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第十六話 クエスト‼︎ホニャララ‼

 一時期pixivで先行公開していた回ですね。

 時は大きく遡り、二月。月美と舞は久々に神名市を訪れていた。


「久々の神名市‼︎久々の月美ちゃんとのデート‼︎世界よ、これが春さ‼︎」


 普段以上に高いテンションを見せる舞。いつも通り冷静に振る舞う月美は、これまたいつも通り舞を嗜める。


「あなた、調子に乗り過ぎじゃないかしら。まだ合否は出ていないのよ。それにいくら試験が終わったとはいえ、少しは高校に入ってから遅れを取らないように復習を…」


「硬い‼︎今日はそんなことも忘れて全力で楽しもうよ‼︎」


ーまぁ、試験が終わってからも勉強させたのは私だものね。多少強引だったのも事実。私も同じぐらいは譲歩しないといけない。


「分かったわ。ただ覚えておいて。私達はまだ付き合っていない。故に、これはデートではないわ。」


 このように舞の要望に簡単に絆されるようになったのが、月美の変わった点と言えるかも知れない。


「ふーん。まだ付き合っていない、ねぇ。」


「何よ。」


「なんでもな〜い。」


 悪戯な笑顔を見せる舞。それを見た月美は、どこか不服そうな表情だ。と、舞が何かを見てそちらへ向かおうとしてすぐにやめる。それに気付いた月美がそちらを見ると…


ーあぁ、そういうことね。


 どこかそわそわしていた舞だったが、その理由が分かった月美。


ー私が気付いていないとでも思っているのかしら?そのことでそわそわしているこの子の様子をもう少し観察したいし、ちょっとの間は気付いてないフリでめしようかしら。


 そんなことを月美が考えていた頃、舞の方はというと…


ー月美ちゃん、気付いていないのかな。まさか気付いているうえで、ボクには…いや、気付いてたらくれる前提で考えてるのもちょっと傲慢かもしれないけどさ。


 月美の想像通り、舞は月美が「そのこと」に気が付いていないと勘違いしてそわそわしていた。そんな舞は、本当に月美が気が付いていないのか確かめようとする。


「月美ちゃんはさ、最近勉強以外で、何かやったこととかある?」


「そうね。受験シーズン中に買ったまま読めてなかった本を読んでいたわ。身内とのいろいろもあったりしたから、それと復習だけで時間は過ぎていたわ。」


「あ、あははー。つ、月美ちゃん忙しかったんだねー。それは忙しい。」


「忙しかったんだね、それは忙しいって…」


「エンプレス構文ってやつだよ。」


ーそっか。月美ちゃん、忙しかったんだ。それなら、忘れてても、用意してなくてもしょうがないよね。


 そうは思いつつも、どこか釈然としない様子で。理解はしているが納得はしていない、とでも言うべきだろうか。


「それで、あなたは何をしていたの?」


 そんな月美の声も、舞には届かない。舞は、暗い部屋に一人閉じ込められたような感覚に陥った。


ーあぁ、久しぶりに、会えましたね。


ー来ないで‼︎何で月美ちゃんといるときに‼︎


ー独りだからですよ。アナタの愛は、どこまでも一方通行。愛することはあっても、愛されることは無い。


ーやめて。


ーアナタが独りと感じている証拠が、ワタシ。それぐらい、アナタにも分かりますよね?


