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第十二話 メモリアル・デイズ

 なんとか見える範囲の敵は全て倒した二人。仲違いをしていた二人は…

「今ので全部かしらね?」


「そうだと信じたいけど…月美ちゃんも思い切ったことをしたね。」


「あれが早急に敵を屠る最善手だった。時間をかけてじっくり数を削ってもジリ貧で、結局最後には押されて負けるはず。賭けなきゃ詰むのならば賭けに出る。当然の帰結よ。」


 もう一人の月美が最後に放った銃弾は、舞に向けられたものだった。予想外の出来事に戸惑った舞は硬直。その攻撃を被弾する。しかし、舞の精神体に傷は生まれなかった。これが月美の一つ目の賭け。「聖因子は聖因子を傷つけることは出来ないのでは無いか?」という仮説の立証。

 思えば、デビルの力と聖因子にはどこか類似点がある。どちらも、アースの時間停止の影響を受けない。その止まった時間の中では物理的概念を持たない精神体で活動している。そしてデビルの攻撃は、デビルにダメージを与えることが出来なかった。故に彼女は上記の仮説を立て、そして立証した。

 二つ目の賭け。それは、舞が月美が一撃に込めたメッセージに気付くということ。自分がこのような行動を取ったのかを舞が理解し、月美が思ったように舞が行動をするかどうかも正直賭けだった。


「チャージショットと通常攻撃じゃ結果が違うかもしれないとは思わなかったのかい?」


「さっきの私の行動が短絡的とでも言いたいのかもしれないけれど、私が賭けに出ようと思ったのは間違い無くあなたの影響よ。」


 それを聞いた舞は、心外だとでも言いたげな視線を投げかける。それでも月美の言葉には突っ込まない。次を促しているのだろう。それを察した月美は言葉を続ける。


「私に騙されても良いと思っている、だったかしらね。あなたが言っていたのは。私の考えはそれとは違うけれども、割り切ることにしたという点では似ているかもしれないわね。仮にあなたやアースが敵ならば、どうせ私は詰む。ならば、もしあなた達が敵だったらどうするべきかといった仮定に意味は無い。だから私は、あなた達が仲間であると信じて進むしか無い。」


「うわぁ、なかなか後ろ向きな考え方だね。もっと前向きな理由で信じるっていう選択肢は無かったのかい?」


「そうするには、判断材料が足りないわ。」


 苦笑い。軽口を言い合い、そして笑い合う。月美の心の重しのようなものは消え去っていた。


「それから先日のことだけれど。自分のことでいっぱいで、あなたの気持ちに寄り添えていなかった。配慮が足りなかったわ。ごめんなさい。」


「うん。ボクもあのときは強く言い過ぎたと思う。それに関しては、ごめん。」


 舞が月美の手に触れる。月美はそれを拒まない。


「ちゃんと喧嘩をした後は、ちゃんと仲直りだからね。」


「そうね。私は、お世辞にも他人の感情に聡いとは言えない。あなたを傷つけることを言うかもしれない。それでもあなたは、私を友人として認めてくれるかしら?」


「そうだね。まずは友達からだ。」


 それを聞いた月美は、舞はまだ自分のことを諦めていないのだと再認識。自分が魅力のある人物だと思っていない彼女、その理由の分からない一途さに呆れて溜息を吐く。それでもその顔に嫌悪感は浮かんでいなかった。


「あなた、まだそれを諦めていないのね。」


「諦めないよ。それに、ちゃんと考えて結論を出してくれるんでしょ?それなら、どんな結末が待ってたとしても、ボクは認められる気がするんだ。」


 その期待も、重荷だとは思わない。一人の友人として、きちんとお互いが納得出来る答えを導き出すべきだと信じているから。


「あ‼︎笑った‼︎」


「え?」


「軽く微笑んだって程度だけど、ボクの前で初めて笑ってくれた気がするよ‼︎」


 言われて考える。本心から笑えるのは何年振りかと。金城家との特異な関係に悩まされ。そんな中でも手を差し伸べようとする愛への対応で感情をすり減らし。そして聖因子関連の騒動に巻き込まれて心の余裕を失った。そんな中、信じるしかない存在が現れ。それが、疑ってばかりだった自分への荒療治になったのかもしれないと月美は分析する。そんな成り行きな関係でも、蔑ろにしてはいけないと思えて。


「まだ今は信頼出来る相手じゃなくて、信頼するしかない関係。それでも私が覚えている限りでは、あなたが初めての友人。出来るだけ長くこの関係が続くことを祈っているわ。」


「出来るだけ早めに信頼出来る相手になれるように頑張るよ。それであわよくば、友達以上のトクベツな関係に、ね‼︎」


 舞が右手に持った拳銃を真上に投げて左手でキャッチ。銃口を上に向けた状態で顔の横に。それで何をしたいのか察した月美は呆れて溜息を吐く。舞が規格外の行動を取り、月美が呆れる。これは友人となったこれからも変わらないだろうと思いながら、月美は右手に持った拳銃の砂時計を舞のそれに叩き合わせた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「さて。話は済んだだろうか。」


