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EX02 「ZFILE>>secret>>log01.mp3」

『ね、月美ちゃん。これからどこ行く?』


『それはあなたが決めて頂戴。今日は、あなたの意思を優先したいの。』


『あなたじゃなくて舞‼ボクのこと、︎ちゃんと名前で呼んで‼︎』


『それもそうね。それで、舞はどこに行きたいの?』


『うーん。そう言われると悩むね。』


『研究的にはぁ、食欲とかがどうなってるかが知りたいかなぁ。』


『だったら、あそこに行こうよ‼︎』


『あそこぉ?』


『あぁ、私が分かるので大丈夫です。愛さんも来ますか?』


『後から話が聞ければ良いかなぁ。二人共、よろしくね〜?』


『了解ですっ‼︎やったね月美ちゃん‼︎久しぶりのデートだ‼︎』


『声が大きい。舞からはこまめに身体の調子を聞くよう心がけます。何かあったらすぐ電話をするので、いつでも対応出来るように準備しておいて下さい。行くわよ。舞。』


 カタッ。コツコツ。ガチャッ。


『ちょっと‼︎待っておくれよ‼︎そんなわけで愛さん‼︎行ってくるね‼︎』


『いってらっしゃ〜い。二人共、気を付けてねぇ。』


『は〜い‼︎』


 ガタ‼︎パタパタ‼︎ガチャン。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


『意外と、この店に来るのはまだ二回目なんだよねー。』


『あの頃は、まさかまた舞とここに来ることになるとは思わなかったわ。それどころか…』


『ボクと友達になるなんて想像すらしなかったかい?』


『えぇ。不審な人物から、暫定的な友人。そこから、普通の友人に。そして今では、かけがえのない大切な友人に。』


『そんな真っ直ぐ言われると、照れちゃうじゃないか。』


『それで、空腹感は?』


『いきなり事務的だね。とりあえず、今のところは問題無いよ。ちゃんとお腹も空いてる。』


『一応釘を刺しておくけど、強がりはよしてちょうだいね。最終的に痛い目を見るのは舞だけじゃ無いのよ。』


『分かってるって。心配性だな。』


『そんなわけじゃ…』


『それじゃ、罪悪感?』


『…』


『図星かい?』


『そうよ。けれど、罪悪感を抱いているのはお互い様でしょう?』


『そうだね。ボクだって、月美ちゃんの気持ちを考えずに動いたのは、本当に悪いと思ってるよ。考えれば、分かったはずなのに。月美ちゃんが、気に病んじゃうってこと。』


『けれど、あなたの行動と意思を、私は否定出来ない。立場が逆だったら、私も同じ道を歩んでいたかもしれない。』


『うん。ボクも、悪かったとは思っても、やらなきゃ良かったとは思ったこと無い。あのときボクが、月美ちゃんを助けたいって思った気持ちは、本物だから。だから、また同じような状況になったら、ごめんねって思いながら同じことをするよ。』


