第一話 バレバレな嘘から
第二部本格始動‼︎月美と舞の未来を一緒に見届けていただけるとありがたいです‼︎
いつからだろうか。彼女は理由の分からない空虚感を感じていた。心の中の、とても大事な場所が欠けてしまったような。そんな、不自然な空白を見つめるような感覚。
ーその謎の空虚感の正体を知る為に、私は今でも毎週この街に…「神名市」に足を運んでいるのかもしれないわね。
などと思いつつ、行くあてもなく神名市の街を歩き回る月美。何度も何度も訪れて、もはや自分の住む町と同じぐらい見慣れてしまった。正直、この町で謎の空虚感の正体に迫るための手がかりを発見することが出来るとは思えない。もし仮にそれがこの町にあるのならば、とっくの昔に見つかっているはずだから。それでも小さな可能性にすがるようにこの街に訪れる自分に嫌気が差す。
「あの…ちょっと良いですか?」
そんな中、どこか不安げな小さな声が彼女を…影山月美を呼び止めた。振り返ると、そこには一人の少女の姿。ショートカットで、どこか似合っていないボーイッシュな服装をしている。勝気な吊り目の上の眉は不安で八の字になっている。
「私に用かしら?」
普段の月美ならば、聞こえなかった振りをして無視したかもしれない。それでも、ちょっとした理由があって月美は無視することを選ばなかった。
「あ、はい‼︎ボク、この街に来るのが初めてで。友達からこのレストランをオススメされたんです…で、写真とかも見せてもらって、美味しそうだなって思ったからこの街に来てみたんです。そこまでは良いんですけど、ちょっと道が分からなくなっちゃって…良ければ案内してくれませんか?」
月美はその少女の顔をよく見る。相変わらずおどおどし、上目遣いにかりながらも、まっすぐ月美の目を見ている。吊り目の目尻が下がっている。そんな目の前の少女に、訳あって不信感を覚えつつも月美は質問を投げかける。
「あなたは、何で私に道案内を頼んだの?」
「いや、な、なんとなく…年が近そうだから、話しかけやすそうかなーって…」
ゆっくりと目を逸らして軽く俯き、指をもじもじさせる。恐らく、言葉に詰まってしまったのだろう。今度は慌てて空を見つめて、「あと、その…そう‼︎優しそうな目を、してたからかな…」と誤魔化すように慌てて付け足す。そんな目の前の少女の態度と表情を見て、月美の抱いていた不信感は確信に変わる。
「嘘ね。」
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話は先々週まで遡る。いつも通り神名市行きの電車に乗って、意味も無く外を眺めていた月美。そんな中、彼女はチラチラと自分の方を見ている人物に気付く。おそらく同年代であろうショートカットの少女。何を隠そう、彼女が目の前にいる少女だった。彼女は月美と同じ神名駅で降り、これまたチラチラとこちらを見つつ反対方向へと去って行った。その様子が印象的だったからこそ覚えていたのだ。そして先週。同じ便の電車にて。またも月美の方をチラチラ見ていた例の少女。この日も前回と同じく反対方向へ去って行った。そして今日。二度あることは三度あるとでも言うべきだろうか。またしても月美の方を見ていた例の少女。今回はもう隠す気すらないのか、普通にガン見していたのだが。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
そのようなこともあり、この時点で月美はもう分かっていたのである。少なくとも、彼女の言った「この街に来るのが初めて」という部分は嘘であるということが。もしかしたら人違いかもしれないと思い、念のため最後まで話を聞いてはみたものの、問い詰めると明らかに動揺したということから、月美は目の前の少女と電車でこちらを見ていた少女が同一人物だと確信した。
「嘘ね。」
「ふぇ⁉︎」
まさか、今までの態度で上手く取り繕えたとでも思っていたのだろうか?予想外の出来事に驚き、軽く裏返った声で反応する目の前の少女。彼女のその姿を見て呆れてしまった月美は諭すように解説する。
「あなたは私が気付いていないとでも勘違いしているようだけど、当然気付いているわよ。あなたは先週も先々週も、そして今日も、私と同じ電車に乗って、私のことをずっと見ていたわよね?あなたが以前、私と同じ神名駅で降りたところまで私は見て知っている。そのはずなのに、さっきあなたはこの街に来るのは初めてだと言った。そんなあなたのことを、どう信用すれば良いのかしらね?」
