007 ゆうれいな街。
マの国がまた来るっていうウワサが流れている。実は強い戦力を持ち、辺境の街での早期撤退はこちらの戦力を確かめただけという分析もあるそうだ。開戦からわずか2時間で勝利したと発表があったが、事実が反対だとすると、土地のない街での新築ラッシュの説明が付くと軍事評論家の鼻息は荒い。次はより確実に弱いところを狙ってくるとして、評論家の予想地の貴族が戦力を増強している。「王都新聞」
ここは豊富な採掘量を誇る鉱山が見つかって、500人程度の広いだけの寒村が1万人を数える街に発展したのは、あっという間のことだった。それまで普通の農村で農民だったのが、すぐに優秀な坑夫や製鉄工になり、豊富な材料を生み出すと鍛冶士や彫金師に変わるものが出た。産み出すものは、いずれも1級品と評される。新しい発想の道具は、瞬く間に全国に広まり標準となった。それに憧れて、あるいは成り上がりを夢見て、単に仕事を求めて、人々が殺到してわずか5年で20倍に膨れ上がった。
この街の誕生は、童話になったり歌劇になったりしているサクセスストーリー。主役は我らの王子である。
「という話でしたよね。新しい街づくりのテストだったあそこ」とシー。
「農民を坑夫ににして、鍛冶屋にするって聞いたときは頭大丈夫かって思ったよ」とリー。
「何にも無かったので縄張りラクで楽しかったですぅ」とルー。
「宝探しみたいで面白かったかな」とユーリ。
「あの子達。何でも伝説にするの止めてって思ったよ」
というわけで、僕の功績でよく言われる「寒村の奇跡」のあの街が今度のターゲットになる。この前あっさりと敗走しちゃったので、かなり侮られてる僕たち。必中の大砲とかインパクトあったと思うんだけど、効果があったのは街のエライさんにだけで、王都では信じてないって情報が入ってる。国の発表も圧倒的勝利となっていたなあ。着弾点は粉々だし、燃え尽きてる。王都の調査隊が来たときには、もう建て始めているはず。エライ人達は怯えてるだろうから、戦いのことよりって感じになるはず、住民に聞いても判らない事は答えようがないし、さぞや混乱したことだろうね。
新聞で散々煽ってるから、まともな分析を聞く人なんていない。謎が深まっていることだろう。
全国の要所で、数年前に作った本を一斉発売している。タイトルは「消えた人々」民に愛された王子が、活躍を妬んだ貴族に毒殺されて亡霊となり、愛した街の人を浚っていくという話。ワクワク話だけじゃなく、怖いのも良いんじゃ無いって書いたんだけど、読んだユーリが泣いちゃって、発売禁止にしたもの。ちょうど合うし、それっぽい事件があった方が本が売れるかなって。あの子達がもっと救いたいって言ってたしね。
今は、口コミで広がっている感じになってるはず、ポイントだけと本のタイトルくらい。久しぶりの僕の新刊。もうじき発売。王都は避けてる。カンの良い人居るし。
で、品薄予想だったのに、この奇跡の街では山積みで発売。怖いけど面白いぞでみんなが知った頃に増産の時期が来て、あちこちから煙が上がったり、粉塵が多い空気になる。製鉄の蒸気が立ち込めていたりする。あの本を見たあとだと、何か雰囲気を感じるなと多くの人が思っていた。
ある国に美しい王子が生まれ、国中で待望の世継ぎが生まれたことを喜んだ。
少し成長してて民へのお披露目で城のバルコニー出たときに光が降りる。
地の精霊が現れて「我が愛し子」へ祝福を与える。花々が空を舞う姿を見て誰もが幸せを感じる。
それからは国中で花が咲き乱れるようになった。それは冬であっても。
王子が畑に出て、土をなでたときから豊富な作物が実るようになる。
「皆が飢えることのないように」
あるときに山に行ったときには、美しい宝石が現れて、その後いくらでも取れるようになる。
「皆が貧しくならないように」
少し成長して、獣にやられたと聞いて、身体を鍛えて獣を討伐した。
「皆が安らかに過ごせるように」
病で亡くなる人が多いことを聞いた王子が国中の本を読んで良く効く薬を作る。
「皆が健やかに過ごせるように」
民の願いを聞き届ける美しい王子のことを聞き、隣の強欲な女王が王子を招待する。
そして強欲な女王は王子に願い、剣を突き立てた。
「お前の命をおくれ」
亡骸が国に戻り、人々は深く悲しみ、この地の財をすべて出し、地の精霊に願った。
「我らを王子のもとへ」
願いは聞き届けられ、悲しみの唄とともに人々の姿は消えていた。
わずかに残った人達は王子が願った通り、隣国に攻め込まれることも無く、穏やかで豊かに、いつまでも幸せに暮らしました。
悲しい唄が遠くに聞こえる。歩き去る人の足音を聞いたが姿が見えない。
