第十四話 思い出語り
無事受験に合格した月美と舞。そんな中、月美はある人物と接触します。
始業式から約二週間たったある日のこと。月美は神名市立病院の一室にいた。
「お久しぶりです。影山さん。今日は何の用事ですか?」
「ラグナロクの収束と、私達の近況の報告をしに来たのよ。」
そう答えながら、月美は見舞い用に用意された椅子に座る。そんな彼女を、ベッドの上で出迎える一人の少年。ムカイカヅキだ。彼は楽しそうな笑顔を向けている。月美はそれを意図的に無視する。
「あの子との…木村舞との関係も良好。無事受験にも合格したわ。相変わらずデビルとの戦いは綱渡りで、聖因子には余裕が無いという状況には変わりないけれど。」
「そんな暗い話より、明るい話が聞きたいな。そうだ。11月末以来連絡も取り合っていませんでしたが、あれからいかがお過ごしでしたか?クリスマスや、年末年始。」
「どちらも、満喫は出来なかったわね。なにせ受験生だったのよ。あのときのあの子、来年こそは絶対月美ちゃんと楽しいクリスマスを過ごすんだって喚いていたわ。」
「喚いていたって、酷い言い草ですね。」
そんなカヅキの言葉を聞き流しつつ、その当時のことを思い返す。
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「あぁ、受験という壁が、僕らのイチャコラクリスマスを妨げるんだ…」
「受験でどちらかだけが不合格になったら、住んでいる場所の距離というもっと面倒な壁が生まれることになるわよ。」
「それは嫌だ。」
少しやる気と集中力を出す舞。しかし、それも長続きはしないと思っていた月美は、用意していた手を使う。
「この範囲の8割以上が正解だったら、ご褒美をあげるわ。」
「月美ちゃんからのキス⁉︎」
「そんなわけ無いでしょう。あなた、少し欲望に忠実すぎないかしら?」
「月美ちゃんのケチ。」
「それに、そういうのは…いえ。何でも無いわ。ご褒美の正体は見てのお楽しみ。」
ー我ながら、甘やかし過ぎかしら?
そんな月美の懸念も知らず、「よーし、やるぞー‼︎」と、腕まくりをして月美が指定した箇所を解き始める。不正をしないか気を配りつつ、自分の範囲を進めることも怠らない。そうしてそれぞれの範囲を進めていると、「出来た‼︎」という舞の声が部屋に響いた。月美が少し待つように言い、自分の範囲にキリをつけてから採点すると、正答率は8割5分。月美が提示したラインを超えている。
「合格よ。ちょっと待ってて頂戴。」
月美はキッチンへ移動し、冷蔵庫から何かを取り出して部屋に戻る。彼女の手に乗っていたのは。
「ケーキ‼︎」
月美の手に乗っていた二つのショートケーキを見て、目を輝かせる。
「そうだ‼︎この流れで‼︎はい‼︎」
舞がバックから、デコレーションされている紙袋を取り出す。
「中身、見て良いかしら?」
「良いよ。けっこー自信あるんだ‼︎」
その言葉に不安を覚えつつ、月美は紙袋を開ける。中に入っていたのは、黒に近いの紫色のハンカチだった。水色の三日月の刺繍が入っている。
「それ、買い物に行ったらたまたま見つけたんだよね。で、月美ちゃんに似合いそうって思って、衝動買い。」
「想像以上にセンスが良くて驚いているわ。本当に嬉しい。ありがとう。」
「こっちこそ、こんな立派なケーキをありがとうね‼︎一緒に食べよ‼︎」
こうして、取り繕うこと無く本音で話せるのは嬉しい。心の底からそう思った。しかし、唯一不満があったとすれば。
「このケーキ、すっごく美味しいね‼︎どこのお店で買ったの?」
「それは、想像にお任せするわ。」
それは、自分が本気で作ったケーキが、店で買ったものと勘違いされたところだけだ。
「美味しいケーキを食べれたのは嬉しいけど‼︎ボクは月美ちゃんとクリスマスデートがしたい‼︎来年‼︎来年こそは絶対月美ちゃんと楽しいクリスマスを過ごすんだ‼︎」
「はいはい。早く食べて、続きをするわよ。」
「…月美ちゃん、ちょっとご機嫌ナナメ?」
「気のせいよ。」
その不満が、少々顔に出てしまったのかも知れない。しつこく聞いてくる舞を無視しつつ、空いた皿を片付けるという名目で一時的にその場を去る。部屋に戻っても追求は終わらなかった。
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「楽しそうで何よりです。」
「まぁ、そうね。受験生にしては楽しんでいた方だと思うわ。」
「それで、何の為に僕にそれを?」
「分からないかしら?」
「えぇ。それに、話しに来たのがあなただから、より不可解です。自分のことをあまり話さない方だと思っていたので。」
それを聞いた月美は溜息を吐き、カヅキに鋭い視線を浴びせる。
「最近、あの子に聞いて新しい言葉を聞いたのよ。自分に返ってくるような発言を、ブーメランというらしいわ。正にこのことね。」
それを聞いたカヅキが、狂ったように笑う。それを見ても、月美の表情は変わらない。予想の範囲内だったようだ。
「あーあ、やっぱり気付かれてたかー。」
「あの子以外は気付いていたわよ。ただ、そろそろあなたの目的を知っておきたいと思った。だから私はここに来た。」
