第十五話 ピカピカの一年生‼
RTAゴリラ君を倒した後の話です。
第十五話 ピカピカの一年生‼︎
カヅキとの対話と、その後に起きたゴリラ型のデビルとの戦闘を終えた月美。彼女は寮への帰路を歩いていた。そんな中、彼女は見知った顔を見つける。
「あ、月美ちゃんだぁ。元気〜?」
「…お久しぶりです。」
金城愛。金城仁美の姉にして、影山月美の従姉妹。月美はそんな彼女の周囲を確認し、金城家の従者がいないことを確認する。もっとも、仮に従者を連れている状態だったら月美に声をかけずに、それとなく従者が月美に気が付かないように立ち回るだろうが。というのも…
「合格してから会うのは初めてですね。高校の件、ありがとうございます。」
「そんなにかしこまらないでよぉ。それに、別に気にしなくても良いよ〜。従姉妹なんだし、もっと頼っても良いんだよ〜?」
月美はこの神名市に拠点を移す為、神名西大学附属高校へ受験した。しかし、金城家とやや複雑な関係の彼女は、自分が神名市に滞在していることをあまり金城家に知られたくは無かったのだ。そこで彼女は愛を頼ることにした。金城家の中でも大きな力を持ちながら、金城家の現当主である父との関係はそう厚くない愛。そんな彼女しか、自分が神名西大学附属高校を受けたことを金城家から隠してくれる人物はいないと思った。そんなこともあり、今の二人は、簡単に言えば共犯者のような関係という訳だ。
「うんうん。高校生活はぁ、ちゃんと順調そうだねぇ。」
「何故そう思ったのですか?」
「月美ちゃんがぁ、私を見たときにちょっと嫌そうな顔をしたからかなぁ。」
「…最近、表情に出ていると言われることが増えてきた気がします。」
舞やりんにそのことを指摘されたときのことを思い出す。そして、表情に出やすくなった原因は、認めたくは無いが舞が原因だろうと見当をつける。
「ちゃんと友達、出来たんだね。」
その言葉を聞き、月美は罪悪感を覚える。仁美を一人にしない為に同じ高校に入って欲しいという願いを断っておきながら、自分の願いを押し付ける。それは、立場などに関わらず、人としてどうなのかという疑問がよぎる。
「愛さん。私は…」
「仁美のことを気にしてるの〜?」
「虫の良い話かもしれませんが。」
「そんなこと無いよ〜。それにねぇ?私は、月美ちゃんに感謝してるんだよ?」
愛が月美に気負わせない為に、気にしなくて良いという趣旨の言葉をかけることは想像していた。しかし、感謝していると言われることは全く想像していなかった為、少し反応が遅れてしまう。その様子にしてやったりといった表情を浮かべてから、愛は言葉を続けた。
「神名市に来るって決めてからの月美ちゃんを見てたらねぇ。今までの私は〜、ちょっと過保護だったかもって思ったんだぁ。私が二人を一緒にして、一人にならないようにしようとしないとって思ってた。だけどぉ、私が手出しなんかしなくても〜、それぞれの大切な友達を見つけられるんじゃないかなぁって。私が思ってるよりも、二人は大人なのかもなぁって。」
月美は、その言葉にどう返せば良いかが分からなかった。正直、自分が一人じゃないのは偶然だと考えているからだ。仮に舞と出会わなければ、きっと一人のままだったはずだと考えているから。だからこそ、自分が一人じゃないから仁美も大丈夫だと、無責任なことは言えなかった。
ー口先では何とでも言える。それでも、こんな私にここまでしてくれた人物に、そんな不誠実な対応をしたくは無い。
「私は…」
「そんなに気負わなくて良いよぉ。全部、私がやりたくてやったことだしさぁ。じゃあ、こうしてあんまり話してるのも良く無いし、そろそろ行くねぇ。」
そうしたモヤモヤを抱えたまま別れようとしたタイミングで、月美はわざわざ聞く必要も無いと思っていたことを、せっかく会えたから聞こうと判断した。
「そう言えば。私の寮の部屋の位置、細工しましたか?」
「そんなことしてないよぉ。下手なことをしてお父さんにバレるのは〜、私としても月美ちゃんとしても不本意でしょ?」
