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エピローグ 「X」

 あの戦いから。私が舞を消してしまった戦いから、約三週間。あの日以来、初めて時間が止まった。外を見ると、二体のデビルがいるみたい。まぁ、アースに任せれば良いわよね。私は戦わずに、デビル達のことを気にせずに平穏な今を生きる。それが、あの子の願いだもの。


『人の死を悲しむ気持ちと、人の死を他人のせいにして怒ることで悲しみから逃げるのは違う。』


 あのときのアースの言葉は、今でも私の心に巣食っている。ムカイカヅキも、この状況を見たらさぞかし満足するでしょうね。結局、私は舞を破滅に導いてしまったのだから。その結果がこのザマよ。

 あの日私は、時間よ戻れと心から願った。けれど、もし仮に時間が戻ったとして。私に何が出来るのかしら?舞の気持ちは、私が何をしてもきっと変わらない。舞の気持ちが変わらない限り、あの子が犠牲になって私だけが残るという結果は変わらない。私の中に舞と相性の悪いデビルがいる時点で、私は結末を決めれる立場にはいない。気付いていなかっただけで、実は最初から詰んでいたみたいね。きちんと状況を見て行動していると思っていた。けれど実際は自分の中にいるデビルにも気付かず、ただただ運命に翻弄されていただけ。


「私は、これからどうすれば良いのかしら。」


 気が付いたら、無意識のうちに漠然とした疑問を呟いていた。誰も聞いていないことなんて分かって居るのに。それでも、これからどうすれば良いのかが分からないというのは事実。

 あら?アースがこちらへ向かって来る?両方のデビルを倒したのかしら?…いえ。片方しか倒していない。それなのに何故?


「君に、もう一度戦って貰いたい。」


 そう言い、アースが緑色の銃を持った右手を差し出す。差し出された手の上で、銃は砂時計に変わった。何の冗談?笑えない。


「状況が、分からないのだけれど。」


「…私にはこの銃を、砂時計の中の聖因子の力を完全に扱うことが出来なかった。どうやら私が扱える力では、相性の良い相手にしか攻撃が通らないようだ。」


 …何を言ってるの?それじゃあ、何の為に舞はあの決断を…


「あの子の決断は、無駄だったというの?」


 …答えてくれないのね。まぁ、良いわ。正直な話、もう時間が進もうが止まろうが私にとってはどうでも良い話ではあるのだけど。


「分かった。戦ってあげるわ。」


 どうせなら、最後まで足掻いてみるとしましょうか。あなたの諦めの悪さが染ったみたい。責任、取りなさいよ?

 私はアースから緑色の砂時計を受け取る。私の右手の中で銃へと姿を変える。不思議ね。まるであなたに見守られているような気分。私は右手に緑色の、左手に黒色の銃を持ってデビルに対峙した。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 戦闘が終わった。相手は炎を纏ったミミズのようなデビルだった。見ているだけで気が滅入るような醜悪な見た目のデビルを撃破した私の前にアースが現れる。


「お望み通り、倒したわよ。」


「感謝する。」


「…聞いて良いかしら?」


「何だ?」


 私は、舞の記憶を見てから抱いていた疑問をアースに投げかけた。


「舞は、もう一人の自分の声のようなものに心を苛まれていたわ。」


「あぁ。知っている。」


「あなたはその現象の原因を、知っているの?」


「…私はその砂時計を使う中で、聖因子の力の強烈さを知った。私は常に思考能力の変動を抑える隔壁を張っているから影響は無かったが、恐らく脳にもたらす影響は大きいだろう。」


 アースには扱いきれず、扱える私達の脳には変な影響を与える。デビルを倒す為の力。何の代償も無く使えるような都合の良いものじゃないみたいね。


「舞にとってのそれが、あの現象だったのね。それで、私にとってのそれは…」


「恐らく、記憶障害であろう。」


「…私は、ずっと前から舞のことを忘れていたわ。」


「君も知っての通り、初の戦闘の前から木村舞もあの現象に悩まされていたようだ。恐らく、聖因子の基礎のようなものはずっと前から持っていたのだろう。それ力が開花しているか開花していないかに関わらず、多かれ少なかれ脳に影響を及ぼす。」


 遠回りな言い方でイライラする。要は私達の脳に影響をもたらしたのは聖因子自体ではなくて聖因子を作る素養みたいなもの。それが聖因子にならないとアースには感知出来ないしデビルにも対抗出来ない。それだの話でしょう?


「戦闘は終了。次も、頼む。」


 アースの、この地球を守るという意思自体には嘘は無い。そんな彼が、また私にこの戦いを強いるのは、さぞ申し訳ないと悩んでいるでしょうね。まぁ、そんなことは私の知ったことでは無いのだけど。それに、アースのことだから複数の砂時計を集めて全てのデビルを自力で倒す計画を立てる可能性すらある。これからも油断は出来ないわね。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 七月下旬。ラグナロクが終わってから、二回目の襲撃。デビルとの戦闘中にそれは起きた。


「アース。あれは…」


「あぁ。君達と同じ力を感じる。恐らく、三人目だ。」


 私達の目の前で動きを止めている、一人の少女。今いる場所から、彼女は私より一学年上らしい。デビルは明らかに彼女を狙っている。奴も、彼女が聖因子を持っていることが分かっているようね。


「アース。彼女には、あまり情報を与えないでくれるかしら?」


「理由を聞こう。」


「それは後で。今はそんな暇は無い。私が守っている間に、彼女を私と同じ、砂時計を持って戦う存在に。」


「分かった。」


 私の指示通りに、目の前の少女に手をかざすアース。彼の手が光り輝き、空の砂時計が現れる。それは見えない何かに導かれて少女の額へと向かう。アースの仕事もきちんと完了したみたいだし、こっちもそろそろ倒した方が良いようね。今後の計画の為にも、あまり良い印象を持たれたく無い。私がこれからしようとしているのは、舞が知ったら絶対に止めるようなことかもしれない。それでも、私はこれ以上舞のように私の犠牲になる人物を見たくない。言い訳はそっちでするわ。だから今はいつも通り、少し大袈裟に頬を膨らまして怒って待っていて頂戴。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「さて。先程の指示の理由を聞こう。」


「私は、これから私達のように戦う人物達から嫌われようと思うわ。」


「そうする意図が分からない。」


「いざというとき、躊躇なく私を撃てるようになってもらう為よ。もう、舞のような犠牲者を出したく無い。」


「情報を渡さなかったせいで、嫌われたまま他のデビルに倒される可能性も大いにある。」


「だから、裏で少しずつは支えるつもりよ。」


「君の策に乗るメリットを考慮し、今回は君の意見を尊重しよう。」


 これから、私は恨まれるかもしれない。憎まれるかもしれない。いいえ。かもしれないじゃない。恨まれ、憎まれなければならない。その末に、さっきの一学年上のあの少女を始めとした、これから聖因子の力を開花させる人物の誰かに倒される。舞のような犠牲者を、もう二度と出さない為に。私と舞以外にも聖因子の力を使える存在が現れる可能性が示唆された今、アースが砂時計を集めようと画策する可能性も大きくなった。それでも私は屈さず、ただ目的の為に歩み続ける。

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