表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
//Lost logos =("Lo_Lo");  作者: ヒタキ
>chapter1(Rebirth);
6/20

>[Concrete labyrinth]_

 薬局の正面入り口にはまだ「closed」の札がぶら下がってままになっていて、時折吹く風に揺られてドアにコツコツと当たる。空には曇天が広がっていて今にも雨が振り出しそうだった。時計の針は午前の九時を指しているが、店のブラインドは締め切られていて異様な静けさが漂っている。

 まず最初の一手を打つわ。玲音、この紙袋をあいつらに渡してきて欲しいの、桃華はそう言って僕にこの紙袋を渡した。中には適当な本が数冊入っているが、それらはすべてカモフラージュで、本の隙間にさっき拾った犯人のスマホが入っている。そして桃華が自分のスマホから犯人のスマホに電話をかけてある。それで犯人達の会話を盗聴するのが目的だ。

 僕は紙袋を片手に薬局の前に立っている。生体ユニットの心臓が脈を打つたびに緊張感が胸を抉る。

 落ち着け、平静を保て、怪しまれたらそれでお終いだ。

 そう自分にそう言い聞かせる。

 一度深く深呼吸をしてから、僕はインターホンを鳴らした。

 インターホンの音が鳴り止んだ後の静寂の中、心臓の鼓動はさらに早くなる。

「上条先生ー。おはようございます。」

 出来る限り細い声で僕は挨拶をした。

 中からゴソゴソと物音がして、足音がこちらへと近づいて来る。ドアの向こうから男の声がした。

「悪いな。今日は先生が具合が悪くて店を閉めてるんだ。」

「あ、あの・・・今日は先生に渡したいものがあって・・・前々から約束はしていたんですが。」

 扉が開いて呼鈴がカラカラと鳴る。僕の目の前に若い男が現れた。二十歳は過ぎていそうだ。男は貼り付けたような笑みで僕を見ている。

「それなら俺から先生に渡しておくよ。」

「あ・・・ありがとうございます。」

 僕はそっと紙袋を手渡した。

「じゃあ悪いけど今日は帰ってくれないか。これから先生の看病をしなくちゃいけなくてな。」

「はい・・。それでは失礼します。」

 男はそそくさと扉を閉める。僕はほっとため息をつく。心臓はまだ早い鼓動で脈を打っていた。

 HUDにメッセージが届く。

『上手くいった?』

『うん、なんとか。』

『オッケー、合流しましょう。』

 桃華が隣の建物の路地裏から出てきて、店から離れる方向へと歩いて行く。

 僕は小走りで桃華を追いかけて横に並ぶと、桃華はスマホの音量を上げた。僕たちは歩きながらスマホの音に耳を傾けた。

『今の誰だ?』

『知らねー。高校生くらいの女だった。』

『その袋は?』

『なんかあの殺したババァに渡したいものだってさ、俺達には関係ねーよ。』

 ガタッと大きな音がした。多分袋をどこかに置いたのだろう。

『おっかしいな。多分このあたりだと思うんだけどな。』

『おいおい、いい加減にしろよ。俺はそこの死体から一刻でも早く離れたいんだ。』

『なぁ、俺のスマホに電話かけてみてくれないか。』

 片方の男が舌打ちをした。しばらく二人とも黙る。

『おい、なんか通話中になってるぞ。』

『はぁ?そんな訳・・・。』

 ヴン

 短い感覚のバイブレーションが紙袋から鳴る。

『おい、聞いたか今の。』

『その袋からじゃないか。』

 ガサガサと袋を漁る音が聞こえた。スマホを袋から取り出したのだろう男の声が突然大きくなる。

『俺のスマホ!?何でそこから出てくる!』

『電話繋がってるぞ、これ。』

 そこまで聞くと桃華はスマホのマイクに顔を近づける。

「お前らがやった事は全て知っている。証拠も今抑えた。お前らは終わりだ。」

 ボイスチェンジのアプリを使っているから、向こうにはおそらく男の太い声が届いてるのだろう。

『あのガキ!!』

 その言葉を最後に電話は切れた。

 桃華はニヤリと笑う。

「さ、次のフェイズに行きましょう。多分あいつらは仲間を呼んで私達を追いかけてくるわ。」

 僕たちは市場の通りへ入った。旧イケブクロの裏通りには多くの露店が並んでいて、連日溢れかえるほどに人が集まっている。市場が栄えた理由は夕方の駅前のフリーマーケットと同じ理由だ。

