第十三話 New Days‼︎
人生における戦い、受験。果たして、二人の受験の結果は…
一月下旬のある日の夜。舞と月美は二人で机に教材を広げていた。月美は集中して過去問に取り掛かっているが、舞はたまに月美のことをチラッと見ており、問題を解くスピードはいつもより遅い。
「何?私の顔に何か付いてるかしら?」
「ん?どーしてそう思うの?」
「あなた、さっきから何回も何回もこっちを見ていて、勉学に身が入っていないように見えるのだけれど。」
言われて舞は一度考えこむように人差し指をこめかみに当てつつ首を傾げる。少し考えてその答えが見つかったようで、疑問が解けた解放感で晴れやかな笑顔を見せる。そして笑顔のまま目の前の教材に手を付ける。
「いや、答えが出たなら教えなさいよ。」
「あぁ、ごめんよ。意外と簡単な理由だったからね。単純に、パジャマ姿の月美ちゃんが新鮮だったから気になったんだ。」
二人がいるのは月美の自室。二人は風呂上がりのようで、普段より少々肌が潤い、髪が湿っている。何故、舞が夜の月美の自室にいるのか。理由は簡単。舞は今日影山家に泊まる予定だからだ。
やけに月美のことが気になった理由が分かってスッキリし、開き直って勉強の手を止めて月美の寝巻き姿を凝視する。このままだと舞がしばらく勉強をしないと判断した月美が外行き用のコートを肩にかけて寝巻を隠す。不満気な表情になり、ノートに視線を移す。少しして行き詰まり、休憩とばかりに床に寝転ぶ舞。
「にしても、意外とボクらの家って近かったんだね。」
「公共交通機関を用いる場合は乗り換えが必要で時間がかかるけれど、自転車であれば神名市に行くより時間がかからない。受験が近付いている今、その移動時間すらが惜しい。」
「その点、自転車を使えばすぐ着くからお互いの家で勉強出来るってのはなかなか良い発見だったねー。」
そんな会話をしつつも、実は月美は少々緊張していた。何故なら、誰かを家に泊めるということは彼女にとって初めてのことだったから。それだけでなく、自分自身への違和感のようなものもあった。いくら相手が初の友人だからとはいえ、かつての自分から見たら、家に呼んだというのは軽率な行動だったかもしれない。
ー要は…私も浮かれているし、戸惑っているのね。初めての友人に。
などと考えつつ舞の元に移動してデコピンを放つ。不満気な顔で起き上がってノートに手を伸ばす舞。月美はそれを確認してから元いた場所に戻ろうとする。一瞬の違和感。時間が止まった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「ラグナロク以来の襲撃ね。聖因子も万全とまでは行かないけれど、安全に勝てる量までは回復している。落ち着いて行くわよ。」
「任せて‼︎ボク達の楽しい夜を邪魔した罪は重いからね‼︎」
「待ちなさい‼︎言い方に語弊が…」
そのまま飛び立とうとする舞を止める。そして月美は遥か上空に目を向ける。
「アース、出て来て頂戴。」
その言葉に導かれて、光が降り注ぎ、収縮。アースが顕現する。呼ばれたアースは少々不満気だ。
「毎度毎度、神使いが荒いな、君は。」
「人使いが荒いあなたがそれを言うの?」
「違いない。お互い様と言うものか。君が私を呼び出した理由は分かっている。デビルの情報だな。敵は神名東中学校付近。敵デビル自体は一体だが、眷属を作って警戒している。」
「眷属って何?」
「要は取り巻きのことよ。早めに本体を撃破して、司令塔を失って連携を瓦解させてから取り巻きを討ちたい。早速行きましょう。」
二人は空を飛び、神名市を目指す。うっすらと伸びる、アースが作ったと思われる光の線に従って進む。しばらく飛び続けていると、遠くまで響かないように、しかし月美にはしっかり聞こえるような声で舞が泣き言を言う。
