プロローグ
何色にも染まらない、退屈な日々が過ぎてゆく。
無辺際の海の底の底で、イルカたちが跳び回る眩い水面に憧憬の念を抱く微生物の僕。
どこへ行こうが僕の手を引いてくれる人は現れない。
淡い片思い。炎天下のテニスコートに滴り落ちる汗と黄色い声援。放課後の帰り道、隣を歩くブラウス姿の華奢な女の子。過去の妄想というものは恐ろしく、不意に背後から透明な刃物で胸を貫き、去ってはまた戻ってきて同じことを繰り返す。彼等はあと何回僕を苦しめれば気が済むのだろう。
ああ、寒い。この特別な日に恋人と過ごすなんて、海外ではむしろマイナーな風習なんだけどなあ。誰に向けられたわけでもない言い訳を残し、18回目のクリスマスを迎えた僕は今日も同じようにコンビニのバイトへと赴く。
「っしゃあせー」
またカップルが入ってきたよ。どうせコンドームしか買わないんだからさっさと買って失せろ、と内心悪態を吐きつつ間の抜けた挨拶をする。今日はオーナーが入っていないからとことん手を抜ける。
「やほ、新人君。お疲れさま〜」
かれこれ1年間勤めている僕を新人君と呼ぶ人間はこの職場で古川結衣、ただ一人だ。彼女は2年前からこのコンビニで働いている、とても愛想が良い女の子だ。
「先輩また遅刻ですか」
「いいじゃない今日はオーナーいないんだし」
「そういう問題じゃないですよ。僕の仕事が増えるんです」
「ちょっとくらい多目に見てほしいな。あっそうだ、これ終わったらいいものあげるからさ。ね?」
「ありがとうございます。じゃあ先輩はトイレ掃除と陳列お願いします。僕はレジと揚げ物やってるんで何かあったら言ってください」
「私の仕事ちょっとキツくない?ってねえちょっと無視しないでよ!」
その後も僕は文句を言う先輩をひたすら無視してポテトと加工済みの肉を揚げていた。
そんなこんなで午後4時からの6時間、僕は業務をこなした。従業員用の控え室で安物のパイプ椅子に腰をかけ一休みしていると、少し遅れて業務を終わらせた先輩がドアを開けて入ってくる。
「お疲れさまです、先輩」
「うんお疲れさま。はいこれ」
先輩は僕に三ツ矢サイダーを手渡す。どうやら、先輩の言っていた”いいもの”とはこれのことらしい。
「先輩」
「んー」
「先輩って彼氏いないんですか」
「え、何よ急に」
虚をついた僕の発言で驚かせてしまったようだ。先輩は子供っぽくむせている。
「ほんの興味です」
「い、いないけど・・」
肩までかかる程度の長さの、美麗な呂色の髪の毛を指でクルクルと巻きながら、先輩は答える。心なしか、頰が赤く染まっているように見える。
「そうですか。この後は予定とかあるんですか」
「ないわよ。っていうかクリスマスの夜にバイトのシフト入れてる女の子にそんな無神経なこと言える男がいること自体信じられないわ」
「すみません。なんというか、安心しました。それじゃあ僕は上がります」
「ちょ、ちょっと、なんなのよあんた待ちなさいよ」
「なんですか」
「なんですかじゃないわよ。あんた何が言いたかったわけ?あんたあたしをバカにしてる?」
「違いますよ、ただ、ほんの興味があっただけですって」
「ホント意味わかんないわ。あんた性格悪いわよ」
「そうかもですね。もう帰っていいですか」
頰を膨らませ、こちらを睨みつけてくる彼女を横目に僕は店の裏口を出た。
初めまして!河村ドミノです。
今回、処女作である『異世界物語』を全世界に向けて公開したわけですが、この物語を執筆しようと決断するに至った背景には、「異世界転生モノは好きなんだけど、どれも主人公がチートだなぁ」「何か目新しい面白い作品ないかなぁ」と私が日頃感じていた思いがありました。俗に言う「マンネリ化」とはこのことですね。そこで、思いついたのが、「主人公が現実的に異世界を冒険する」というアイデアでした。
この物語のプロットを練る上で一番大事にしたのが「全てを現実的に設定する」ということです。もちろん、主人公が転生する際になんらかの能力を天から授かったり、魔法を使えることは自明です。が、その他の要素は出来る限り程度を調整しました。また、主人公の転生先の境遇も恵まれないものとしました。
最後に、あとがきの締めくくり方すら分かっていない私、河村ドミノですが、何卒応援のほどよろしくお願い申し上げます。
(宣伝等していただけると嬉しいです!twitter→@kawamuradomino)




