メイドの事情/あれ?この国まさか・・
王女はお相手を探りたいですぞ。 @短編その46
「おいで、可愛子ちゃん。・・・ここに隠れたのかな?」
皇子がタンス戸を叩いています。
今まずいことになっていますわ・・・
どうしよう・・怖いよぅ・・
私の婚約者候補である隣国の皇子様が、ただいま我が国にご訪問中なのです。
今回、初対面なのです。
けれど、私が絵姿と釣書なんかまともに見ないうちに、お父様もお母様も『君に決めた!!』と決定してしまったのです!
結婚する当事者に見せないって・・・サプライズ!とかお楽しみに〜とか・・お母様!!
『親の言う事は、聞いとけ』と、弟も姉上も適当なこと言ってるし・・・
弟も姉上も、ほぼ恋愛結婚じゃないの!!ずるいっ!!
弟のお相手予定の公爵令嬢は同い年で幼馴染。彼女も一緒に騎士団にいる。まだ婚約はしていないが。
姉上(長女)のお相手の聖者様は、姉上が押して押して押しまくったから、『ま、いっか』って結婚してくれたし!
ちなみに姉弟は四人で、長女、次女、三女、長男の順だ。
で、ゴネにゴネにゴネまくった結果。
皇子に会って、『これはちょっと』と思ったなら、キャンセルしてもいいと言質取りました!
と言うわけで、会う前に侍女に変装して。こっそりとお会いしようと画策しました。
メイド姿なら、いても『素』の姿が観れるのでは?と。
机に足をドーンと乗せて、鼻ほじったりとか。春本読んでたりとか。
メイドに抑圧的な態度をとる人かもしれない。
正に真の彼を見てやるのです。見極めてやるのです!!
私との顔合わせは、6時の晩餐会。今は2時半。
ランチも済んだ今が、一番だらける時間です。
さあ、レッツゴー!です!
このレッツゴーは、姉上の旦那様である聖者様から教わりました。レッツゴー!
早速メイドから服を借ります。でもなかなか貸してくれません。
「だからね、ちょっと代わって頂戴」
「姫様ぁ・・あたし、ばれたら首になりますぅ・・・」
「首になったら退職金いっぱいあげるから!金貨300枚!」
「はい、喜んで!!!」
即引き受けてくれました。メイドに代わってもらい、いざいざ。
彼女の持っていたティーワゴンを受け取り、皇子様の部屋をノック。
「お茶をお持ちしました」
「・・入れ」
中に入ると、王子様は従者を下げさせているのでしょう、一人でいらっしゃいました。
ベッドにゴロリと横たわっています。揺れる馬車に5日間、乗っていてお疲れなのでしょう。
「紅茶をお持ちしました。冷たいアイスティーです」
すぐ飲まれるかもと、ティーワゴンをベッド側まで運びます。
「お注ぎしてもよろしいでしょうか」
「・・・ああ」
皇子はゆっくりと起き上がり、ティーワゴンに近寄って、立ったままアイスティーを飲み干しました。
あっという間!喉が相当渇いてたのでしょうね。
「おかわりはいかがですか?」
「もう2杯くらい」
「畏まりました」
ごきゅごきゅごきゅごきゅ、ごきゅごきゅごきゅごきゅ、ぷはーーーっ。
「ああ、うまかった。ありがとう」
おおお。凄い勢いで飲んでしまった!
「まだありますよ」
「では、注いでおいてくれ」
「はい」
さて、皇子様チェーーーック!!
髪は濃い金色。目は碧色、浅黒い肌色、背は弟より少し低いかな。まあ、弟191センチだし。
ホホーウ、ハンサムですわ。
絵姿見たかったなぁ・・・本物と比べたいわ、ぐふふふ。
ん?王子様、こっちをじっと見ている・・・
「あの?何かご用が」
「ふーーん・・・可愛いなぁ」
「?」
「僕はトゥイエ。君の名前を、君の声で聞きたいな」
「?!」
え!!
こ、これは、これって・・・ナンパですか?
女中をナンパ?つまり、手が早い方なのですね!
こんな方とは、結婚できませんわ!!