 だんだん鼓動が早まり、心と体が強く揺さぶられるような感覚。手足の先が冷えていくような感覚。


ー独りだなんて思ってない‼︎


ーいいえ。ワタシには分かりますよ。だって、アナタはワタシなんだから。


「しっかりしなさい‼︎」


 強く澄んだ声。舞が恋焦がれている声。それが少し震えていて。そんな声に、自分だけの世界から呼び戻される。


「大丈夫?体調が悪いの?」


「ううん。平気。」


「平気って顔じゃないわよ。幸い、熱はないみたいね。それなのに、なんなのよこの汗。」


「たまたま。たまたまだから。」


 優しく、月美をこれ以上心配させないような明る柔らかい声で言おうと思っていたはずだった。それなのに実際出たのは、追求の拒絶と孤独を帯びた、固く冷たく鋭い声で。


「偶然なんかじゃない。以前もこのようなことがあったわよね。もしかして、私に問題が?」


 舞は戸惑う。決して月美の言葉に戸惑ったのでは無い。咄嗟に「大丈夫。月美ちゃんのせいじゃないよ。」と言えなかった自分に戸惑ったのだ。彼女はそのまま言葉に詰まってしまう。


「どうやら、話の続きをしている暇は無いようね。」


 言われて、今の体が精神体になっている事に気が付く。


「いつの間に…」


「ほんの数秒前よ。正直、今のあなたは不安定な状態よ。大局を任せられない。後衛に徹して私をサポートして。」


「でも…」


 不安そうで、申し訳無さそうな表情を浮かべる舞。月美はそんな彼女の手を取る。


「サポートもあると無いでは大きく違う。信じているわ。それに、今回は偶然あなたが不安定だから私を中心に戦うわけだけど、きっと逆の立場になるときもある。お互い様と割り切って、今日は任せてくれないかしら。」


 舞が力なく頷く。気付けば、目の前に銀色の糸のようなものが。アースが作った、デビルへの道筋を示したものだろう。こちらに姿を見せない辺り、いかにも気を遣っていますと主張しているように見えて不愉快に感じた月美。


「出発するけど、準備は良いわね。」


「うん。」


 目にも声にも覇気は無い。それでも、しっかりと月美を見ている。精神状況は先程より多少安定したと見なし、月美は舞の手を取り銀の糸を辿って進む。そうして、しばらく進んで行くと二人の目の前にフグのような姿のデビル。(体全体から蔓が伸びている、もはやフグ以外のある魚に見えるような姿だが。)


「月美ちゃん、いたよ。」


「そうね。明確な囮がいない以上、奇襲の成功率はかなり低い。正面突破よ。」


「分かった。その、ありがと。」


 自分を気遣って、ベストな戦法を捨てた月美への感謝を呟く。


「さっきから言ってるでしょう。お互い様よ。さぁ、サポートお願い。」


「分かった。」


 舞はその場で、月美は敵に接近しながら、何度も引き金を引く。まずは目の前の月美を撃破しようと、更に体を膨らませるデビル。それを見た月美は急降下。先程まで月美がいた場所を舞の弾丸が刺す。その弾丸がデビルに突き刺さり、そこから大量の種のようなものが溢れ出てくる。恐らく、その種を吐き出して攻撃するつもりだったのだろう。その意図を崩せたのは大きい。


「ありがとう。その攻撃、決して無駄にはしないわ。」


 デビルが舞を睨んでいる間に視界の外から接近していた月美が、舞が作った傷口に銃口を刺す。いつもの半分も溜まっていないチャージショット。それでも内部から敵を破壊するには充分な火力のはずだった。そんな盤面で、敵の体を包む蔓が全て枝に変わり、全身を守る。


ーぬかった‼︎この敵、フグじゃなくてハリセンボン‼︎


 それは月美の右手にも刺さり、チャージショットの威力も減衰されてしまう。なんとか左手で敵に刺さったままの銃を回収し、デビルから距離を取る。それを許さず、体当たりで串刺しにしようと接近しようとするが舞が銃撃で牽制、月美が逃げる隙を作る。


