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 スフェアがカウェンの前に立ちはだかる。

 冷徹なそれでいて美しい目尻の吊り上がった瞳。

 まるで色のなかったその光彩には今は不思議な色を帯びている。


 嫌な汗がどっと吹き出しカウェンの背中を伝った。


「どけ! どくんだスフェア」


 カウェンの命令にスフェアはぴくりと反応する。

 敵味方の識別に迷っていた。

 自分の頭で考えることは意味の無いことだと教えられてきた。


 だからアラクが傷ついても黙って見ていた。

 でも、アラクがもう動けないのにカウェンはまだ攻撃をやめない。

 それはもう見たくない。

 見たくないと思ったらスフェアはヌーラのことが頭に浮かんだ。

 

「……す」

 呼吸は一瞬。

 スフェアの姿が見えなくなると同時にカウェンは自分の体が傾くのが分かった。

 投げ飛ばされたのだと気付いた時には地に打ち付けられた。


「!?」


 風魔術の守りで衝撃を緩和しているとはいえ、カウェンは混乱する。

「な、なにがおこった……?」

 自分に馬乗りになったスフェアをカウェンは捉える。

 いつの間にか杖が手から離れていた。


 あり得ない。

 言葉を失う。


「……」

「……」

「……」


 アラクも見ていた。

 スフェアの動きは洗練された体術だった。

 とても美しくまったく無駄のない動き。


「カウェン」

「しまった!」


 杖に手を伸ばすがアラクが杖を蹴り飛ばした。


「カウェン、もうやめよう。俺はお前には勝てないよ」

 アラクの真剣な顔を見てカウェンの目に宿っていた闘気は冷めていった。

「また、僕に勝って逃げるのか……」

「勝てない勝負をしないのは逃げるとは違うと思うんだけどな……」

「詭弁だ……僕らは賢者アロクの教えを受けたんだ。

 君はまだ()()()とは言っていないじゃないか!

 だからこの勝負はまだ終わっていない!」


 スフェアの体が宙に浮く。

 カウェンは自分の体を魔術式つえにしてスフェアを吹き飛ばした。

 おかげでカウェンの衣服は前方が弾け飛んでいる。

 スフェアはというと猫のような身のこなしで空中で回転し着地した。

 それでも相当の高さから落ちたためかすぐには動けないでいる。


「どうだアラク! これが師匠の奥義だ! 僕の強さだ! 負けを認めろ!」


 アラクはカウェンの在り方を窮屈だと思った。

 堅苦しくて暑苦しい。

 冒険者になれたことは魔術師になることよりもずっといいことのように思えてきた。

「負けだよ、カウェン」

「いいや、お前はそう言って僕を落とし穴に嵌める気なんだろう!」

「どうしろっていうんだよ……」

 

 アラクはスフェアの元にいった。

 

「さ、スフェアももういいよ。ありがとう」


「ありがとう、の意味がわからない」


「感謝だよ。スフェアがいなかったら俺は大変なことになっていただろうからさ」


 笑って見せたアラクだったが、スフェアの反応は微妙だった。

 

「変わったな君は……本当に変わった……」

「カウェン、おれはもう魔術師ですらないんだよ。

 これからは別々の道を行くんだ。受け入れてくれ」

「そうだな、そうだ……」


 どこか寂しげにアラクを見つめるカウェンにアラクは真剣に返す。

 

「服は着ろよ」


 アラクはカウェンの背中に投げかけたが返事はない。

 スフェアは不動のままアラク越しにカウェンを見ている。


「帰ろうか」

「……」

「帰るぞ?」

「はい」


 変化を受け入れなければならない。

 アラクもそしてカウェンも。


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