表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

最終話 笑って。

 とあることを知っている舞は確信していた。自分が目の前の相手に「勝てない」ことはあっても、決して「負ける」ことは無いと。


ーだからって、勝ちを諦めたりしないで、貪欲に勝ちに行くけどね。


 枝で熱風のダメージを軽減しつつ、月美の本体へと接近。軽くチャージショットを溜め、至近距離で発射。しかし、それは熱風で掻き消されてしまう。


ー月美ちゃんが前に言ってた属性の相性がどーだこーだってヤツ。あっちが火でボクは木だから、相性は最悪だね。ちょっとキツいかも。けど、ボクはもっと月美ちゃんと一緒にいたい。だから…


「勝ってみせるんだ‼︎」


 熱風の影響でボロボロになっていた枝を、追加の聖因子を注ぎ込んで修復。修復した枝を伸ばし、操られている月美を拘束。そのまま再びチャージショットを溜め、発射。と、腕がグインと引っ張られるような感覚。力ずくで枝ごと移動した相手に引っ張られたようだ。その枝でチャージショットを防がれてしまう。


ー聖因子で聖因子を攻撃出来ない。枝もチャージショットも聖因子だからこうなったんだ…


 目の前の相手との相性が悪いことに焦燥感を覚える。


ーボクが絶対に達成しなきゃいけない目的はよっぽどのことが無い限り達成出来るけど…


 そんなことを考えながらも、今度は自分と月美の本体を枝でドーム状に包み、チャージショットの溜める。と、体当たりでドームごと吹き飛ばされる。その影響で溜めていたチャージショットが弾けてしまう。


ー月美ちゃんらしさのかけらもない乱暴さだなぁ…


 そんなことを考えながら、銃に付いている砂時計を確認する。残りは、全体の約6〜7%といったところ。


ー小細工するような力、もう無いっぽいや。ここからは…


「最後は、ただの力比べにしよう。」


 舞はチャージショットを溜める。月美の中のデビルは、下手な妨害をするとその隙にチャージショットで月美の本体に潜む自分の本体を射抜かれると判断。自分も熱風を集中させ、チャージショットを相殺することを選ぶ。


ーボクの聖因子をほぼ全部賭けた一撃…届いて‼︎


「やぁぁぁぁぁぁッ‼︎」


 舞は脳裏に月美の様々な表情を思い出しながら引き金を引く。二人で過ごす、あの日々の為に。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 舞は呆然と自分の決意の結果を眺めていた。彼女の目に映るのは、あと少しといったところで熱風に打ち砕かれる自分の放ったチャージショット。


ーあーあ。これで、勝ちは無くなっちゃった。


 先程の全てをかけた一撃で、残り数粒といったところまで落ち切った自分の砂時計を見て、苦笑いが溢れる。


ーけど、勝ちは無くなったけど…ボクはまだ負けてない‼︎


 相殺されてしまったものの、敵もかなりの力を消耗したようだ。その証拠に、月美の動きがかなり鈍っている。


ーこんな結果、月美ちゃんは許してくれるのかな?それでもボクは、月美ちゃんみたいに頭が良い訳じゃ無いから、もうこれしか思いつかないや。本当に、ごめんよ。


 舞は月美の精神体に向けて引き金を引く。銃口から放たれた弾丸を、ゆったりとした動きで躱す月美の精神体。眩い光が世界を照らす。


ーこの一瞬に賭ける‼︎信じるよ、アース‼︎


 舞の忍者衣装が消滅して私服姿になり、銃が緑色の砂時計になる。舞がその砂時計を強く握ると、緑色の銃へと変わる。その銃に付いている砂時計の砂は少しずつ、銃口側からハンマー側へと移っていく。


ー良かった。アースが言ってたことはウソじゃなかった‼︎


 舞は敵が怯んでいる間にハンマーを操作。そして現れたウインドウをノールックでタッチして樹斬ノ術を発動。枝を月美の本体へと伸ばしていく。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 月美は暗い部屋で固く目を瞑り、耳を塞いでいた。それでも情報が流れ込んで来る。自分がデビルに操られてしてしまった所業が次々と彼女を襲う。


ーだから私は、早く私をって、言ったのよ…


 もうこれ以上何も見たくない。何も感じたくない。何も考えたくない。そうした感情が彼女の中で渦巻く。


ー大丈夫だって。月美ちゃんは、ボクが絶対に助けるから。


 そんな声が聞こえた。記憶が、思い出が流れ込んで来る。二人で共に勉学に励んだ、高校生になって初めての定期試験。何がなんでも月美を守ると決意を新たにした、アースとの密談。二人で乗り越えた受験。月美に迷惑をかけてしまったという後悔の残るバレンタイン。勉学に励みながら、美味しいケーキに舌鼓をうったクリスマス。


ーこれは、あの子の記憶が流れ込んで来ているの?あの子は、アースからそんなことを聞かされていたの?その上で、こんなことをしたというの⁉︎もう、やめて‼︎今更こんなものを見せられても、自分が許せなくなるだけ‼︎


 そんな声に出来ない悲鳴を無視して、次々と記憶は流れ込んで来る。もう一人の自分の声のようなものに苦しめられた日々。そして場面は初めて時間が止まった、影山月美との対話の日。運命の再会で無かったことに落胆しながらも、月美に惹かれている自分に嫌悪感を抱いた。


ーあの子の身に、こんなことが…それに、あの出会いの裏で自責の念を?何故?


