えに利用している駅に到着してしまう。


「…じゃあ私は、この駅で乗り換えだから。」


「そっか。じゃあ、またね。」


 舞は電車から降りる月美に軽く手を振る。それに気付いた月美はやれやれといった様子で軽く手を振った。電車のドアが閉まる。残された舞は、そっと月美の座っていた席に触れる。その温もりが確かにあったのだと、夢では無いのだと確かめるように。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「ただいま〜‼︎」


「お〜う、おかえり。」


 舞が家に帰ると彼女の叔父、木村啓二が彼女を出迎えた。


「…ちょっと父さん?何してるの?」


「ん?あぁ、ちょっと酒飲んでる。」


 部屋の真ん中にあるテーブルには、3本のビールの空き缶。


「これでちょっと?…体壊しちゃうよ?」


「いいか?舞。酒ってのは薬なんだよ。薬で体を壊すわけないだろ?」


「お酒は薬じゃないし、仮に薬だとしても薬には副作用ってのがあって…」


 そう言いながら舞はゴミ袋を取り出し、中身が空かを確認しながら空き缶を片付け始める。


「あぁ分かったって…このやり取り何回目だ?」


「さぁ。繰り返し過ぎて、もうボクにも分からないよ…」


 そんな舞の責めるような言葉を聞こえないフリをしながら。啓二は膝をさすりながらゆっくりと立ち上がる。覚束ない足取りで歩き、まだ開けてないビールの缶を二本、仏壇の前にそっと置く。


「…ちょっと年寄り臭いよ?今の立ち方。父さんもまだまだ若いんだしさ…」


「まだ若いって、俺なんてもう若いなんて歳じゃねぇし、何よりお前の方が若いだろうが。あーあ、そろそろ仕事でも始めっか…」


 嫌そうに言いつつ啓二は使い込まれたパソコンを開く。その画面の中には、大量の文字の羅列が並んでいる。


「締め切り、近いの?」


 舞はゴミ袋の口を緩く結びながら聞く。啓二はその舞による指摘で向き合いたくなかった現実に向き合わされ、露骨に顔をしかめつつ答える。


「明々後日だよ。」


「ビール飲んでる暇なんてないじゃん‼︎」


 気怠げに「こんなの、飲まなきゃやってらんないんだよ。」と返しつつ、啓二は作業を開始する。彼は小説家だ。誰でも知っていると言える程有名では無いが、誰も知らないと言う程無名でも無い。中堅と言ったところだろうか。

 リズムを刻むようなタイピング音だけが部屋に響く。たまに止まり、啓二の唸り声を挟み、またリズムを刻む。


「なぁ、舞。」


 しばらく書き進めたところで、ふと思い出したかのように啓二は舞に話しかけた。


「ん?何?」


「俺もさ、もーそろそろきちんと定職に就いた方が良いのかなって思ってんだけど…そこんとこどうよ?」


「いや、いきなりどうしたの?」


 啓二はキーボードを叩き続けながら喋る。目線はデスクトップから離さない。


「今更かもしんねぇけど、この仕事って給料不安定だろ?」


 言い訳を絞り出すように「まぁ今まで充分本を出してき訳だし、次の仕事が決まるまでは今までの貯金と印税でどうにか食い繋げれるだろ?」と補足する。


「うーん、今の仕事を続けるのも、新しい仕事を始めるのも応援するけど…ホントに今更って感じだね…」


 苦笑いしながら答える舞。しかし、心の中では小さな不安を抱えていた。


ー父さん、もしかしてボクの為にもっと給料の高い仕事を始めようとしてるのかな?今、こうやってボクのことを育ててくれてるだけでも…充分なのに。


 そんな不安を口にすることは躊躇われた。何年も一緒にいる仲だが、お互いに取るべき距離感を未だに掴めていないのだ。お互いの性格を理解していないからでは無い。理解しているからこそ、お互いに気を使いすぎているからこそ、不用意に踏み込めない。特に啓二は、舞の心と体の性別が違うことも知っているから…


「ちなみに次の仕事の候補って、どんな仕事を考えてるの?」


 啓二は少し考えこむ。舞が感じる嫌な予感。その予感が当たってしまったことは、次の啓二の発言が物語っていた。


「そこんところは、これから仲良く二人で考えようぜ‼︎」


「あのさぁ…ちゃんと決めてからそーゆーことは言ってよ‼︎だいたい、締め切りのことも…父さんは計画性が‼︎」


「分かった分かった‼︎気を付けっから‼︎」


 わざとらしく首をすくめる啓二。と、舞がベランダに視線を移す。


「あぁもう、洗濯物も干しっぱなしじゃん…取り込んどくね。」


「あ〜、もう乾いてっかな?一応確認してからにしてくれ。」


「分かった〜。」


 このように、距離が空いてるなりに上手くやっていけているという現状がお互いに踏み込もうという気力を削ぐ要因となってしまっていることには、二人とも気が付いていないようだ。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「木村舞。2月3日生まれの中学3年生。小学2年生になる前の春休みに交通事故に遭い、両親を失う。現在は本来の父親の弟、木村舞から見て叔父にあたる木村啓二を父として、お互い距離感を掴めないまま二人暮らし中、か。」


 そんな二人を姿を消してはるか上空から見つめる者が一人。彼の名はアース。この地球を守る。それだけの為に動き、存在する者。


「いつ、彼女はあの謎の力を手に入れた?もう一人の影山月美もだ…手に入れた原因は今は後回しにしよう。まずはあの謎の侵略者の排除を優先するべきだ。出来るだけ早めにあの二人との接触を開始したいものだが…第三者に見られては面倒だ。さて、私はこれからどう動くべきか…」


 傍観者は思考する。自分が守るべきものを救う為の最善の一手を。

 この作品の軸の一つである、「木村舞の影山月美への恋」が動き始めました。ジカンヨトマレから見てくれている方は、この恋の結末は察しているかもしれませんが…

 結末を知っている方も、ジカンヨモドレから見てくれている方も、2人の関係の過程を見てくれるとありがたいです‼︎

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