「だからといって自分のことを話す。人慣れしていないね。」
月美はカヅキの言葉を否定しずに、様子を観察する。胡散臭かった先程までの態度は、予想通りただの化けの皮だったようだ。
「で、あなたの目的は?」
「特に無いよ。ただ、そっちの信用を得た方が後々嘘をついて引っ掻き回しやすくなるから、礼儀正しい人の演技をしていたんだ。」
「後々ってことは、まだ嘘は?」
「うん。まだだよ。」
「そう。」
ーこの証言も、どこまで信用していいのやら。今までの情報も全て鵜呑みにしていたわけでは無いのだけど。多少考える知恵があるくせに、動機の無い快楽主義者。一番厄介ね。
「ひとまず、あなたの本性が少し見えただけでも今日ここに来た収穫はあったかしら。」
「なら良かったです。ただ、覚えておいて下さいね。あなたも、こちら側の人間ですよ。」
初めて出会った日と同じ、胡散臭い言葉遣いと表情。「じゃ、失礼するわ。」とだけ言い残して月美は病室を後にした。
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月美は病院を出た後、人目のつかない暗がりを探した。その暗がりに入り、虚空に向けて話す。
「あなたも見ていたのでしょう。」
その声に応えるように、光が降り注ぐ。その光が収縮。アースが顕現する。
「あぁ。見ていた。彼のことは最初から警戒していたからな。」
月美と舞がカヅキに会いに行った最初の日。カヅキの病室という、月美と舞、カヅキからしか見られないという比較的安全な場所で消えずに、わざわざ病室の外に出て人がいないことを確認してから消えた理由。それは、まだカヅキに正体や手の内を晒したくなかったから。それを察していた月美は、月美がカヅキに接触すれば必ずアースはその場の様子に注目するだろうと予想していた。そして、仮にカヅキが逆上して月美の身に危険が及びそうになった場合、それを見ていたアースがきっと止めにかかると。だからこそ踏み込んで挑発することも出来た。
「あなたがあの時、彼を警戒しているということを示唆する動きをしてくれたおかげで今回の情報を得ることが出来た。」
「私の意図に気付かない者もいたようだがな。そこまでは良い。だが、彼に明確な目的が無い以上、どこからどこまでが真実でどこからどこまでが嘘かを見抜く為の基準が無い。それが厄介だ。」
「それには同意。何かを隠していても、目的と利害が一致してたら協力出来るのに。あなたみたいに。」
「それに関しては耳が痛い。」
その情報の共有をした二人は、その場を後にしようとしたが。
「待ちたまえ。」
「何?」
「気配だ。来る。」
そう言い、アースが右手を天に向ける。その手を前に突き出し、今度は右に向ける。そして時間が止まった。
「デビルが来た、という判断で良いかしら?」
「あぁ。あれだ。」
アースが指さした先に、岩で出来たゴリラのようなデビルの姿が。(もはやゴーレムと言った方が良いかもしれない姿だが。)
「頻度があがっている。結界の綻びの影響かしらね。それにしても、あなた時間を止める度にそんなことをしていたの?」
「姿を見せている間はな。顕現している際はそちらにも力を割く必要があるせいで、予備動作抜きで力を行使出来ん。」
「なるほど。将来あなたと敵対することがあったら、それを利用させてもらうわ。」
「笑えない冗談だ。」
そんなやりとりをしながらも、月美はデビルの観察はやめない。どうやらデビルはこちらに気付いていないようだが。
「あいつ、やけに動きが鈍いわね。その分防御だけは硬そうだけれど、装甲を撃ち抜けるような大技を放てば逃げる暇も与えずに倒せないかしら?」
「試す価値はあると思うが。」
実践した。月美の推測通り、敵を撃破。あまりにも呆気ない終わりだった為、一瞬呆然とする二人。すぐに我に返ったアースが時間を進める。
「今までで一番あっけなかったわね。」
月美の携帯にメッセージ。舞からだ。「さっき時間が止まったけど、アースの間違い?それとも月美ちゃんがすぐ倒しちゃった!」とのこと。月美は舞に「私が倒したわ。今帰る。」と返信して、アースに別れを告げてその場を後にした。
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「今回は、随分早く終わったなぁ。」
病院の一室にいる少年が呟いた。彼はガードル台(点滴を掛けるスタンド)を握ってベッドを降り、ゆっくりと病室を出る。そこで、俯いて歩いていた一人の少年とぶつかりそうになり、なんとか躱す。それに気付いた少年は、小さな声で謝罪の言葉を告げて去って行く。
「あの子の影に見えるのは、土、それに水?もう種は撒かれてるんだね。楽しいことになりそうだ。影山月美にはバレてしまってるから状況を動かし辛くなったけど。さぁ、どう壊して歪めようかな。」
彼は、ムカイカヅキは笑う。どこか不快な甲高い声で。
という訳で、季節外れなクリスマス回でした‼︎カヅキの初登場回(第十話)を見れば、何かに気が付いている月美達の様子が分かると思います。