話している内にだんだんと言い方が辛辣になってしまったと、少し反省する。
「あ、その、ボクは…」
月美に指摘された少女は、あからさまに気まずげな表情をして、俯いて黙ってしまう。やはりキツく言い過ぎてしまったらしい。月美にはその表情が、どこか悲しげで寂しげなものに、縋るようなものに見えて…
「…まぁ、良いわ。特に用がある訳でもないし、その店まで案内してあげても良いわよ。付いて来てちょうだい。」
その表情を見た月美は、気が付けばそう答えてしまっていた。月美は言い終えて、自分自身でその発言に驚いてしまう。
「え?」
月美の言葉を聞いて、すぐに顔を上げる目の前の少女。まだ自分の耳を疑っているのか、どこか呆然とした表情で月美を見ている。そんな彼女を見て…
「だから、案内してあげるって言ってるのよ…その、あなた、名前は?」
自身の発言で驚いたしまったことを取り繕う為に、月美は慌てて問う。普段より少し早口で紡がれた言葉。それが、目の前の少女の表情が笑顔を取り戻す。輝きを取り戻した目で彼女は答える。
「ありがとう‼︎ボクは、木村舞‼︎なんていうか…よろしくね‼︎」
「そう。木村舞、ね。覚えたわ。私は影山月美よ。さぁ、早く行きましょう。」
少し、鼓動が速まる。自分が何で舞のことを受け入れたのか、そもそも何で自分のことを見ていたからという理由だけで舞に興味を持ったのか。月美には、自分自身でも理解が出来なかった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
目的のレストランを目指して歩きながら話す二人。言葉を交わす度に、少しずつ彼女達の心と心の隙間は埋まり始めていた…
「影山さん…うーん、月美ちゃんって呼んで良いかな?」
「別に、どう呼んでも良いわよ。よっぽどの呼び方で無ければ。」
「ありがと‼じゃあ︎ボクのことも気軽に舞って呼んで良いよ‼︎それで、月美ちゃんは、何で神名市に来たんだい?どこに住んでるんだい?」
「どこに住んでるかは答える気は無いわ。来た理由は…まぁ、強いて言えば、何かを思い出すためかしら?」
どうやら一方的に舞が馴れ馴れしくなっただけのようだ。その証拠か、勝手に月美の手を握ろうとして拒否されている。出会ったときは月美に対して敬語を使っていたのも、既に彼女の本来の口調に変わっている。この時点で、月美は道案内を引き受けたことを少しだけ後悔しつつあった。
「ボクが来た理由はね、強いて言えば人探しの為かな…」
人探し。その言葉を聞いた月美の感情を揺さぶった。理由の分からない心のざわめきに戸惑い、返答が刺々しいものになってしまう。
「別にあなたの話は聞いてないわよ。けど、人探し中なら私相手に油を売ってる暇なんて無いと思うわよ。」
「そんな釣れないことを言わないでおくれよ…」
言われるが月美は何も答えない。これ以上彼女と話せば話すほど、この胸のざわめきが激しくなるという予感がしたから。そんな彼女の胸の内を知らない舞は頰を膨らませる。
舞への対応が面倒になった月美は、彼女のことを意図的に無視する。すると彼女は余計に月美に話しかける。そんな状態が続き、しばらく歩いた頃だった。
「ほら。もう着いたわよ。」
二人の前には舞が目指していたレストランがあった。月美が携帯を取り出し、時間を見る。
「ちょっとお昼時には早いけど…まぁ良いでしょう。案内は終わったから、私はこれで。」
「あ、その…待って‼︎」
その場から去ろうとしていた月美が、舞の方を振り返る。
「その…一緒に食べていかない⁉︎ボクが奢るからさ‼︎」
月美が答える直前。紅に染まりかけたひとひらの葉が地面の上に落ちる直前。この地球で初めて、時間が止まった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ー遂に力を表したようだね。存在自体は察していたよ。この地球に来た時から、僕らすら計り知れない力を持つ存在があるということを、ね…ただ、まさか時間を止める程の力があるとは。想像以上だね。さて、これから僕が元の力を取り戻すまで、どう立ち回るべきかな…
月美の体の中に潜む何者かが呟いた。
ジカンヨトマレと同じく、毎月1日と15日に投稿する予定です‼︎
次回、第二話は8月15日投稿予定です‼︎