ごせんえん
幼い少年は休日を満喫する予定だった。
しかし、
「五千円……ねーよ! 五千円がねぇ!!」
少年は与えられたばかりの自室で、貯金箱をひっくり返していた。
「十、二十……五十円しかない!」
少年は青い顔で、半泣き状態のまま、もう一度、お金を数える。
何回数えても五十円だった。
当たり前だ。十円玉が五枚しかない。
「もうだめだ……。俺は終わった。変な車に連れ去られて、改造されちゃう!」
遠くの方で、車の音と共に、「ありがとうございます!」と拡声器の声が響き始める。
「きたー!! ごめんなさい! 五十円しかないですぅ!! 五千円用意できません!!」
少年はベッドに入ると、目をつぶって震えた。
拡声器の声がどんどん近づいてくる。
「みなさまー!『 ごせんえん』ありがとうございます!」
「ごせんえんなんてないんだ! あっちにいけ!!」
少年は窓に向かって控えめに叫んだ。しかし、車は止まらない。声は近づいてくる。
「ごせいえん、ありがとうございます! ご声援ありがとうございます!」
「通りすぎろ! 五千円は持っていない。気づかずに通りすぎろ!」
少年はこっそり窓から、車を覗く。車は「○○党、○○です」と書いてあった。
「うー、ああやって五千円ばかり取って、金儲けしやがって! 毎回同じ時期に来るんだ! あの車……」
少年は毒を吐くと、再び布団にくるまって怯えた。
まだ幼い少年には、選挙カーは宇宙人の車に見えるのだった。
昔にこんな勘違いしませんでしたか?
子供の勘違いはおもしろい。