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悪のマ王がやってくる  作者: うえぽん
1章 国づくりを始めよう。
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004 戦い終わって。

 戦争の続報! 辺境の街は、多大な犠牲を出しながらも、我が精鋭揃いの兵が強固に守り、開戦わずか1日で勝利した。圧勝の陰に王子の活躍とのウワサ。マの国、恐るるに足らず。「王都新聞」



 昨夜は良い気分だった。勝ったのだ。一時は蹂躙される姿まで想像していたいくさにである。砲撃の後に来た使者は、開城を要求しに来たと思った。まだ、門は破られていない、剣を交えてもいないでは無いか、兵の練度に自信は無いが数は多い、数押しで負けは無い、侮るにも程があると。

 しかし、違った。私のにじみ出た威圧にでも当てられたのだろう。強者の威厳という者は隠せないものだなあと失笑を浮かべる。ヤツらは追撃をしないようすがってきた。良いだろう。強者の貫禄というものだ。兵士には、酒を出してやろう。武装を解き、わたしへの賛辞を唱うが良い。


 すっかり気分の良い私は、さっきまで青くなっていたことなど忘れていた。初手、初動の失敗やその原因や分析のことなど・・・

 開戦の大砲は、景気づけの役目で、武力誇示というより、財力を見せつけるもの。砲数がかなり多いと聞いたが、初戦ということで国中のものをかき集めてあの程度と判断し、万が一、城門に当たって敵がなだれ込まないように、門付近の強化を命じただけにしていた。攻めてくるのは明日朝であるから、夜中に準備を済ませれば良い。教本通りが最適と教わったことを思い出す。ここは国の外れ、盾となる場所で住民の2割が兵となる。5倍で拮抗となるから、1万の相手ができる。3000程度問題とならないと見込んでいた。都度対応で良いだろうと。

 ところがである。景気づけであるはずの大砲が当たった。それもかなりの速さで弾の軌跡がが全く見えなかった。当たった場所が炎上までする。なんと1発目にまぐれ当たりが出るとは中々に運を持っている相手だと褒めたりしていた。ところが、次々と当たり炎上を繰り返す。必中の大砲など、聞いたことが無い。しかも弾に火薬が込められて、炎上があるなど恐ろしい兵器ではないか。こちらも砲を出せ。いや火矢を。消火に向かえ。戦いの用意を。騎兵を。と隊長職に次々と指示を出す。現場にいる司令官は、爆発に驚くものの、最初の指示の通りノロノロと準備を続ける。そこに次々と隊長が飛び込んでいて、様々な命令を言い出すが矛盾する内容で、兵達が右往左往する。隊長を捕まえると「領主からの指示」と言う。初戦の砲が当たったくらいで領主は何をオタオタしてるのかと思っていると「街が街が」とうるさい兵に高所指令室に連れて行かれる。なんと、街が燃えている。着弾と同時に火が上がってる。次々と。発火の弾など聞いたことが無い。驚いていると向こうの門が住民に開けられて、逃げだし始めたという報告も来る。下を見ると、混乱している兵達。

 大きな爆発音がして、兵舎が燃え上がる。もうダメだ。あの砲は必中の火炎弾。この戦は負けた。私も逃げ出すべきかと逡巡しゅんじゅんしているところに白旗を掲げた、敵兵が来たという。開門を要求する使者だろうか。

 届けられた羊皮紙を開くと、敗北宣言である。何度も見たが間違いが無いようだ。領主に届けるように言って、しばし待つ。

 ひどく陽気な領主がわざわざ現れて、「これを渡せ」と放り投げてきた。兵にそれを託して、領主を見ると「我に恐れを抱いて、負けを悟った。勝者の情けだ。追撃はしないでやろう。兵に酒を振る舞うが良い」と言い捨てて行ってしまった。街を見て、下で混乱している兵達を見る。武官のカンがおかしいと言っているが、政治解決というのもある話だと無理矢理納得して、勝利と酒樽が開くことを触れ回るように手当たり次第に言う。オタオタしすぎて疲れた。片付けは明日にして、酒を飲むことにした。