「遠い遠い、遠い‼︎早く神名市暮らしに変えたいよ〜‼︎」
「それはもう少し安全に合格出来るぐらいの学力を身につけてから言いなさい。」
「それってさ、月美ちゃん。今のボクでも、安全じゃ無いけど合格する可能性ならきちんとあるってこと?」
「自惚れないで。可能性なら誰にだってある。あなたが受かる確率も、そう高い訳じゃない。だからその可能性を1%でも上げる為に努力しなくてはいけないの。まぁ、その話は後。そろそろ目的地まで残り1kmを切ったはずよ。私達の移動中に敵もこちらへと向かっている可能性や、眷属が巡回している可能性もある。気を引き締めなさい。」
「りょーかいっ‼︎」
舞はそのまま前を警戒しつつ前進。月美は舞と背中合わせになり後退しつつ舞の死角の警戒をする。その状態でしばらく前進すると、舞が「下に退避しよ。」という小声。それに従い、すぐに下にあった民家の陰に隠れる。家の影から前方を覗くと、銀色の雛鳥が空を舞っていた。
「実体が無いこの身体なら障害物を擦り抜けられるし、ここは鳥が空にしかいないことを祈って、建物に隠れながら地上スレスレを飛ぶ?」
「道標は見えなくなるけど、それしか方法は無さそうね。」
二人は民家を擦り抜けて飛ぶ。こまめに止まり、付近にいる眷属の位置を確認。索敵範囲に入ることを避けつつ進んでいる内に想定以上の時間がたってしまったが、なんとか目的地に到着する。敵が移動してしまっている可能性を危惧しながら様子を伺う。
「いたよ、月美ちゃん。」
「取り巻きは近くにはいない。プラン1から進めて良さそうね。」
二人は長い移動時間を無駄にはしていなかった。その間に月美がいくつかのプランを立て、舞に伝えていたのだ。プラン1は、比較的聖因子の残量が少ない月美が囮となって敵を引きつけて、その間に舞がチャージショットで親玉を撃破するというもの。月美を危険に晒したくない舞としては出来るだけ避けたい作戦だったようだが、「あなたには私を守れる自信が無いのかしら?」の一言で黙らせた。舞の恋心を利用しているようで良心が痛むのだが、お互いの為だと割り切る。
「じゃあ、チャージを開始して。」
「分かった。」
いつもは見せない、真剣な表情の舞。唯一の仲間としては頼もしいと評価せざるを得ない。そんなどうでもいい思考を止め、彼女は敵に向かって飛ぶ。
対峙した敵は、鷲型のデビルだった。(鋼の身体を持ち、翼の羽根一枚一枚がナイフのようになっていたが)。デビルは思い切り羽ばたき、翼に付いているナイフのような羽根を飛ばしてくる。自分に当たりそうなものと、建物に隠れてチャージショットを溜めている舞まで届きそうなもののみを破壊する。
ー厄介ね。簡単に遠距離攻撃手段を用いたということは、以前交戦した蛾型より使える回数が多いと見て良いはず。あの子がこちらの様子が分からない以上、私があの子も守る必要があるし、状況はあまり芳しくないわね。今は出来るだけ、やらなきゃいけないことを減らしたい。
そう考えていると、デビルのはるか後方から眷属が現れる。月美はこれを利用するべきだと判断。
再び羽根を発射するデビル。それを見た月美は、今度は銃で空間を真横に斬るように振りつつ引き金を何度も引き、舞の元に飛びそうな羽根をはじめとした、自分の進行ルートを阻む羽根を撃ち落とす。そうして作り出した隙間を縫い、チャージショットを溜めつつデビルの横を通り抜けて眷属の元へ。右肩に一本羽根が刺さってしまったが、それも必要経費。普段より軽めの威力のチャージショットを眷属に叩き込み、消滅させる。
