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妖精姫へのプロポーズ  作者: れんか
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「捕縛せよ」

 

「はっ!」

 

 赤毛の男の腕からヴィヴィアンを取り戻すと、レジナルドは騎士たちに命じた。

 

「ヴィー! 大丈夫かっ!」

 

「リオさま?」

 

 騎士に連れられてエリオットが駆けてくる。何故彼がここに? 不思議に思ってヴィヴィアンが首をかしげると、レジナルドが説明してくれた。

 

「ヴィヴィアンが居ないのに気づいて皆で探していたのだが、彼がお前の持ち物が落ちているのを見つけてな」

 

「この辺に土地勘のある彼に案内を頼んだんですよ」

 

 レジナルドの言葉を、フィリップが補う。

 

「点々と髪飾りだの靴だの靴下だの落ちていて、連れ去られた方向がよくわかった。偉かったな、ヴィヴィアン」

 

「えへー」

 

 捕まった時にとっさにスカートのポケットにあるものを全部落とした。それはどんぐりだったり石だったり、林に落ちていてもおかしくはないもの。ただ、ひと所に固まって“落ちている”のは人の目を引くだろう。

 

 髪飾りが落ちたのは、抱えられる時に暴れた拍子にたまたま。誘拐犯の肩に担ぎ上げられ、男の背中越しに髪飾りが落ちているのを見たヴィヴィアンは、ピンとひらめいたのだ。

 

「でもねーおとすものがだんだんなくなってね、ふくはまだひとりでぬげないし。つぎはぱんつをおとそうとおもってたの!」

 

「ヴィ、ヴィヴィアンたんのおパンツ……ウッ」

 

 何故かフィリップが鼻を押さえて前屈みになった。押さえている指の隙間から赤いものが垂れているが、大丈夫だろうかとヴィヴィアンはじっと見る。

 

「見るな。穢れる」

 

「あれー、なにもみえないよー」

 

 レジナルドに目を隠されてしまった。エリオット少年が、ゴミを見るような目付きでフィリップを見ている。

 

 ややして騎士が荷馬車で一人逃げていた太っちょも、無事に捕縛して戻ってきた。男はそれまでの柔和な仮面を脱ぎ捨てて、口汚くわめいている。

 

「オレは何もしらないぞっ! その男が全部仕組んだんだ! オレは騙されたんだっ!」

 

 “僕”と言っていたはずが、“オレ”に変わっている。唾を散らしながら血走った目で、男は仲間の赤毛の男を睨みながら、自分は無実だと訴えていた。

 荷馬車から落ちるヴィヴィアンを身を呈して守り、その後も抵抗することなく縄についた赤毛の男と、醜く抗う太っちょ。

 

 見る者が見ればその人となりは分かる。太っちょがいくら言い訳を重ねても、その言葉を鵜呑みにする者などいなかった。

 

「放せぇ! オレは悪くないって言ってるだろうっ!」

 

 ひとまず領主の館まで戻るのに、荷馬車に転がされ、みっともなく悪あがきをする太っちょ。

 

「……」 

 

「ヴィヴィアン?」


 レジナルドの腕の中でそれを大人しく見ていたヴィヴィアンの様子が、どこかおかしい。

 

「どうした、固まって──ヴィヴィアン?」

 

 固まったように無表情で太っちょの男を見ている。その蒼玉の瞳は大きく見開かれ、まばたきもせずにただじっと見ている。まるで人形にでもなってしまったかのようだ。

 声をかけても何の反応もないので、レジナルドは眉をしかめてエリオットを見た。

 

「ヴィーは、たまにそうなるんです。何でかわかんないけど、声かけても揺すってもそのまんまで。しばらくしたら元に戻るんですけど」

 

 どういうことだ? レジナルドがフィリップと目で会話をしたその時。腕の中のヴィヴィアンが口を開いた。

 

「“オトモダチ”がそこにいる」

 

 およそ普段のヴィヴィアンの声よりずっと低く、腹の底から出したような低い声。思わずぎょっとしてレジナルドたちはヴィヴィアンを見た。

 蒼いガラスのような瞳でただ一点、太っちょを凝視している。

 

「……?」

 

 荷馬車に乗せられた太っちょの周りには、仲間の赤毛の男と見張りの騎士くらいしかいない。


「びーみたいにつかまえたこどもたち、たくさんたくさんたくさんたくさん、だって」

 

「えっ?」

 

 ヴィヴィアンの言葉にレジナルドたちが瞠目する。

 

「みんな、こわがってる。あんまりなくと、たたかれる。いたいいたいいたいいたい“オトモダチ”がいってる」 

 

「何を──」

 