「助かったわ。」


 今の判断の早さから、月美は少しずつ舞の調子が戻っていると推測する。


「月美ちゃんが無事なのは嬉しいけれど、右手大丈夫?」


「えぇ。今回は使いものにならないでしょうけど、次までには治るわ。それにこれは精神体。本体には影響が無いわ。」


「なら良いけど…どうする?月美ちゃんの右手の分、戦力が落ちちゃったけど。」


「敵の攻撃で減衰されたとはいえ、充分敵の内部は破壊した。さっき使おうとした種を一斉に飛ばす技はもう使えない。つまり。」


「もう体当たりしか攻撃手段は無い、だね。」


「えぇ。だから、遠距離から攻め続ければ勝てるはず。私が牽制するから、あなたはその内にチャージショットを。」


「了解‼︎」


 話している間に少しずつ迫っていた敵に向けて月美は引き金を引く。枝に当たると威力が削がれてしまうため、想像していた以上の集中力を要する。と、先程の攻撃でチャージショットの威力を減衰させた枝が脆くなっていることに気付く。そこを狙って撃つと、予想通り枝は折れる。無防備になったそこを集中狙いすると、デビルはその位置を庇うように向きを変えて進撃して来る。


ー面倒ね。ここは、賭けに出るべきかしら。


 最近、今まで賭けをしてこなかった分を取り返さんとでも言わんばかりに賭けをし過ぎているように感じ、自分自身に呆れてしまう。


「月美ちゃん‼︎一応溜まったけど、これじゃ針に阻まれちゃうよ‼︎」


「当たって砕くしか無い‼︎」


 月美は、軽くハンマーを倒してウインドウを出す。そのウインドウの「ムーン・リコレクション」を選択。舞の銃を射抜く。


「わーお、脳筋。じゃあ、いくよ。」


 緑色に輝く銃の銃口を、月美に迫るデビルへ向ける。どうやら敵は自分の装甲によっぽど自信があるようで、舞の攻撃を躱そうという動きを見せずに月美に迫る。月美も、それを躱そうとはしない。下手に回避しようとして舞の狙いがブレたり、デビルの狙いが舞に変わったりしてはいけないから。

 舞が引き金を引く。ムーン・リコレクションで強化されたチャージショットは、容易にデビルの枝の針の装甲を破壊する。こうして、勝敗は決した。二人は、銃に付いた砂時計を軽く打ち合わせる。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 時間が進む。どうやら、今回アースは姿を見せる気が無いようだ。


「お疲れ。」


「うん。お疲れ。」


 月美は右手を軽く開いて閉じる。精神体の傷は本体には関係無いとは分かっていても、確かめずにはいられなかったのだ。


「それにしても、時間が止まる前にやけにソワソワしていたけど。」


「あぁ、それなんだけど、その、ね?」


 顔を少し赤くして俯く舞。自分から踏み込むしかないと思った月美は、舞の手を引き公園えと向かう。


「えっと、何でここに?」


「私の予想が外れてしまっていたら少々恥ずかしいのだけど。さっきからあなたが気にしていたのはこれかしら?」


 月美がバッグから袋を取り出す。その袋から漂う、ほのかに甘い香り。


「月美ちゃん‼︎それって‼︎」


「言わせないで。」


 この反応で、舞は袋の中身を理解する。開けても良いか聞こうと思ったが、中身が分かっているのにそれを聞くのも無粋に思えた。


ーやっぱりボク、独りなんかじゃないや。


「大事にするよ。」


「腐るから、ちゃんと早く食べなさい。」


「中身、食べ物なんだね。」


「無粋ね。」


 そんなやりとりを繰り広げながらも、舞は自分のバッグの空いてる場所に袋を入れる。


「いつか、聞かせてちょうだい。今日、それから、私達が衝突したあの日。あなたに何があったのか。」


「うん。分かった。」


 時間が止まる前とは打って変わって、舞は木漏れ日のように優しい笑顔を見せた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 翌日の朝。月美の携帯に、『プレゼントありがとう。美味しかったよ‼︎またいつかどこで買ったか教えてね‼︎』というメッセージ。


ーまた店で買ったものと勘違いを…


 少しイラついた月美は、『教える気は無い。また来月のお返しに期待するわ。』と返したのだった。

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