デビル視点だと、月美は二対一になるのを恐れて強引に眷属を消滅させたように見えるだろう。実際、敵から見てそう見えるように立ち回ったのだから。しかし、月美の目的はそこでは無い。月美の目的は、ただ移動すること。デビル、月美、舞が一直線に並んでいたら、デビルが月美を狙うと副次的に舞も攻撃を受けてしまう。ならば盤面を変えてしまえばいい。そうすれば月美と舞が同時に攻撃を受けることも無く、舞が奇襲を仕掛ける際も気付かれにくくなる。
敵は闇雲に羽根を飛ばしても意味がないと判断し、接近戦へと切り替える。以前のラグナロクを通して試したいことが出来ていた月美はそれに応戦。デビルの蹴りを、トンファーのように持った拳銃で防ぐ。デビルは怯まずに逆足での蹴りを放つ。月美は反射的に肩に刺さっている羽根を抜き、それで蹴りを受ける。デビルの攻撃でデビルを傷付けることは出来ない。故に羽根は壊れることなく月美の身を守った。両足での攻撃をガードされて攻め手を失ったデビルは一時的に下がろうとする。月美はそれを許さず追撃を仕掛けようとして、止める。背後から気配を感じたからだ。一瞬で振り向き、蹴りでデビルの接近を防ぎつつ背後の気配に照準を合わせる。気配の正体は眷属。四発撃ち、三発が命中。眷属を撃破。その隙を狙ったデビルからの反撃を見越してデビルの方を見ると、その後ろには五体の眷属。
ー早くこの眷属を排除しないと。そうしないと、この眷属達が舞のチャージショットからデビルを身を挺して守ることで撃破を防がれる可能性がある。
そう考えた月美は、効率良く眷属を屠る方法を探るべく記憶を探る。思い付いたまでは良いのだが…
ー私の特殊技、強力な反面消耗が激しいものばかりで小回りが効かないのが難点ね。
などと心の中で不満を漏らしつつ、月美はすぐ背後まで迫っていた中学校へと侵入。理科室を探して飛ぶ。逃げる月美の姿を見て今が好機と見たか、付近の全ての眷属を従えてデビルが追ってくる。
「あった‼︎」
月美は理科室に入り、ガラス棚の中を見る。目的のものを見つけ、ハンマーを一度軽く倒してウインドウを出す。「ムーン・リコレクション」を使用し、目的のものを射抜く。それとほぼ同時に、理科室の壁をすり抜けて侵入してくるデビル。
「ギリギリ間に合ったみたいね。さぁ、あなたの出番よ。」
月美の隣には火の英霊のような姿をした何かがいた。心臓部にガラスのようなものが浮かんでいる。その英霊は周囲に熱を、炎を発する。月美には影響が無かったが、デビルは装甲が溶けるという重症、眷属は全て消滅と甚大な被害をもたらす。英霊が手を前に伸ばすと、追撃を恐れたデビルは咄嗟に逃げる。が…
「残念‼︎行き止まり‼︎」
逃げた先にはチャージショットが溜まった銃で銃口を向ける舞の姿が。舞が無慈悲に引き金を引く。羽根を飛ばしてチャージショットを迎え撃とうとするが、焼け石に水。羽根は全て一瞬で霧散し、英霊の攻撃で装甲を損傷していたデビルの心臓部を貫く。こうしてデビルとの勝敗は決した。弔い合戦だとでも言わんばかりに遠くの警戒にあたっていたであろう眷属達が現れるが、連携のとれていない眷属達は英霊の攻撃を躱す際にお互い足を引っ張り合い、纏めて消滅した。それと同時に、力を使い切った英霊も消える。しばらくその場で警戒していると、空からアース。彼曰く、眷属は今ので全て消滅したとのこと。月美と舞の二人は銃に付いている砂時計を軽く打ち合わせた。こうしてまた、時間は進む。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
視点が変わる。月美の部屋。舞は目の前の現実を示すノートと参考書を見て、露骨に顔をしかめる。
「そう言えば月美ちゃん。最後の方にいたあの火の魔人みたいなやつ。あれ何?」
「アルコールランプよ。」
「へ?」