 遥か上空から光。それが収縮し、アースが顕現する。


「ちょっと‼︎良いところだったんだけ…」


「お疲れ、アース。残党はいたかしら?」


「現状はいない。今からでも結界の構築を開始するつもりだ。」


 突然のアースの登場に戸惑う舞と、アースが元からそこにいたかのように普通に会話を始める月美とアース。何故そんなにも冷静なのかと問うと、元からアースの気配は感じていたという。敵が全滅したという確証も無い状況にも関わらず呑気に舞と話していたのは、仮に敵が奇襲を仕掛けようとしても敵を捜索しているであろうアースがそれを伝えてくれると予想していたからだそうだ。それを聞いた舞は、「月美ちゃんってば、それぐらいボクにも教えてくれたっていいじゃないか。」と、不満気な表情を浮かべていた。そんな彼女にも構わずアースと月美は会話を続ける。


「前回より質の高い結界を作るとは言っていたけど、前回よりあなたの力の総量は減っているはずよね。総合的な防衛力は?」


「大差は無い。寧ろ少々以前のものより劣っているだろう。」


「あなたの力は、充分回復する前に減っていく一方。ジリ貧ね。」


「耳が痛い話だ。」


 苦虫を噛み潰したような顔で考え込む二人。きちんと会話の内容を理解していた舞が、「もう一人か二人ぐらいボクや月美ちゃんみたいな子がいたら、デビルが入ってきても対応出来そうなんだけどねー。」と呟く。


ー私達のように聖因子を持つ人物が現れる可能性、ね。考えたこともあったけれど、正直諦めかけてきていた。ただ、ここから先になって私達二人きりで戦い抜けるかは際どいところ。中間策としては、聖因子について調べて、それを使いこなせる人間を増やす。これが一番なのだけど、現状それが出来そうなのは…


 そう考えたところで頭の中に一人の少女の姿を思い浮かべ、まだその時ではないと自分に言い聞かせて思考を中断する。


「さぁ、もう時間を止め続ける理由も無い。時を進めよう。」


 アースの言葉と共に時間が動き出す。犠牲者は0人。ファースト・ラグナロク、終幕。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 月美の視点が変わる。ここは自室。橙色の夕焼けの光が照明を使っていない部屋を照らし、染める。窓に視線を移しつつ、月美は昨日三ツ谷りんとした会話を思い出す。


『…聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。だから恥を忍んで聞くわ…』


『何?』


『仲直りというものは、どうすれば出来るものなのかしら。』


『それはね。喧嘩する理由って基本的に二人ともにあるから、どちらかが折れる必要がある。自分のことばっか考えてたら、仲直りするのが遠ざかっちゃうからね。』


『ならば、すぐに仲直りするには?』


『ごめんね、だよ。自分が先に謝れば、きっと相手も謝る。そうやって仲直りすれば良いと思うな。』


 その会話を思い出し、月美は少し微笑む。りんから受けたアドバイスは、言われてみれば当たり前のことで。


ーアドバイス、ありがとう。とても役に立ったわ。


 心の中でりんに礼を告げ、彼女は今日乗り越えたラグナロクのことを、そして木村舞のことについて考える。月美はラグナロクが始まるまで、仲違いを収める程度にしておくつもりだった。舞と正式に友人になるつもりは無かった。それでも友人になることを決めたのは。


ーあのアドバイスを受けた後にあなたの姿を見て、あなたの考えも悪くないと思ったからね。


 だからこそ月美は、戦いの最後にらしくもない賭けに出た。堅実に動くだけでは変えられないものもある、柔軟な対応も必要だということが分かった。そして、いつも予想外の行動をとる舞のことをもっと知りたいと思った。


ー友人、友人ね。


 思い浮かべたその言葉に、一瞬だけ心が少し凍りつくような感覚。その感覚を気のせいだと自分に言い聞かせていると、携帯が振動する。見れば連絡の主は舞。送られてきたのは、変顔をした舞の自撮り写真だった。その変顔に被らないように、「おつかれ‼︎」の文字が書かれている。少しそっけないかもと思いながらも、「お疲れ。」と文字だけで返信。こちらの方が自分には合っている。下から月美を呼ぶ声。どうやら夕飯の時間のようだ。携帯に充電ケーブルを差し込み、ダイニングへと向かった。

 初めてのラグナロク、終幕‼︎月美と舞の関係は暫定的とはいえ、正式な友人になりました‼︎彼女達にはデビルとの戦闘という非日常だけでなく、受験という日常が待ち受けています‼︎そちらの結果がどうなるか、一緒に見守って下さい‼︎

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