 何を言っているのかと問いかけて、レジナルドはヴィヴィアンの視線の先、太っちょの男を見る。目に見えて真っ青になったその男は、カタカタ震えながら首を横に振っていた。

 

「『真面目に働くなんて馬鹿げてる。“商品(ガキ)”さえあれば楽してボロ儲けだ』」

 

「ひいっ……っ!」

 

 噛みもせずにらしからぬ大人びた口調でヴィヴィアンが言うと、震える男から悲鳴が上がった。

 

「『おうちに帰りたいよ』『父ちゃん母ちゃんどこ?』『うるせーな、早く奴隷商へ売っちまおうぜ』『待てよダニーの奴がとっておきの商品を仕入れてるところだ』『ああ、あの“ご落胤”のガキか。そりゃ高く売れるだろうよ』」

 

「ひいいいっ! おま、お前なんでそれを。何でオレの名前を知ってるんだよっ!」

 

 太っちょを凝視したまま無表情で舞台の台詞を吐くように、スラスラと話すヴィヴィアン。レジナルドもエリオットも皆、固唾を飲んで成り行きを見守っている。ヴィヴィアンは無表情のまま、


 ──右に。


 ──左に。

 

 スイッと視線を空にさ迷わせた。


「……」

 

 まるでそこに“ナニカ”いるかのように。“ナニカ”と話しているかのように、数度小さくうなずくとまた口を開く。

 

「『それにしてもダニーも鬼畜だよな』『ああ本当に。あの娘を拐う片棒を担がせて、責任をなすりつけるつもりなんだろう?』『それもあるが、ちゃっかりそいつの娘も売るつもりってのがよ』」

 

 今度は赤毛の男が顔色を変え、目を瞠って太っちょを見た。

 

「『娘? そいつの娘も売るってのか』『ああほら、そこでうずくまってる赤毛のガキだ。キャリーとかいったかな』」

 

 ヴィヴィアンの台詞は、まるでそこに太っちょの男ことダニーの仲間がいるような、生々しい語り口だ。そこまで話したところで、赤毛の男から悲鳴があがった。

 

「キャリーだと! てめぇダニー、この野郎! オレの娘まで売り飛ばすつもりだったのかっ!」

 


「『おとうさんたすけて、いたいよ、こわいよ、たすけて』」

 

「キャリーっ! 嘘だろうっ! ああ、クソッタレッ! ダニーこの野郎っ、あのガキの言うことは本当か!」

 

「こらっ、暴れるんじゃないっ」

 

 縛られたままダニーに詰め寄る赤毛の男を、見張りの騎士が慌てて止める。

 

「知らんっ! オレは何も知らない! ガキのたわ言を信じるってのかよっ」

 

 唾を飛ばしながらわめき立てる太っちょを横目に、レジナルドが腕の中のヴィヴィアンに問う。

 

「“妖精姫(エアリル)”、囚われた子供たちは何処に?」

 

 その問いにヴィヴィアンはまた視線を空に彷徨わせ、スッとある方向を指さした。

 その目は先ほどとは変わって、眠そうに半分までまぶたが降りてきている。

 

「ふるい……ふうしゃごや。もうすぐどれいしょうがく……る……て、“オトモダチ”が」

 

 途切れ途切れに言ったあとヴィヴィアンは、くてんと糸が切れた操り人形のように力が抜けてしまった。指差していたその手も、ヴィヴィアンを抱き上げているレジナルドの腕にパタンと落ちた。

 ヴィヴィアンのその言葉に反応したのは、赤毛の男だ。ハッと息を飲み、レジナルドに訴えた。

 

「領地の東の外れ、今は誰も使ってない風車小屋がある! 魔獣に襲われて住人が死んじまってから、誰もよりつかねぇ場所だ!」

 

「そこなら私が案内できます!」

 

 赤毛の男の言葉に、エリオットがとっさに案内を名乗り出た。

 

「フィリップ!」

 

「はっ!」

 

「三名はこのまま残れ、一名は館へ早駆けして応援を頼め、半数はフィリップに、残りは先回りして奴隷商を捕らえよ!」

 

「はっ!」

 

 レジナルドの指令を受け、皆が迅速に行動に写る。フィリップは素早く騎乗すると、エリオットを引き上げ自分の前に乗せそのまま駆けて行った。

 レジナルドは寝息をたてて眠るヴィヴィアンを大切そうに抱え直したあと、従者たちに号令をかけた。

 

「我らは一旦領主の館に戻るぞ」

 

「はっ!」

 

 その後無事に囚われていた子供たちは無事に戻り、太っちょの男のその一味も捕らえることができたのだった。




*****





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