 場面は移りゆく。神名西の学校説明会の日。偶然電車の中で見つけたと思った。ずっと探していた思い人を。


ーえ?どういうこと?私とあの子は、初対面だったはず‼︎


 その疑問に答えるかのように、記憶の殻がひび割れるような感覚。それと同時に流れ込んで来たのは、幼い日の記憶。幼い心に抱いた、小さな初恋。それを否定された。故に木村舞は、男であろうとした。


ーちょっと、待って…


 月美は封印を解かれた自身の記憶と舞の記憶を照らし合わせる。


ー私は、そんなに重要なことを忘れていたの?忘れて、思い出さずに、そして傷付けて…私は、そんなにも残酷なことを⁉︎


 それを理解するのと同時に、黒い部屋は崩れ去る。自分の瞳を涙が濡らしていることに気が付く。


「あぁ、本当に良かった。戻ったんだね。月美ちゃん。引き分け作戦、成功。」


「…あなたの記憶が、流れ込んで来たわ。だからあなたの計画は理解したつもりよ。あなたは、アースと密会していた。そして、聖因子を使い切ったら、砂時計は所有者の存在を代償に聖因子を生成。最後は聖因子の回復速度が上がった、完成した砂時計しか残らないことを知っていた。だからその存在が聖因子になり始めてから完全に消滅するまでの時間を使って、生成中の聖因子を使って私の中のデビルを縛った。こうすれば、当分の間はデビルに操られる心配は無い。」


「そうだよ。記憶が流れたのはボクの存在で作った枝で縛ったから、かな。」


 二人共、目を伏せる。親に叱られるのを恐れる子供のように。すぐにこの瞬間の一秒たりとも無駄にしてはならないということを思い出した二人は目を合わせ、同時に口を開く。


「「ごめん(なさい)。」」


 二人の声が重なる。


「ボクは、アースから聞かされてて、その上で隠してたんだ。そうすれば、こういうときに確実に月美ちゃんを庇うことが出来る。そうすれば、少なくとも月美ちゃんの明日は守れるって。今回の件も「勝てない」可能性はあっても、月美ちゃんを守るっていう目的を達成出来ない可能性は、「負ける」可能性はほとんど無い。そう思ってた。けど、ボクは月美ちゃんを守ることしか考えられてなくて、月美ちゃんがボクの行動に対してどう思うかなんて考えてなかった。それよりも、ボクは…」


「私は、忘れていた。大切なことを。そして知らないと言って、傷付けた。」


「え?」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 それからいくつかの言葉を交わし、木村舞は砂時計の中へと消えていった。月美がそれを拾った瞬間、止まっていた時間が進む。


「これを、受け取りに来たのかしら?」


「あぁ。そうだ。」


 俯いたまま、目を見ずに緑色の砂時計を渡す月美。それを受け取り、ポケットにしまうアース。


「あなたの計画も、あの子の…舞の記憶を通して知ったわ。」


「そうか。」


 驚いた様子も無い。恐らく、二人のやり取りを見ていたのだろう。


「…何故、舞にだけ決断を強いたの?」


「仮に君に決断を委ねたら、その先の結果が不確定だったからだ。君は基本的に感情より理論を重視する。しかし、木村舞が関われば話は別だ。君は彼女に関することであれば、理論より感情を優先することがある。その不確定要素は避けるべきだと判断した。仮に君が自分自身より木村舞を優先して砂時計となった場合、木村舞は君の砂時計を私に渡さないだろう。その点、木村舞に決断を強いれば絶対に君を優先する。そうなれば君は彼女の意思を優先し、私に砂時計を託すだろうと。」


「何もかもあなたの掌の上。笑えないわね。」


 アースの目的は、完成した砂時計を手に入れること。砂時計を完成させるには聖因子を全て使い切らせ、存在そのものを聖因子に変換、砂時計に閉じ込める必要がある。


「私も、漠然と不安視はしていた。デビルとの戦いはいつまで続くのか。けれど、こんな方法を…」


「私の目的は地球を守ること。手段は選んでられない。」


 アースに掴みかかる月美。


「君にはもう、戦う義務は無い。故に、恐らく君と会うのもこれで最後だろう。最後の言葉として伝えておく。人の死を悲しむ気持ちと、人の死を他人のせいにして怒ることで悲しみから逃げるのは違う。以上だ。君の未来に、幸あることを祈る。」


「待って…」


 アースが無数の光の粒となり、月美の手から消滅していく。


ー舞の犠牲の上での幸せなんて、ある訳無いじゃない…


 そんなことを考えつつ、月美は隣の部屋へと向かう。舞が残したものに救いを求めて。隣の部屋のドアノブに触れた瞬間、背筋がヒリつくような感覚。それを無視して扉を開く。


「…あ。あぁ…」


 その部屋には、何も残されていなかった。存在を代償に。そんな言葉が脳裏をよぎる。


ー所持品も、思い出も全て…


 何にでも良い。何かに縋りつきたい。そう思った月美は、携帯を取り出し、思いとどまって仕舞う。

 彼女は祈った。全てをやり直したいと。時間よ戻れと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