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一部子供に対して人身売買を思わせるシーンがあります。暴力はありませんが、乱暴な扱いをしそうになる場面もあります。苦手な方はご注意ください。
基本、ほっこりした物語なので大丈夫だとは思いますが念のため。
やがて王都からヴィヴィアンの教育係なる人物がやってきた。ヴィヴィアンが王都に行くその日のために、勉強やマナー、ダンスなどの教養を身に付けさせるためだそうだ。
「きゃああああっ! カエルがっ!」
今日はマナーの教師の悲鳴が上がる。ヴィヴィアンが身代わりにと部屋に置いてきたカエルが、ドアを開けるなり教師の顔面に飛び付いたらしい。が、仕掛けた本人はとっくに館を抜け出して、その顔は見れなかったのだが。
カエルを身代わりにしたヴィヴィアンはと言うと。
「ねー、どこにいくの?」
「ウルセエな、おい、口ふさいでなかったのかよ」
絶賛さらわれ中であった。
屋敷を抜け出して敷地内の林を探検中に、背後から口を塞がれ抱き上げられズタ袋に入れられ担がれ、荷馬車で運搬されている←イマココ。
苦しがってもがいたら、袋から出してもらえたのでよかったとヴィヴィアンは呑気に思う。
「小さいのに口なんか塞いだら可哀想だろ」
「馬鹿か。大声出されたりして見つかったらヤベェんだぞ」
「大丈夫だろ。おとなしい子だし」
ガタゴトと揺れる荷馬車で口喧嘩を始める誘拐犯×2名のおっさん。口が悪いのが赤毛の男、柔らかな口調が太っちょの男。
人間観察の終わったヴィヴィアンは、もう飽きた。
「ねーねー、あれなに?」
「ああっ? ありゃ小鹿だ。水玉模様がついてるだろうが」
「“ばんび”?」
「そりゃ著作権的に伏せ字にしといてほしいアレだ」
小鹿と言えばバ〇ビ。
「あれはー?」
「ああ、黄色いクマだな。蜂蜜を探してるみてぇだな」
「“ぷー”?」
「それもダメなアレだ」
黄色いあの容姿のイラストはまだダメなアレ。
「ねーねー」
「なんだよっ」
口は悪いがちゃんと答えてくれるところが優しい赤毛の男だ。
「どうしてびーをさらったの?」
「どうしてってそりゃ……」
「君は高く売れるからね」
口ごもる赤毛の男の代わりに答えたのは、無口な太っちょの男。
「うったらたくさんおかねがもらえるの?」
ヴィヴィアンの問いに太っちょの男がうなずく。
「そうなんだ、君には悪いけど食べるためには仕方がないからね」
口調は柔らかだが太っちょの男の言ってることとやってることは、かなりのゲスだ。赤毛の男は苦虫を潰したような顔をしている。
「じゃあそのおかねがなくなったら、またゆうかいするの?」
「そうだねぇ、今度はご子息のエリオット様でも拐おうかな」
「オイっ、いくらなんでもそれは」
しれっと言う太っちょの男に、赤毛の男が慌てる。
「どうして? ご領主の息子なら領民のために売られてくれてもいいだろう? そうでもしなきゃオレらは食べていけないんだからさ。君の子供だってお腹をすかせて待ってるじゃないか」
太っちょの男のその言葉に、ヴィヴィアンはじっとみつめた。
「じゃあ“リオ”さまをうったら、こんどはべつのこどもをうるの? こどもをぜんぶうったらそのあとはどうするの?」
「ぜんぶって……」
蒼玉の澄んだ瞳に見つめられ、赤毛の男は口ごもる。
「まわりのこどもをぜんぶうって、おかねもなくなったあとはどうするの? つぎはじぶんのこどもをうるの?」
「そんな訳──」
そんな訳ないだろう、赤毛の男のその言葉が尻すぼむ。金は使えばなくなる。『売る』ものがなくなれば金は得られない。
子供を拐って金を得ることが、生活苦の根本的な解決にならないことに、赤毛の男は今更ながら気づかされた。
