005 逃亡のおわり。
戦争のその後。勝利した街の復興は進んでいる。砲撃を受けて粉々になった跡地には、集合住宅が建てられた。同様に被弾した兵舎も大きな集合住宅となって、たくさんの兵士が居住可能。兵員大募集中。
これらは住民から設計図を出されてすぐ着工が出来た。どこもその場所に合わせたものだった。持ってきたのは食堂の従業員だそうで、持たされたと言ってる。では誰が。「王都新聞」
何日か経った昼頃に、マの国に着いてしまった。残念なのは、あと何日かあっても良いくらい快適で楽しかった。美味しかったし。移動でここまで快適なのはうれしい。外の景色を楽しむ余裕まである。かといってのんびり走っているのではなく、街一番の者より速いと思うくらいだった。
街を移動するときはガマン大会と言われる辛いもので、ずっと不規則に揺れるし、時々大きく跳ねる。食べ物も固くて酸っぱいものに具のほとんど無いスープが普通で、気分が悪くなる人がよく出る。耐えられなくなって止めてしまうとそこで降りなくてはいけない。ひたすらガマン。運行回数を減らしたくないためだろうが乗る前はユウウツになるものだった。
ところが、この馬車だと大きな揺れがなく、ゆったりとした揺れでウトウトとしてしまうくらい穏やかで「貴族の馬車は快適だよ」と御者役の人に言うと笑って、「俺も最初はそうだと思った」と言って、説明してくれる。
「まず、車が違う。車輪の一つ一つに揺れを収める、木と鉄のたわみ?のものが付いている。軸は鉄だけど、車輪の中によく回る工夫があるらしい。あとゴムというのを巻いてあって、空気のクッションとからしい。何より道路が違う。」
しゃがんで、道路を見てみると分かるって言うので、その通りにするとなるほど平らな道だと思った。ふと、次の疑問が湧くが、お手上げのポーズをされて「それ以上はマーに聞いてくれ」だそうだ。仕組みは分からんけど、のんびり進む貴族様にはいらんもんというのは分かる。早く走って快適な馬車は俺たちのためということらしい。もっと早く走れるけど、馬がバテるからとも言う。
4日目にパン屋が「パンが焼きたい」と言い出す。「そういうと思ってた」と王子が言い、次の所に用意してあるなんて言ってる。確かに次の場所は、今までよりちょっと立派な建物があった。夕飯は、王子が考案したという平らなパンが出る。チーズに埋もれているようなものは、色々な味が用意されて美味しかった。それにも新鮮な野菜が乗っていて、不思議に思ったものが聞いたところ、毎日届くようになっているそうだ。保存食はと聞くと、チーズと小麦粉と言われる。干し肉はと聞くと「燻製肉はそれほど日持ちしないんだ」って、これも毎日。街でも保存食はよく食べるけど、道中は一度も出なかった。王子が居るときは王子が料理をするらしく、みんなが喜んでいる。今回のように初めて食べるものも出てくる。毎回、内容が違うし、驚くことばかりだった。朝? 朝のパンは、そりゃあ、もう美味しかった。
もうじき着くというので、道中のことを色々と思い出していた。こんなにしてもらったんだし、しっかりと働こうと決意を新たにしていたんだが・・・
「自分の家で休めと言われたがこりゃすげえ」
行くと決めてからは確かに色々と聞かれた。夢とか語ったさ。でもな。思ってたのより何倍もスゲえんだ。家族はきゃあきゃあ言って中に飛び込んでいく。入ってすぐ、叫び声がして慌てて中に入ると、喜んでいたって事で紛らわしい。家具はもうあるし、食器や調理器具まで揃ってる。今度は上の方でまた叫んでるのがいる。たーっと騒がしいのが戻ってきて、キラキラと部屋の話をしてる。「参った。これは相当頑張らないといけない」と思わずひとり言が漏れる。顔はニヤニヤしてたって、後で言われた。
夕食の頃に町の中心の大きな建物に行く。だだっ広い。ここは集会所だろうと思っていたら、領主館と言われた。上に部屋があるそうだ。馴染むのに大変だろうからということで、5日は三食ここで食事を出してくれるそうだ、助かる。道中から昼食が出ているが、昼は腹が減りやすいから、それぞれで食べ物を持って仕事をしていたくらいだから、とても良いと思った。その後にオヤツというのがあって、甘味や軽食が出ていた。期待しても良いのだろうか。