『…舞。あなたは…』


 …ツコツコツ。


『お待たせしました。カルボナーラでございます。』


『あ、それボクの。ありがとうございます‼︎』


『ごゆっくりどうぞ。』


 コツコツコ…


『何か、言いかけてたよね?』


『今すぐすべき話でも無いわ。それより、今は味覚の確認の方が重要よ。』


『そうかもしれないけど…』


 …ツコツコツ。


『お待たせしました。ペペロンチーノでございます。』


『私のです。』


『以上でおそろいでしょうか?』


『はい。ありがとうございます。』


 カサ。コツコツコツ…


『私のものも来たし、早く食べましょう。』


『う、うん…』


 カン…カチャ…


『うん。きちんと味も感じる。美味しいよ。』


『そう。良かったわ。もう少し食べたら、空腹具合がどうなったかも教えてちょうだい。』


『うん。』


 カチャカチャ…カチャ……クスッ


『今、笑ったかしら?』


『うん。ちょっと。ほら。あの日のことを思い出してさ。』


『そう言えば、あの日もこんな風に黙って食事をしたわね。』


『あのときは一世一代の告白をした直後の沈黙だったから、嫌われちゃったかと思ったよ。』


『実際、あの頃はあなたのことは信用していなかった。』


『ひどいなぁ。』


『あれに関しては、あなたにも非があるでしょう?あんなにもこちらを見てたら、誰でも警戒するわよ。』


『そんなもんかなぁ…』


『そんなものなのよ…』


 カチャカチャ…カチャカチャ…


『一口ちょ〜うだい。』


『えぇ。良いわよ。』


『ありがと。』


『それで、身体の感覚に違和感は?』


『特に無いよ。それにしても、またこうやって月美ちゃんとご飯を食べれるなんて。』


『…今日が、最後かもしれないわよ。』


『そうならないように月美ちゃん達が頑張ってくれてんだよね。だから、信じる。ちゃんとクリスマス会もしたいもん。参加出来ないクリスマス会を見てヤキモキするのももうたくさんだから、出来れば早めだと良いな。』


『全く、私のことを過信し過ぎよ。』


 カチャ、カチャ…


『ちょっと待って。あなた今しれっと重要なこと言わなかったかしら?』


『へ?』


『あなた、砂時計の中で意識があったの?』


『うん。そうだけど。』


『あなた、そういうことはもっと早く…』


『ごめんごめん。』


『ただまぁ、想像して然るべきだったかもしれないわね。何も知らなかった割には、ラグナロード戦への対応が鮮やか過ぎた…で、どこまで見てたのかしら?』


『そうだなぁ…月美ちゃんがみのりちゃんに浮気してるところも見てたし、ボクのことを変態呼ばわりしたのも聞いてたから。』


『あれは浮気じゃないし、あなたが変態というのもあながち間違いじゃないでしょう?』


『酷い‼︎変態なんかじゃ無いもん‼︎』


『寮生活中に何度も風呂を覗き込もうとしたのはどこの誰かしら?』


『好きな娘がいる思春期君としては当然の行為だよ‼︎』


『いいえ。覗きはただの犯罪であり、ただの変態行為よ。』


 …カチャカチャ…


『ん?ちょっと待って。砂時計の中にいたときのことだけれど、声が聞こえただけ?』


『視界と音を月美ちゃんと共ゆ…言い間違えた。音が聞こえただけだよ。』


『…舞。あなた、遂に私の入浴を覗いたわね。』


『ごちそうさま‼︎美味しかったね‼︎愛さんに心配かけたく無いし、そろそろ帰ろっか‼︎』


『ちょっと、逃げるつもり⁉︎』


『ちゃんとお腹一杯‼︎ごちそうさま‼︎撤収‼︎』


『ちょっと待ちなさい‼︎舞‼︎あ、会計を‼︎』


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 コツコツコツ…


『なるほど。所持者と距離があればリンクが切れるのね。まさか、常に持ち歩いていたせいでほぼ毎日裸を見られていたなんて…全く。あなたとはもう少し、今後の話をしないといけないわね。』