霧笛の音があちこちから鳴って、治まったときには立ち籠めていた。煙が全て消えていた。
朝が来て、鉱山や製鉄場や工場が、静かなことが不思議だった。昼夜問わず年中騒がしい場所だったはず。いぶかしんだ人が中を見て息を呑んだ。あの話が頭をよぎる。
そこ、どころか街のあちこちの工房には何も無くなっていた。それと始まりの500人も。
人やものが消えた事で、しばらくは騒ぎになったけれど居なくなったのは街のほんのわずか。数ヶ月後には、また賑やかな街に戻っていた。この話が新聞に載り、同時期に発売された王子の本が爆発的に売れる。合わせて「寒村の奇跡」の本が売れ、早々に「消えた人々」弾き語りがあちこちに現れ、王都では歌劇が上演された。そうしてまた王子が話題に乗る。どんなにされても人を呪わないのは、あの王子らしい。
で、前と同じように超特急で逃げている僕達。今回は人数が多いし、物資や道具類も山盛り。あの街の運送関係は空っぽにしたから、しばらく稼働しないだろう。そこは本当に申し訳ない。うちの能力だと全く足りなかった。まあ、親方クラスがゴッソリ居なくなったんだから、製品を出すまでには時間が掛かる。それまでには元通りだろう。大事な街だから、すぐに補填が入るし人が流れ込む。
「思ってたより早くウチを迎えに来てくれて嬉しいよ。着いたら結婚式?」
「違いま〜す。こき使ってやるんだから、覚悟してよね」
「あっ、俺は結婚したい。誰か誰かあ」
最初の夜には、軽く食事会をみんなでした。夜に出てきたから1日寝てない。わ〜っと騒いで、ぐっすり寝た。明日からしばらく移動になる。マの国が攻めてくる情報は、国の反対側なので戦力も向こうに寄っていて軍関係で気がつくのはいないだろう。
また、前と同じように仮村の人員を回収しながら、列を長くして進む。今回は経験を生かして、拠点員は最小にして設営隊が先行する時間差にした。前回だと拠点の数だけ人員が必要だったのがかなり節約できた。あの街、遠いから違う工夫しないとね。食料も近くの村から。保存食はラクだけど。美味しい食事は大事。
数日の移動でようやく、マの国の仮定国境線を越えて、村と呼んでいる常設拠点に到着する。
「あ〜、ここにくると帰ってきたって感じしますねぇ」
「いい道とはいえ、ずっと飛ばしていたしね。馬車の性能が違うとはいえ揺れが無いのはありがたいな」
「俺らは特別な馬車だけど、あちらは昔ながらのものだし疲れもひどいだろう」
急に道の質が変わるから、旧式の馬車だとすぐに分かる。王子時代の大規模事業で王国中の主要道を直したけど、規格は昔のもの。最新の道は明らかに違う。僕が手を付ける前の主要道は石畳で、往来で道が削れて凸凹にならないようにしていた。土の道だと、雨でぬかるみになって深い穴ができたりする。頻繁に使う道では事故につながるので大抵は石畳にするんだけど、小刻みな揺れが気持ち悪い。切り出し、運搬、敷設で大変な労力が掛かっているものなのに文句が出る。石を細かくして接合剤に混ぜて敷設したのが王国の道。雑石なので安いし可搬性が高い。基礎部分に製鉄から大量に出るモノを細かくして敷いて強度を高めているという、今まで廃棄に困っていたモノを使って敷き直したのが僕の事業。雇用対策。安く済んだ上に敷設が全国に及び、輸送速度アップで運搬費減少とどこからも文句が出ない。と思いきや、国防担当から敵に利用される懸念が出たんだけど、タカ派から弱腰と一蹴されて有耶無耶になった。僕らは、その懸念通り利用した敵国マの国の人さらい。
うん、道が良いのは良いよね。マの国のモノは、整地をキチンと行う行程を入れて、道路材の石を規格化しているから、何処でも同じ品質になる。良いもの同士でも明らかに違いが分かる程の差になっている。移動が快適だと疲れ方が違う。事業的にお金が掛かるから安く済ませたいものになるけど、移動時間が長いんだから大事。ごちゃごちゃ言う人には、乗り比べてもらえるとすぐに納得してもらえる。まあ、ふつうエライ人はゆっくりした馬車にのるから、疾走した駅馬車の揺れに耐えられるはずが無い。この説得イベントは市民に人気なので、街中で宣言した上でやってたね。
道が穏やかになると、考えることも捗ったよ。ああ、良いニオイがしてきた。
いつもありがとうございます。
やりました。2戦目にして勝利? いや戦ってないか。
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またよろしくお願いします。
空気たちの町においで。ぜひご覧ください。
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