真ん中のテーブルにドン、ドンと大皿が置かれる。道中と同じく自分で取りに行く。採れたての野菜が美味い。品数も多い。食べ過ぎてしまった。
食事が終わって、丸く席を並べ直す。「説明しよう」と話し始める。
「僕はマー。これからはそう呼んでね。ここはマの国。簡単に言うと拉致だけする国」
「シーだよ。今回が初めての戦争で、目的はおいしいパン屋、幼なじみと元気な仲間だったな」
「リーです。パンが足りなくて、どうせなら美味しいパンが食べたいって思ったよ」
「ルーよ。最初は良く知ってる人が良いよって、ぜひって言われたの」
「ユーリ。人が足りなくって、戦争するんだし兵士がいいんじゃ無いってことよ」
あの国、シーファナリは古い大国でとにかく人が多い。それなのに城壁都市の中に住む、都市の外は野盗や獣に襲われるし、戦になると真っ先に潰されるから無理矢理にぎゅうぎゅうになって住んでいる。人は増える一方で、貧富の差がヒドい。新しい鉱山を見つけたり、害獣や野盗の討伐をしてみたり、底辺の人を無くしてみたけど、あれもこれも、お金持ちにお金が行くだけで、民の暮らしは良くならなかった。せめて、皆に笑顔を増やすことをしてみたけれど、それじゃ腹は膨れないって思ったのが5年前の9才の終わり頃。何とかならないかとあらゆる知識。遠方の知恵を集めてみたけれど、箱のパズルと一緒。位置が変わるだけで木のパズルが金に変わったりはしなかった。
では、パズルの枠を大きくしてみたら。古いパズルから取ってきてはどうだろう。新しいパズルは、過去の工夫があるから最初から、金のパズル。古くてぎゅうぎゅうで動きの悪いパズルはピースが抜けて、動きが良くなるっていうのはどうだろう、と考えた。
美味いパンを作っても、パン屋が多いとたくさんの人に食べさせられないし、他の仕事はいっぱいだから変わったものを作るわけにいかなくなる。もったいないって思ったんだ。
「親父さんは、美味いパン作るだけじゃ満足してないって」
でしょ。って親父さんにウインクする。ニカッと笑いを返してくれる。
「幼なじみって良いなあって思う。大切なつながり、大事にしたいからね」
付き合いが長すぎて友達を越えられない、大切な人。きっと来てくれる頑張りたいって言ってたんだけど、ドキドキの逃避行! 優しさでコロリ作戦が上手くいって、お幸せなんだ。うらやましい。
兵士の方は、分隊丸ごとなんだけど、野盗の討伐作戦で一緒だった人達で、同行は即答だった。家族の説得の方が大変だったかな。
僕がこの国を作った意図は、中々むずかしいらしく、パズルで例えてみたけど分からなかったみたい。そのうちに良い説明方法を考えないと、絵本でも作って見ようかな。
僕の話が分からないだけじゃつまらないだろうから、みんなが街を出た頃に家がどか〜んってなって、申し訳ないけど火を付けた。そこに油まみれの牛や豚のバラバラにした肉を放り投げてを繰り返した。するとね。すっごいいいにおいがするから、周りの人達も死んだって思わないようにしといた。いや、消し炭にならないよう早く消してくれたと思う。ちゃんとスパイスまぶした肉だから、美味しかったと思うよってところでようやく笑いが出た。お隣さんには、ついでに自分ちを燃やして、新築にする方法を教えてあるし、焼く肉のことも言ってある。焼けて無くなったところには住む家ができて喜ぶ人達がいる。兵士はごっそりいなくなったから、新しく兵士になれる人がたくさん。までは分かるけど、これから景気が良くなるよからは、やっぱり分からないようだった。
僕は、働きたいって人が楽しくできる場所とあちこちの知識から便利な道具を提供する。汗水は素晴らしいことだけど、地道に〜、耐えて〜は無しで。ローリスク(飢饉・病害・病気・怪我・災害とか)、ハイリターン(高収益・高効率・安全・快適とか)を目指す予定。あと、人員補充と忘れられないための戦争かな。
偽善ぶったりはしない。あくまで侵略者。恐怖のマ王なんだから。
いつもありがとうございます。
毎週金曜日22時にアップしています。
またよろしくお願いします。
空気たちの町においで。もご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n0359gd/