 戦いに勝利って浮かれた夜が明けると、3000もの大群の陣地が無くなっているように見えた。敗戦で撤収となれば、あの必中の大砲のがいくつか取り残されている事を期待していたし、陣地の再利用の構想も実は描いていたのだ。放り出して逃げるものではないかと慌てて、工兵隊を引き連れて向かう。

 ところが何も無い、あるのはいくつかの地面の焼け焦げぐらいである。この斜面をいつ整地したのかとも思っていたが、変わらず平らで開けたところはいくつもない。昨日まで巨大な陣地は? 一晩で解体し、撤収したというのは信じられない。現れたときも突然だったし昨夜は夢だったと行ってくれた方が・・・と我が街を見ると消し切れていない煙、壊れた建物など、痛ましい様子が見える。恐ろしい敵であったと身震いをする。ただただ疑問が残る。


 早朝に鳩を飛ばし、昼近くに伝令のものを都に走らせた。報償を期待して少し話を盛ったため、後で齟齬が起きないよう、内容のすりあわせと口裏合わせに時間が掛かった。まず勝利の一報として、敵の強大さを謳い、劣勢を跳ね返した優秀さをにじませる。被害は甚大、死傷者多数などとし、延焼中と付け加える。相手は宣戦布告文書で3000の兵と書いていたが半分程度だろう。実際は6000だったとしてある。謎が多い相手なのだ。問題無い。都では、まだ作戦会議だろう。物事を迅速に決められないのは、かつてあの会議にもいた自分が良く知っている。鳩の一報が入り、まさかと思っているところに兵からの勝利の報告が会議中に入る。私を賛美する会議になるに違いないとほくそ笑む。さあ次報の文面を考えねばと思わず大笑いしてしまう。盛りまくって書いた最終報告書を送ってしばらくすると、被害についての補填を言う住民が多数押し寄せてくる。過日の王子騒動が頭をよぎる。総額は都への報告の半分程度なので、支払いを承認する。お、恐れたわけでは無い。


 王子の言う通り「多少盛っても、大勢で行けば大丈夫。次も取れるように出来るだけたくさんにすること」と言うままに、可能な限り人を集めて領主館に行った。「前例が好きだから」というのはよく分からなかったけど、また攻めてくる恐ろしさはみんな分かる。勝ちに浮かれてる気分もあって、何しに行くのか分からない連中まで加わって、かなりの人数になった。窓から見えた領主の顔が恐怖していたのはしっかり見た。

 横でニヤリと「俺たちの時もよろしくな」という声を聞いて、前例という意味がようやく分かった。おいしい話どころじゃない。勝ったど〜。




 敗走の我らは「負けた負けた」と楽しそうに馬車を飛ばす。今頃、撤収陣地を見て驚いてる頃だろう。全て撤収した。残った何かでトリックが分からないようにと、何度も確認したけど荷物が少ない。100倍にみせる陣、素早い設営、撤収のこの仕組みを考えた王子はすごいと改めて思う。

 後方と言っている補給部隊を吸収し列を長くして進む。3日目に先行の部隊というか、戦利品達に追いついて大宴会をした。王子が何かと言うので、あちこちで歌劇化されている王子活躍話をやろうということになった。簡単に打ち合わせをして、「悪徳領主を懲らしめた話」をする。ここに居る人が実際にやった出来事である。歌劇では、推測で作られたセリフが、本物達がサービス精神あふれて演じるものだから、ちょっと難しいと言われていた場面の謎が分かったし、剣劇の場面の迫力はすごいというより、怖かった。演目は何度も見ている者が多いからと、次々に飛び入りさせる。曲がかき鳴らされ、最後には悪徳領主役と肩を組んで歌う。その後は踊りになり、全員が参加してくるくると回る。大盛り上がりだった。

 道中は休憩の度に何かの催しが大小あり、旅になると貧しくなるはずの食事は普段より良いくらいで、新鮮な食材ばかりが使われている。皆が良い顔をしていて、表向きはさらわれたか、殺されたことになっていることへの不安が少しずつ無くなっていく。希望に変わっているのかも知れない。


 王子の物語は、この国の人気のもので、新作が届く度に夢中になっていた。その中私がいる。なんて事をかなりの人が思っていた。



ありがとうございます。


またよろしくお願いします。

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