 なるほど、僕たちがここにいる間は相手も手を出しづらいだろう。

「この後は?」

「あいつらの仲間がここに集まってきたら人気のない所に誘い込んで一網打尽にする。玲音、HUDを開いて。」

 メッセージウィンドウにURLが送られてきた。

「玲音があいつらと接触してる間に今はもう使われていない街の防犯カメラをいくつかアクティブにしたわ。ライブカメラにアクセスして周囲を確認して。」

 URLにアクセスすると、防犯カメラの映像がいくつも表示された。色んな角度から僕たちを見れるようになっている。

 映像の一つに、さっき僕が紙袋を渡した男が映った。スマホで電話をかけているようだ。男は電話を切った後周囲を見回して、もう一人の男と一緒に走り出す。

「さっきの男だ。こっちの方に向かってる。」

「私の方でも何人か確認したわ。全部で十人くらいかしら。ここからの会話はメッセージに切り替えましょう。」

 僕は頷く。

 カメラの映像の一つに僕たちの後ろの方に、さっきの男たちが人混みをかき分けながら近づいて来るのが見えた。

『来た!』

『期待通りね、そこの路地に入りましょう。その先を行った所に古い立体駐車場があるわ。』

 路地に入るとさっきの賑わいから一転して、人一人いないアスファルトに囲まれた薄暗い空間が続いていた。

 ライブカメラを確認する。市場の人混みの中、池を引き波をたてて魚が泳ぐように、人の波ができている。間違いなくあそこにあいつらがいる。波が通りの端までたどり着くと、二人の男が路地へと入っていった。

 走る足音が後方から聞こえて来る。男達が僕たちを捉えた。映像に映る男達は腰の方に手を伸ばして隠し持っていた銃を取り出そうとしていた。

『桃華!』

『任せて。』

 桃華は腰のホルスターに手を当てて、振り向く瞬間に素早く拳銃を取り出す。

 刹那、乾いた銃声が二発。

 放たれた弾丸は二人の男の肩に命中する。

 落下した薬莢が小気味のいい金属音を立てた。

 二人はアスファルトに倒れ込み、激痛に耐えかねて呻いている。

『こっち。』

 僕は桃華に手を引かれ走り出す。僕たちはさらに細い路地へ入った

「追え!奴らは証拠を握ってる。絶対に逃すな!」

 後方から男の叫び声が聞こえた。

『さっきのはどこで習ったの?』

 走りながらメッセージを送る。

『なんて事はないわ。小さい頃よく男の子に混じってエアガンで遊んでたからそれの要領よ。それに中心部にいた頃はもっとヤバい目に遭ってきたし、こういうのは慣れっこなの。あの程度のチンピラなんて私から言わせれば雑魚ね。』

 僕はなんだか格好つけて手伝うと言った事が恥ずかしくなってきた。こんなに戦えるなら、わざわざ僕が手を貸す必要は無いんじゃないか。

『なぜみんなそこまで桃華にこだわる?』

『人工細胞の技術は革命戦争の戦局を決定づけるほどには、革新的な技術なのは間違い無いからね。誰もが喉から手から出る程欲しがってるはずよ。量産に成功しようものなら、生涯遊んで暮らしても有り余るほどの富を手に入れらるんじゃない?実は私ね、エクスメカから出て行く時に人工細胞に関する研究データを全て研究室ごと爆破したの。だから残ってる研究データは玲音の体だけなの。』

 そういえば二年ほど前だったろうか、ニュースでエクスメカ系列の工場で大火災があったと報道されていた。

『なら何でこの体だけは残したの?』

『うん・・・初めは革命戦争後に医療技術として再開発するために取っておいていたの。でも来る日も来る日も色んな組織に追われてもうウンザリして、私はあなたがビルから飛び降りたあの夜に、完全に破壊して捨ててしまおうと思ってたの。』

『それでたまたま僕を見つけた?』

『ええ、生存の見込みは絶望的だったけど人工生体ユニットを使えばもしかしたら助けられるかもしれない、そう思って急いで家にあなたを連れ帰ったわ。』

『そうだったのか・・・』

 迷路のように入り組んだ道を抜けると、立体駐車場の入り口が見えてきた。

『さ、おしゃべりはここまで。この先は玲音の出番よ。私の助手になったからには頑張ってもらわないとね。』

 桃華は僕に向かっていたずらっぽい笑顔を見せた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