表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
//Lost logos =("Lo_Lo");  作者: ヒタキ
>chapter1(Rebirth);
2/20

>[Awakening]_

「さて、腕と足をつけなきゃね。あなたの体に入ってる拡張CPUから信号を送って人工細胞をアクティブにするわ。」

 桃華はそう言うと本物の人間の手脚となんら変わらない見た目のものを、僕の腕と足の付け根にあてがう。あまりに不気味だったので、一瞬目を逸らした。

「本物そっくりでしょ。あなたの体には金属がほとんど使われていないのよ。人工的に作り出した細胞で、骨や肉を再現してるの。でも普通の人間の細胞と違って、同じ質量でも運動性能がまるで違うし、電気的信号で硬度を自由に変化させる事ができるわ。」

 桃華はケーブルを取り出して、それを僕の首の後ろにあるジャック差し込み、パソコンが置かれたデスクの前に座った。pcのデスクトップからソフトウェアを起動すると、ソースコードだらけの画面が映し出される。細かい文字だらけで、五分見ただけで頭痛がしそうだ。

「よし、あとは接続信号を送れば勝手に繋がって、自由に動かせるはずよ。」

「・・・桃華さんはなぜ、こんなところで医者をやってるんですか?」

「桃華でいいわ。あと敬語もいらない、なんだか敬語で話されると他人行儀な感じであまり好きじゃないの。歳も近いみたいだし、私の助手はラフであって欲しいわね。」

 桃華は手慣れた様子で、タイピングをしながら返答する。器用な人だ。

「じゃあ、桃華。見た感じ医者というより、エンジニアの方が合ってるような気がするし、この人工生体ユニットだって並の技術じゃない。もっと都内中心部の大きな企業じゃなくて、わざわざこんなスラムで医者やってるのには理由が?」

 桃華はタイピングの手を止めてこちらの方を向き、少し困ったような顔をした。

「いきなりグイグイくるわねー。もっとなんか『好きな本は何ですかー?』みたいな軽い所から来ても良いんじゃない?」

 むしろ起きたら突然サイボーグにされている状況でとりあえず本の好みを聞くような奴はいないだろう、と僕は思った。

 桃華はパソコンに向き直り、作業を再開した。

「そうねー。実の所、あなたの言う通りエクスメカトロニクスの開発部にいたわ。だけどいろいろあって辞めちゃった。でも企業側は私を必要としてるみたいで、中心部の方にいると面倒なのよ。」

 桃華は僕が想像してたより遥かに凄い人だった。

 エクスメカトロニクスとは、今の日本の科学技術のパイオニア的な存在だ。ホログラフィックや、生体ウォレットをはじめとする、今では当たり前になってる技術は全てエクスメカトロニクスが開発に成功したものだ。テレビや、ホロビジョンポスターでは四六時中コマーシャルが流れているし、日常的に使う機械の殆どにエクスメカトロニクスのメーカーロゴが彫り込まれている。さらに噂では、軍用兵器の開発にも手をつけていて、今もなお続く革命戦争に終止符を打つ企業になるのではないか、とも言われている。

「じゃ、今から接続信号を送るわね。痛みや違和感を感じるかもしれないけど、少し我慢して。」

 僕の中に接続信号が入って来るのを感じる。正確に言えば、僕の脳に接続されている拡張CPUに情報が送られているのだが、無数の情報が波のように押し寄せてくるような感覚が頭の中を覆った。

 人工生体ユニットの腕と足の接続面が、薄緑色に発光した。そして血液が流れるように、手と足の先まで細くて複雑に湾曲した光の線が伝っていく。

「がっ・・・うあああっ!」

 全身がビリビリと痺れるような痛みに襲われ、僕は叫び声を上げた。しばらくすると、まるで傷口が塞がる映像を早送りにしたように、みるみるうちに腕と足の切断面が繋がっていく。