「何言ってるの。子供がいなくなったってまた増えるさ、それまで別の領地の子供を売ればいい」
太っちょの言葉に、赤毛の男は首を振った。
「いや……そうじゃねえ。それじゃあいつまでたっても、オレらは苦しいままだ。この先ずっと安定して金を稼げる方法を探さねえと」
「この先? 今が大変なのに先の話? 僕らはいま、現在、金が必要なんだよ! 金さえあれば君の嫁だって死なずにすんだんじゃないの?」
「だからってずっとガキを誘拐し続けるのかよ! もし失敗したら? 捕まったら命はねぇ。そうしたらオレの子供はどうやって生きていくんだよっ!」
「じゃあどうすればいいってんだよっ!」
喧嘩を始める誘拐犯と、すでに飽きたヴィヴィアン。ヴィヴィアンは、荷馬車の後ろのヘリに顎をのせて、「あ″あ″あ″~」と振動で変な声が出るのを楽しんでいた。
そうしながらこっそり下に何かを落とす。
道々、誘拐犯たちの気をそらしながら、ポツンポツンとさりげなく何かを落としていた。男たちにはまだ気づかれていないようだ。
「ねーねー」
「だあっ! ウルセエなっ、取り込み中だっ!」
今にも殴りあいの喧嘩を始めんばかりの誘拐犯が、ヴィヴィアンを振り返る。
「あれなに」
「はあっ? あれってありゃあ……ってマジか!」
「もう見つかったのか!」
見えたのは荷馬車を馬で追って来ている、団体。先頭に蜂蜜色の髪をした人物が見える。砂煙と怒号を上げて、こちらへと猛追してきている。
ちなみに一番咆哮をあげている男が、「ヴィヴィアンたんの貞操が」とか「ヴィヴィアンたんを奪うものゆるすまじ」とか叫んでて、たまに蜂蜜色の髪の人からムチを食らってる。
馬用のムチじゃないのかあれは。痛くないのだろうか。時々「あはんっ」とか変な声をあげているが、彼の今後は大丈夫だろうかと幼心ながらヴィヴィアンは思った。
「あ、ありゃ王都の騎士じゃねえか!」
「まさか誘拐のことがこんなに早く? あり得ない!」
「あー」
そういや今日はレジナルドが来る日だったと、ヴィヴィアンは思い出した。たまたま王都から彼らが来る日に、よりにもよってヴィヴィアンを拐った誘拐犯。
「何てこった! 何てついてないんだ」
「ちがうよ! そこは『なんてひだ!』ってさけぶんだよ!」
太っちょにあさってのツッコミを入れるヴィヴィアン。男は、その目をギラつかせた。
「そうだ、このガキを人質にしよう」
「馬鹿言うなっ! ガキは傷つけねえ約束だったろ!」
「逃げるためには仕方がないだろ? 早くしないと追いつかれる! オイ、こっちに来いお前っ!」
優しい仮面を脱ぎ捨てたゲス太っちょが、ヴィヴィアンに手を伸ばす。その手に捕まる前にヴィヴィアンは、荷馬車の横から勢いよく飛び出した。
ヴィヴィアンは、荷馬車の横から勢いよく飛び出した。
「とおっ!」
「うおいっ!」
宙に浮くヴィヴィアンにぎょっとして、赤毛の男はとっさに手を伸ばして空に身を投げた。ヴィヴィアンを抱き抱えた赤毛の男は、そのまま地面に叩きつけられ「どうおっ」と、うめいている。
「お前たちは荷馬車を追え! 逃がすなっ!」
「はっ!」
あっという間にヴィヴィアンに追い付いたレジナルドが、的確な指示を出してから馬を降りる。
「ヴィヴィアンっ!」
「いたた……くないけどくさい」
「うっ……そりゃよかったよ、そんで悪かったな臭くって」
赤毛の男の腕にしっかりと守られたヴィヴィアンは傷ひとつついてなかったが、汗と埃と土の臭いと加齢臭で臭かった。レジナルドやエリオットの匂いとは全然違うと、ヴィヴィアンは思った。
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