「なるほど。なら、偶然だったと。」
「何より、月美ちゃんはどんな部屋が良いのかとか聞いてなかったし。」
「それもそうですね。」
その説明で納得し、「それでは。」と言い残してその場を後にしようとする月美。そんな月美に、愛が語りかける。
「勉強も大事だけど、無理せず楽しむのも大事だよぉ?だって、ピカピカの一年生なんだからさぁ。」
どこか呑気で、彼女の持つ天才性を感じられないような表現に、月美は苦笑いを浮かべる。その愛の言葉に、「仁美にも良い友人が現れることを願ってます。」とだけ返して、彼女は寮へと戻って行った。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
月美が寮室にたどり着くと、不安気な顔をした舞が出迎えた。彼女は月美の手を取り早口で問う。
「大丈夫かい?月美ちゃん‼︎聖因子を使い過ぎて無いかい‼︎」
「えぇ、大丈夫よ。」
詳しく状況を聞こうとする舞を少し怪しいと思いつつも、今回の戦闘の概要を伝える。戦闘の概要を聞いた舞は、月美が無事だと知って安心したような様子で。
ーそう言えば数日前から少し様子が変だけど。深追いはしない方が良さそうね。
月美ちゃんがそんなことを考えていると、先程までの不安そうな様子が嘘だったと思える程の明るい声で舞が喋り始めた。
「それにしても、そんなに早く倒しちゃうなんてねぇ。倒されたゴリラデビル君は、RTAゴリラと名付けよう。」
「RTA?」
聞き慣れない単語に疑問符を浮かべる月美。月美の様子から、彼女がこの言葉を知らないと判断した舞が意味を解説し始める。
「リアルタイムアタック。略してRTA。いろんなタイムを競う競技のことだよ。」
「なるほど。それで、タイムアタックとして好記録を出した際の相手だからRTAゴリラという訳ね。理屈は理解したわ。」
「流石月美ちゃん。」
こうしてまた、将来使う機会がそう無いであろう、あまり役に立たないような知識を獲得する月美。そんな彼女は、どうでも良い疑問を覚える。
「ただ、名付けたところでその呼称を使う機会はあるのかしら?」
「きっとあるさ。新たなRTA系デビルが現れたときにねっ…」
そうやってふざけながら、舞が少しずつ普段の調子を取り戻しているようだ。笑顔が自然なものになっている。
「さて。今回のデビルを特に損傷も無く倒したとはいえ、やることは山積みよ。」
「な、ナンノコトダロウナァ。」
「とぼけても無駄よ。ラグナロクとほぼ同時期に、高校生になってから最初の定期試験があるのよ。」
「分かってるんだけどさぁ。勉強より大事なものだってあるじゃないか‼︎ほら‼︎ボク達はピカピカの一年生なんだよ‼青春しよっ‼︎︎」
「まさか、この歳になってその表現を一日に二回も聞くとは思わなかったわ。」
「おっ?同じことを言う人がいたのかい?その人とは気が合いそうだなぁ。いやでも、気が合うってことは月美ちゃんを取り合う恋敵にって展開になる可能性もなきにしもあらず…」
「無いわよ。それに、ラグナロクに関してもお互いの技の理解を深めるだとか、今のうちから敵を迎撃するのに使えそうな場所の見当をつけておくだとか、今からでも出来ることはあるのよ。」
「うわぁ、月美ちゃんがスパルタだよ…」
「そんなこと言ってないで、今日の課題から進めるわよ。」
部屋に戻った際に、舞の様子がおかしかったことを意識の端に追いやる。愚痴を言い続ける舞に、自分でやる気を出さないと意味が無いと判断して黙々と自分の範囲を進める月美。しばらくたって月美の課題が終わると、それを写そうと月美のノートに手を伸ばす舞に、それに気付いてすぐにノートを仕舞う月美。そんな月美に、舞は「けち。」呟いて口を尖らせる。
時間は流れていく。止まることはあっても、巻き戻ることはない。この頃の二人は、この些細な日々が運命を左右するなどということは予想だにしていなかった。
この回の裏話などはTwitterの方でさせて貰うかもしれません。
次回は3月15日です‼︎




