これは魅了の効果じゃない
俺は過去に何人かの女性と付き合ったことはある。しかしここまで過激で、それでいて繊細なキスをされたのは初めてだった。
頭の中で考えていたことが全てなくなり、ただただクロエと体を触れ合わせていたと思う。安心感と性欲、その二つが混ざり合いとても穏やかな気持ちにさせられていた。
たったこれだけのことなのにクロエの今までの寂しさが直接感じられるようなそんな感情。長いような短いような、しかし確かに記憶に残るキスをした。
ゆっくりと唇を離しお互いに見つめ合う。
「俺は、クロエの事を本気で知りたい。教えてくれるなら、いくらでも聞くよ」
今ばかりはいつものように茶化す雰囲気ではない。クロエの真剣なまなざしに対して俺が出来るのは同じくらい誠実に、そして心から本気で向き合う事だ。
性欲が吹き飛ぶと思っていたが、こみ上げてくるこの感情は何だろうか。恋というには苦しくて、愛と言うにはどこか不純で。それでも相手を求めてしまうこの気持ち。
「ありがとう。そう言ってもらえるだけでとても嬉しい」
クロエは俺に抱き着くように首筋に顔をうずめる。柔らかな髪が顔に触れて少しくすぐったい。愛おしい、大切にしたいと強く思う。
幸せを感じながらもどこか遠い出来事の様に感じる。今にもどこかに消えてしまいそうなクロエを強く抱きしめる。クロエはこんなに弱弱しかっただろうか。
とても小さい体は、抱きしめるとより小さく感じた。
「キミヒト?」
「もう、どこにも行こうとしないでくれ」
俺が抱きしめるとクロエも抱きしめ返してくる。同じような力加減、お互いがお互いを必要だと思えるほどの一体感。
だから俺の不安も吐き出させてもらう。クロエの不安は俺がクロエの前からいなくなってしまうのではという心配からだった。
そして俺の不安も同じ。俺のことを心配するあまり、またどこかに消えてしまうんじゃないかと考えてしまう。
自分の生い立ちを話したのは勇気が必要だっただろう。不安を打ち明けるのは相当の覚悟だっただろう。クロエはそれくらい追い込まれていた。
たった二人の姉妹でどれだけ旅をしてきたかはわからない。二人で支え合って生きてきたのは間違いない。お互いが大切で、お互いが必要で。
しかしそれでもクロエはイリスにも負い目を感じていたと思う。自分のためにずっと一緒にいてくれたイリス。そのせいで里の中では完全に孤立していたという。
だからクロエは誰も彼もを拒絶した。近づく人全てを。その力を使って。イリスを守るためにも、自分からイリスを取られないためにも。
そして使えば使うほどイリスには負担がかかる。どうしようもない悪循環だったんじゃないだろうか。たとえイリスが平然としていても、クロエは責任を感じただろう。
「クロエには、俺もついてる」
「キミヒト……」
俺もこれから一緒に支える、そんな気持ちを込めて優しく呟く。さらさらの髪をなでながら二人で気持ちを確かめ合う。
「ね、キミヒト」
「ん?」
「血、吸っても良い?」
甘く囁かれた言葉に俺の心臓は張り裂けそうになる。あの時はダンジョンの中だった、そして周りには人がいたから大丈夫だった。
しかし今俺の理性はぎりぎりのところで抑えられている。穏やかな気持ち、大切だと思う気持ち、好きにしたいという欲望、求められているという快感、全てが絶妙のバランスで成り立っている。
そこに血を吸われる快感が流れ込んで来たら間違いなく理性は決壊する。
クロエもそれが分かっているのか、少し恥ずかしそうにしながらもじっと俺の反応を待っていた。
「……あぁ、いいぞ」
「うん……」
さっきのように甘噛みをされ、ゆっくりと舌で撫でられる。こそばゆく感じながらも断続的にくる柔らかい刺激がとてつもなく気持ちいい。
そしてゆっくりと歯を立てられる。血を吸うときは牙を出すのだろうかとか、そんな考えがよぎる中、貫かれた痛みと同時に快感が濁流のように押し寄せてくる。
「うぁ……」
思わずうめき声を上げてしまうのは仕方のない事だろう。俺が反応したことでクロエは少し笑ったような気がした。なので俺はクロエを思いっきり抱きしめる事で反抗を示す。
「ん……」
少し艶めかしい声を出すがそれでも吸血行動を止めることは無い。少しずつ、少しずつクロエに染められているのを感じる。
これは魅了の効果じゃない。ただただ俺がクロエに惹かれているだけの事。
大切だと思いながらも俺は欲望のままにクロエを自分のものにしたいと思ってしまう。吸血行動の果てにたどり着く境地は、自分の感情すらも置き去りにするような解放感だった。
「クロエ、俺も、していいか」
「……痛くしないでね」
残った最後の理性でなんとか言葉を紡ぐ。クロエを抱きしめたまま首筋に軽くキスをする。甘い匂い、熱い体温、柔らかい肌。
甘い声を上げるクロエの首筋から口を話し、次は唇にキスをする。今度は俺から、出来る限り優しく。
お互いの舌を絡ませ合い、お互いの気持ちも絡ませ合う。
お酒のせいだろうか、酔いしれるように視界がくらくらと歪み明滅し始める。
感情が音になりこぼれ落ちたかのような水音。求めあうほどにその音は大きくなっていく。決してこぼしたくはない。それでも大きすぎる感情は二人の唇から音を奏でていく。
いつまでもそうしていたい気持ちに駆られるが、俺の体は次のステップに移りたいと強く訴えていた。