『しょうがないじゃないか。ボクが紳士的な対応をしようと思っても、見るのをやめたり出来ないんだからさ。』


『これ、雫が土屋千春の砂時計を彼の弟に預けていなかったら大問題だったわね。』


『愛さんに関しては、まぁ姉妹だからギリギリセーフかな?』


『何はともあれ、あなたを元に戻すことの緊急性が増したわね。当分の間は、風呂に入る前は砂時計を部屋に置いて行くことにするわ。』


『そのまま部屋に置きっぱなしとかは絶対にやめてよ?』


『そのぐらいしないと溜飲を下げることが出来ないのだけど?』


『月美ちゃん。目が怖いよ?』


『まぁ、常に持ち歩いていた私の責任でもあるし、そんな大人気ない八つ当たりはやめておくわ。』


『ありがと…それとだけど、もし裸を見られて、もう嫁に行けな〜いって言うなら、ボクが責任を持って月美ちゃんをお嫁さんにするけど?』


 …コツコツコツ…


『突っ込まないの?』


『いや…なんて言うべきなのかしら…』


『月美ちゃん。』


『何かしら。』


『ボクは今でも、きっとこれからも、月美ちゃんのことが大好きだよ。』


『何で、いきなりそんなことを。』


『だって、月美ちゃんが今のボクの気持ちを知りたい〜って顔してたから。ご飯を食べる前に言いかけたのも、きっとそれでしょ?』


『…私は、あなたを…』


『あれをやったのは月美ちゃんじゃない。月美ちゃんの中のデビルだよ。』


『それでも…』


『月美ちゃんは、怒らないボクが怖い?』


『…悪いかしら?』


『悪くなんて無いよ。それでも、覚えてて欲しいんだ。』


『…何を?』


『ボク達は、お互いに対して嫌な思いをするかもしれない。それが原因で、喧嘩をすることがあるかもしれない。それでもね。根っこの部分の想いって、あんまり変わらないんだよ?』


『…そう。その言葉に救われたわ。』


『なら良かった。』


『…私達は必ず、またこうして話せる日々を取り戻してみせる。その日まで。待っていてくれるかしら。』


『うん。待つよ。そのときには、きっと。この先は、月美ちゃんなら分かってくれるよね。』


『難しい宿題を押し付けてくれたものね。』


『良いじゃん良いじゃん。そうやって、押し付け合って、ぶつけ合って。支え合って生きていけば。』


『そうね。じゃあ早速、私からも。舞。これからも、私を見守ってちょうだい。』


『うん。任されたよ。』


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「全く、あなたって人は…」


 月美はパソコンの画面を睨みながら憎々しげに吐き捨てる。画面には、「ZFILE」というファイルの秘匿領域に保存された、「log01.mp3」というデータが表示されている。どうやら舞の砂時計に盗聴機が仕込まれていたようだ。犯人は愛以外ありえない。「log01.mp3」のデータを開いてみると、その中には先日行った、砂時計の中へと消滅した人物を蘇生する実験のデータが入っていた。先にその実験の結果から言ってしまえば、半分成功半分失敗といったところだ。月美の聖因子のみを流し込むことで、擬似的に『ムーン・リコレクション』の効果が発動してしまった。これにより「一時的に」舞が復活するという予想外の自体が発生したのだ。まだ機械で聖因子を動かす実験として、聖因子の量が足りずに復活はしないと想定した上で行われた実験だった為、舞が現れた際は二人は喜びと疑問と焦りの混ざった形容し難い感情に襲われたものだ。ただ、やはり聖因子が足りない影響で不完全な復活となった為、半日経たないうちに砂時計に戻ってしまったが。それでも、この研究を突き詰めれば、いずれ舞達を元に戻せると判明したのは大きな一歩だった。


「まさか、あの実験中の会話を盗聴しているなんて思いませんでした。趣味悪いですよ。」


「盗聴なんてー、人聞きが悪いなぁ。少しでもデータが欲しかったからぁ、記録を録っただけだよ〜。」


「舞の言ったことで研究に必要そうなことはしっかり伝えたはずですよね‼︎」


「念の為だよ〜。」


「全く、あなたって人は…このデータの必要性は認めます。ですが、プライバシーの侵害です。私が預かります。」


 月美はそのデータを、自身のSDカードへと移す。その様子を、不満げな表情で頬杖を突いて見る愛。


「このようなことは、次からは私達に相談をして、許可をとった上でやって下さい。良いですね。」


「はーい。」


 SDカードを持ち、月美は自分の部屋へと戻っていった。それを確認した後、愛は自身のUSBメモリを差し込む。


「ち〜ゃんと、バックアップはしてあるんだよね〜。」


 バックアップからデータを復元しながら、彼女は考える。


ー荒療治感はあったけど〜。月美ちゃんと私の関係、月美ちゃんと舞ちゃんの関係は〜、ちゃ〜んと元通りになった。こっから、どうなるのかな〜。


 復元が完了する。そして彼女は研究を再開する。月美と舞がまた会える日を目指して。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 翌日、月美にバックアップがバレた。パソコン側のデータもUSB内のバックアップも両方消された。

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