 次第に痛みが引いてきて、神経が指の先まで通うのを感じる。

「凄い・・・本物の腕がついているみたいだ。」

まだ動かせないけど空気の感触が、はっきりと分かる。

「よし、正常に接続信号が送れたわ。もうしばらくしたら動かせるようになるわ。」

 桃華はパソコンの画面から目を離して、僕の方を見る。

「どう?生まれ変わった気分は。」

「・・・あまり変わらないかな。身体は違っても、確かに自分は自分だっていう感覚は今まで通りで、自分が全く違うものになった気がしない。」

 桃華はつまらなそうな顔をした。

「なんだ、もっと面白い反応をすると思ってたのに。あなたって結構スレてるのね。」

「ええ・・・。」

 素直な感想に文句を言われてしまった。

「まぁいいわ、そんなことよりあなたの名前が無いと不便よね。」

「名前・・・。」

 そうだ。僕はこれからは少なくとも、体は今までと全く違う人間として生きていく事になるのだ。さっきまで漠然としていたものが、ようやく実感に変わる。

 桃華はしばらく考えたあと、こう言った。

「・・・玲音(れいん)。どうかしら?」

 RAIN、雨か。僕がビルから飛び降りた時、確かに雨が降っていた。

「なんだか新しい名前をもらうのは、少し恥ずかしいな。」.

「ふふ、決まりね。あなたは玲音よ。」

 顔から火がでそうだ。僕は咄嗟に話題を変えた。

「そう言えば、僕は助手になってこれから何をすればいい?。」

「まぁ、そう焦らなくていいわ。とりあえず玲音がその体に慣れるまでは、色々と雑用をお願いしようかしら。」

 ふいに僕の右手の指先がピクリと動いた。気付けば腕と足の接続が馴染んできて、自由に動かせるようになっていた。

 僕は右の手のひらを顔の前で、閉じて開いてを繰り返してみる。

「・・・・・・。」

 サイボーグ化されているのが嘘みたいだ。きちんと神経も通っていて触感も感じる。

 桃華は僕が手を動かしている様子をなぜかニヤニヤしながら覗き込んでいる。

「・・・何?」

「いや、揉むかなーって・・・。」

「・・・?。・・・最初の仕事は肩を揉めと?」

 桃華は肩を竦めて、ため息をついた。

「・・・はぁ。全然違う!あなた元々は思春期真っ盛りの男の子でしょうが!」

 僕は少し視線を落とすと、今まで無かった胸の膨らみに気づいた。

 ああ、これか・・・。

「・・・別にいいや。」

 桃華は勢いよく椅子から立ち上がる。

「いやいやいや、あなたの体の中でも特別に拘りぬいた最高傑作なのよ!?まず騙されたと思って!」

「騙されるって何だ!」

 桃華は僕の腕を掴んで、手のひらを無理矢理乳房に押し当てる

「・・・ね、どう?」

 桃華は目を輝かせている。

「やわらかい。」

「嘘ぉ・・・反応うっす。」

 桃華はがっくりと肩を落とした。

「そんな・・・。エクスメカにいた頃、同僚とか後輩をたくさん部屋に並ばせて、いろんなおっぱいの感触を毎日確かめて、質感、弾力、感度全て最高のものを作ったのに・・・。」

 想像すると、あまりにもシュールな絵面だった。本当は会社を辞めたんじゃなくて、会社から追い出されたんじゃないのかと思った。

「うわ、素で引いてる。けど大真面目な話なのよ。全身義体化を施したのは、玲音が初めてだけど義手や義眼みたいな、体の一部のみの生体ユニットは、もう販売可能なレベルまで開発が進んでいるの。私は特に義乳の開発に力を入れていたわ。乳癌でおっぱいを摘出せざるを得ない人もたくさんいるからね。やっぱり女の子のおっぱいって、特に際立つセックスシンボルだと思うの。だから私はね、おっぱいに悩みを抱えてる人にも、好きな人と楽しめるようになって欲しいの。」

 桃華にはそんな立派な目標がある事を知って、僕はなんだか申し訳ない気持ちになった。

「・・・ごめん。からかわれてるのかと思った。」

「え?からかってはいるわよ。」

 いるのか。

 桃華はパンと手を叩いた。

「さて、それはそれとして、そろそろ足も自由に動かせるんじゃない?。ちゃんと立ち上がれるか試してみて。」

 僕はベッドに手をついて、足を床のほうにずらして立ち上がる動作をしてみる。

 一応立ち上がる事は出来たが、バランスがうまく取れずふらふらとよろめいた。

「うわ、意外と難しい。」

「んー・・・おそらくバランサーがまだ正常に平衡感覚を掴んで無いみたいね。まずは少し歩いてバランサーを慣らす必要がありそうね。」

 桃華はクローゼットを開けて、服をいくつか取り出して僕に渡した。

「とりあえず買い物に行きましょう、玲音。歩いているうちにきっと良くなるわ。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