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ダークサイド・ヒーロー  作者: 名久井宀
第一章 ヒーロー誕生
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第二話 出発

 ――3日前。


「お兄ちゃん、準備はできた?」

「うん、大丈夫」


 俺のことをお兄ちゃんと呼んだこいつは、ここグレイス孤児院で一緒に育ってきた後輩だ。

 血は繋がっていないが、いつからかこいつは俺のことをお兄ちゃんと呼ぶようになっていた。

 まあ、別に嫌というわけではない。


「あ、そうだ!」


 そう言って義妹、真美はポケットから何かを取り出した。


「ちょっと屈んで」

「ん?どうしたの?」


 そう言いつつ屈んでやると、真美は腕を伸ばし、首を取り囲むようにグッと距離を近づけた。


「て、なになに?!」

「ちょっと、暴れないで!……はい、出来た!」

「…….おぉ!」


 真美が離れると、俺の首には銀色のアクセサリーが付いていた。

 俺は自分の能力上、身体中にシルバーアクセサリーを付けているが、その中の半分くらいは今日のような特別な日に真美や孤児院の先生からプレゼントしてもらったものだ。


「今日からのヒーロー採用試験に合格できますようにって願いを込めて、孤児院のみんなから! お兄ちゃん絶対合格だよ!」

「ありがとう、真美!」


 そう言って頭を撫でてやると、真美はくすぐったそうに目を閉じ、口元に幸せそうな笑みを浮かべていた。


 そう、今日から俺は三日間かけて行われるヒーロー採用試験を受験するのだ。

 ヒーローとは、公的に能力を使うことが認められた非営利組織に属する人間を言う。

 テレビやネットでその目覚ましい活躍ぶりと、人々の生活を危機から救い出していることから、一般人は親しみを込めて彼らをヒーローと呼んでいた。


 今日から始めるのは、そんなヒーローになる為の試験、通称ヒーロー試験であり、その倍率はなんと約200倍。

 受験資格が能力を持つことのみに限定されたこの試験には、毎年5000人を超える参加者が集っているが、無事ヒーローとなれるのは多くて30人、少ない時は10人にも満たないという。


「じゃあ、そろそろ行くよ。孤児院の皆んなの為にも頑張るから」

「もー!そういうのは良いって言ったじゃない!お兄ちゃんは確かに凄い能力を持ってるけど、私はそんな能力なんてなくても、お兄ちゃんが居てくれるだけで幸せ……だから……!」

「ありがと、真美」

「うん!」


 俺はこの試験に参加することを、人生の大半を過ごしたこの孤児院のためだと言っている。

 ヒーローは非営利団体とは言ってもその活動には多大な資金が必要になる。

 そのため、国は支援金と言う形でヒーローに給金を与えているのだ。

 その金額は月ごとに一台、高級な外車を買える程の破格だが、活動の中で命を落とすヒーローも多いため妥当な金額と取ることもできる。


 そして、この孤児院は数年前から財政難に苦しんでいた。

 院長であるグレイスさんがその優しすぎる性格ゆえ後先考えず孤児をどんどんと受け入れてしまうためだ。

 しかし、ヒーローに成れば孤児院の一つや二つ余裕で切り盛りできる。

 だから最初は俺のヒーロー志望に何色を示していたグレイスさんも、この孤児院の希望の星として俺を快く送り出してくれた。

 まあ、真美には最後まで抵抗されたけど……。


 よって、俺はこの孤児院に恩返しをするためにヒーローになろうと言うわけだ。


 あくまで、名目上だが。


 たしかにこの孤児院には恩義を感じているし、大金を手にしてみたいと思う事もある。

 しかし、俺がヒーローになりたいのはそんな薄っぺらい理由じゃない。

 金なんて幾らでもくれてやる。

 地位や懸賞だって俺にはカス同然だ。


 只々、俺は公的に奴らを痛めつける権利が欲しい。

 ずっと仮面の下に隠してきた本性が、早く奴らを殺せと言ってくる。

 その行動に、世界中の人々が称賛と歓声を贈る。

 世の中の全てが、奴らの死を望んでいる。

 そんな未来を夢見てならない。


「じゃあ行ってくるね」

「うん……気をつけてね!」


 真美は泣きそうな顔を無理やり歪めて笑顔を作った。


「「お兄ちゃん!頑張ってー!!」」


 俺が一歩を踏み出そうとした時、後ろから孤児院のチビたちが声を掛け走ってくる。


「も、もうっ!夜遅いんだからみんなは来ちゃダメって言ったじゃない!」

「「だ、だってぇ」」


 真美はその行動を諫めるが、後ろからやって来たグレイスさんと、修道士のマリーさんを見て少し驚いたように目を見開いた。


「やっぱりみんなで見送りたくてのぉ」

「そうよ、今日ばっかりは門限なんて存在しないわ!」

「う、う〜ん。まあ確かにそうかも知れないけど……」

「なんじゃ、お邪魔だったかのう?」

「ち、違うって!」


 そのやりとりを見て、みんなが笑顔になる。


 そして、改めて孤児院の全員が俺の方を向いた。

 俺も目的地に向けていた体を、今一度彼らの方に向ける。


「「いってらっしゃい!お兄ちゃん!!」」


 みんな笑顔でそう言ってくれた。


「みんなありがとう、行ってきます!!」


 努めて笑顔で返す。

 絶対にバレてはいけない。


 俺はもう――既に死んでいるはずの存在なのだから。

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