俺はクロエの服に手をかけ、少しずつずらしていく。ずらしながら直接触る肌は触った事のない滑らかな質感だった。
柔らかく、そして熱い。きめ細やかな肌に触れているだけで俺の欲望が爆発しそうになる。
ゆっくりと時間をかけながら、しかし確実に肌を露わにしていく。小さい体からは非常に強い背徳感を感じる。それでも俺は手を止める事は無かった。
お互いに大切な部分以外をさらけ出し抱きしめ合うと、より一層相手の事を感じられた。クロエは少し震えているだろうか、それとも震えているのは俺だろうか。
そんな些細な事は置いておき、俺はクロエの体に口を付け舌を這わせていく。
「そこ……んっ」
肌は刺激に弱いのか、俺が少し責める度にクロエは声を上げる。その声を聴くたびに俺の脳髄は甘く痺れ、暗い欲望をぶつけたいと強く感じる。
しかし恥ずかしがっているクロエの表情をずっと見続けていたいという気持ちも強くある。この声をずっと聴いていたい、俺がクロエを感じさせている実感をもっと欲しいと思ってしまう。
際限なく欲望を刺激されていたが、クロエが限界に近付いているのも感じる。お互いに息が上がり、より煽情的になっていくクロエを見て俺の我慢も限界だった。
「クロエ……いいか?」
「うん……きて」
お互いに生まれたままの姿になり俺はクロエの女性の部分を刺激した。初めて触れるクロエのその部分は想像以上に柔らかく、肌と同じようになめらかでいつまでも触っていたくなる。
優しく指で刺激するたびにクロエは嬌声をあげ俺の心を強く揺さぶってくる。触れられて気持ちいいのか湿度は増していき俺を受け入れる準備は整って行った。
「クロエ」
「うん……」
クロエにまたがり正面から目を見つめて問いかける。その問いかけは何を言わないでも伝わり、気持ちが通じ合っている感覚がお互いの感度をさらに上げていく。
魅了された時も、吸血された時も、ここまでの興奮は感じられなかった。不屈は状態異常を無意識にはじいていたのだろう。
しかし今回のこの感情は混じり気なしの本物の感情。クロエを自分のものにしたい、クロエと一つになりたい、クロエを思い切り可愛がりたい。これしか考えられなくなっていく。
クロエは俺の首に手を回しもう一度キスをしてくる。緊張しているのか、俺を抱き寄せる力が少しずつ強くなっていく。
こんなに可愛い女の子と一つになれる幸せをかみしめ、ゆっくりと俺の男の部分とクロエの女の部分の境目を無くしていった。
「んぅ……はぁ、キミヒト、すごい……」
あまりの気持ちよさに一瞬で昇天しそうになり、クロエのとろけきった顔でさらに限界を迎えそうになる。しかしなんとか耐え完全に一つになることに成功した。
「可愛いな」
「今は、そういうのだめ……」
だめとか言いながらとても嬉しそうなクロエの顔をみると俺もとても嬉しくなる。じっくりとクロエの表情を堪能し、お互いが気持ちよくなれるようにゆっくりと体を揺らしていく。
「はぁっ……ん! だめ……! きもちぃ、だめぇ!」
今までに聞いたことがないほどに甘い声を出しおれの理性を大きく削り取っていく。愛おしいと思う気持ちとただただ肉欲に溺れる気持ちよさを感じる。
どうして触れ合うだけでこんなにも気持ちいいのだろうか。全身を密着させより深くお互いを味わう。肌のこすれる感触が興奮を高めていく。
ゆっくり揺らしたり早く揺らしたりを繰り返し、クロエの声質が変わるところを探していく。そして早く動かしたほうが好みだとわかり俺たちは激しさを増していく。それと同時に今回こそ限界に達してきているのがわかる。
たった十数分程度の攻防で俺の耐久力は限りなくゼロまで下げられてしまった。必死に抑えているがダムが決壊し思いのたけが勢いよく飛び出すのも時間の問題だ。
「クロエ……もう!」
クロエも耐えるのが精いっぱいなのか小声で返事を何度もしてくる。そして無意識なのか意識的なのか俺にかみつき吸血行為をしてきた。可愛すぎるその攻撃力、圧倒的な快楽の破壊力の前に俺のダムは決壊した。
恐ろしいほどの快感、解放感、背徳感、そして好きな子に全てを注いだ征服感。それを受け入れてもらえた安心感、様々な感情が俺の中で渦巻いていく。
快感の波に押しつぶされそうになり視界は明滅を繰り返す。意識が飛んでもおかしくないほどの快感は初めて体験するものだった。
「はぁ、はぁ。大丈夫か、クロエ」
俺の中から溢れだした思いのたけはクロエの中に注ぎ込まれていった。しかしクロエの小さい体では到底受け入れられる量ではなく溢れ出してくる。
「だい、じょうぶよ……でも、すごい量ね」
溢れ出してしまった俺の思いのたけを見てクロエは微笑む。横に倒れこんだ俺の上に乗り、そして俺の俺たるものを口に咥えて優しく動かしていく。
吸血行為をされた時以上の感触に思わず腰が引けてしまうがクロエはがっしりと俺の身体を押さえつける。上にのしかかられているためこれ以上の抵抗は不可能だ。
「でも、まだ元気みたいね?」
口に含んで俺の思いのたけを全てなめとったクロエは妖艶に微笑んだ。その顔はまだ満足しきっていない表情で、さらに俺の興奮を増していくには充分だった。
「あぁ、満足するまで付き合ってやる」
「ふふ、うれしい」
そして今度はクロエが上になり俺たちはまた深くつながっていった。