早急に、父上に報告を・・
私は急いで部屋から出ようと、駆け出しましたが、手を掴まれてしまいました。
「おや。どこに逃げるんだい?さあ、名前を言ってごらん」
「ふ、ふにゃあああ」
なんとか彼を突き飛ばし、よろけた隙にドアに駆け込んで閉めました。
あ。
ここ、続き部屋だ!廊下のドアじゃなかった!!
父上と母上の部屋もこんな感じです。
大きい方が父上の部屋、ちょっと小さい方が母上の部屋。その二部屋を繋ぐドア、そんな感じの作りです。
あわわ、ああ、どうしよう、えい!
私は何を間抜けなことをしたのでしょう。
今度こそ廊下へのドアから出るべきだったのに、タンスの扉に飛び込んで、閉じたのです。
入ってから気がつきましたが、続き部屋のドアが開く音がしました。
あ、あわわ・・・皇子が来ちゃう・・・
「おいで、可愛子ちゃん。ここに隠れたのかな?」
ひえっ!!
タンスの前に、皇子が立ったーーーー!!!
「もう、こんなところに隠れて・・・開けるよ?」
う、うわああっ、やだやだやだーーー!!
きいい・・・
タンスが開けられたぁ・・・
「・・・どうしたの?もしかして・・・僕が怖いのかい?」
私はタンスの中で丸まって、涙をボロボロ溢して震えていました。
「・・・そんなに僕が嫌いなのかい?ブリュ姫」
「にぇ?」
皇子は悲しそうな顔をしました。
名前を呼ばれて、私は驚きました。
「僕のためにお茶を振る舞ってくれるなんて、うれしかったんだけど・・ごめんね」
「私がブリュって、知ってたの?」
「だって、絵姿と瓜二つだったから、メイド服で給仕しに来てくれたと」
「女中に手を出す、破廉恥な男かと思いましたーーー!!」
「失敬な」
彼女を描き上げた絵師は、いい仕事をしていたようです。
そして、皇子に正直に、企みを話しました。
「たしかに、初めて会う男がどんな人かは知りたいだろうね。僕は破廉恥な男で無い事だけは分かって欲しいな」
「はい・・・申し訳ありません・・・」
「さて、改めて自己紹介だ。僕はトゥイエ。君は?」
「はい・・私はブリュ、ブリュ・SDです」
「可愛い名前だ。これからはブリュと呼んでいいかい?」
「はい。トゥイエ様」
皇子には悪い印象を与えなかったようで、私はほっとしたのでした。
その後の晩餐では、ふたりで軽やかにダンスをしたり、バルコニーで月夜を見ながら語り合ったりして、交友を深めたのでした。
姉上(長女)は夫である聖者(義兄)に、昼間に私(妹)が仕出かした事を告げ口しました。
聞いた途端、義兄は皇子の元に行き、皇子の額に手を当てて、何か呟いています。
そしてまた姉上の元へと戻ってきました。
姉上は夫に何をしたのか問いますが、
「なんでもないよ(にこっ)」
で、お話は終了です。
言わない方が怖いじゃないですかーやだー。
そして義兄は、皇子が国に帰るのに同行し、1ヶ月ほど戻りませんでした。
「もうこれで結婚しても、ブリュは大丈夫だからね!」
聖者でもある義兄が、国に戻ってきて、ブイサインをします。
義兄が何かしてくれたのだろうとは、分かっているのですが・・・
何かあったらなんとかしてやると言っていたので、そのまま婚約しました。
本当、助けてくださいよ?
・・なんて笑っていたんですけど・・・
実は昨日、タンスに隠れていた時の夢を見て、魘されたんです・・・
なんか口調が怖いです、トゥイエ様!!
本当に結婚していいんですか?ねえ義兄!!
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
@この国まさか の回答
王子に見初められた少女とその親友のお話 のアルシュナ国王とえれな王妃(両親)
幼なじみを追いかけて のラルティーグ王子(弟)と婚約者ノイエ公爵令嬢
聖女で無くて悪かったな の聖者ヒデタダ(長女の夫)
そのうち、今まで書いた話に出てくる国とか統一するかも。