「私の『ムーン・リコレクション』の副次効果は以前見せたでしょう?それで、今回使ったのが本来の効果。物体の中の記憶を解放することが出来る。ラグナロクであなたが炎系統のデビルと戦ってる時に、他の敵よりダメージが通りにくいようだった。だから、進んだ時間での相性がデビルにも適応されると仮説を立てて、一番近くにあった火に関する物体、アルコールランプの記憶を解放して戦わせたわけ。」
どうやら、あの火の英霊の範囲攻撃の影響を受ける範囲にいながら月美には何も起きなかったのは、火の英霊が聖因子由来のもので、聖因子で聖因子を傷付けることが出来ないからのようだ。
「それで、あなたも私達の居場所がよく分かったわね。」
「それ、月美ちゃんが言う?あれだけ派手に攻撃させたの。あれって邪魔なのをやっつけるだけじゃなくて、ボクへの目印も兼ねてたんじゃないの?」
月美は淡い微笑みを浮かべて「さぁね。」とだけ返す。それを聞いて、不満気に頬を膨らませつつノートに向き合う。
ーたまには甘やかさないと拗ねてしまいそう。仕方がない子ね。
「早くキリをつけなさい。キリがついたところで今日は終わり。予想外のこともあって疲れたでしょう?」
「本当⁉︎やった‼︎月美ちゃんと寝れる‼︎ボク、すぐに終わらせるからね‼︎」
「ベッドはあなたに貸して、私は布団で寝るわよ。」
「えー‼︎月美ちゃんのベッド、大きいじゃないか‼︎これなら二人でも寝れるよ‼︎…いや、ドキドキして寝付けないかもしれないけど。」
結局そのまま舞の勢いに押し切られ、二人は同じベッドで眠ることになった。何も間違いは起きなかった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「グッモーニン‼︎晴れ渡る空‼︎制服に身を包む可愛い友達‼︎その友達は彼女候補‼︎という訳で、もーいっかい‼︎グッモーニン‼︎」
「朝からうるさいわよ。良いから早く準備をしなさい。」
時は変わり、4月。月美は舞のテンションの高さに付いて行けずに溜息を吐く。二人がいるのは、神名西大学付属高校の寮の舞の私室。あの戦いのから4月までの間、二人は三度ほど襲来したデビルを撃破し、見事受験にも合格。計画通り神名市に拠点を移すことに成功したのだ。
「あなた、私が起こさなかったらまだ寝ていたでしょう?入学式から遅刻すると、いろいろと目を付けられるわよ。」
「時間ギリギリには起きるつもりだったよ。」
「そう言いながら、慣れないネクタイに戸惑っているのはどこの誰かしらね?」
「月美ちゃん、やってくれないかい?なんか夫婦みたいな感じで憧れてたんだ。」
「世話が焼ける…」
そうは言いながらも持っていたバッグを床に置き、舞のネクタイを締める。ランダムで選ばれる寮の部屋が隣同士になったことに感謝しつつ。
ー偶然じゃない、かもしれないけれど。
月美は一応、神名西大学付属高校に合格した時点で愛に報告はしている。念のため他の金城家の関係者に伝わらないように細工するように要請したので、月美が神名市にいることは愛の妹である仁美も知らないだろう。そんなこともあり、この寮の並びは愛が仕組んだ可能性もあるのだが。
ーそれを知っても何も変わらないものね。
考え事をしている内に、舞も準備が終わったようだ。月美が想定していたより少々遅れてしまったが、時間にはまだまだ余裕がある。
「じゃ、行こっか‼︎」
舞が扉を勢いよく開く。月美は床に置いていたバッグを肩にかけ、扉の先にある高校生活への第一歩を踏み出す。
無事二人とも合格しました‼︎というわけで、この作品を読んでくださっている受験生の皆さんも、笑顔で受験を終えれるように祈っています‼︎
次回の更新は2月15日です‼︎




