マジョリティーデビューに失敗した男の悲惨な人生を語る
※ご本人様達についての二次創作は公式より全てフリーとの発言のもと、作成しています。
※捏造注意
地元の飲み会。顔馴染みが揃った安心感のある場。
酔いも回り、皆が良い気分になってきた頃、何気なく始まる猥談。
僕はこの手の話がとても苦手だった。
同性愛者であるというマイノリティーな自分の立場が危ぶまれるからだ。
「坂ちゃんはさ、どんな子が好きなんだっけ?」
友人Nの言葉が早速地雷を踏んだ。
頭の裏で警笛が鳴っている。
いや、大丈夫だ。何度もこういう場面には出くわしている。
そんな時の対策だってある。
マニュアル通りに答えればすぐ終わる。
「いや、まあ、『普通』が一番だよね。まあ強いて言うならば華奢?細くて綺麗で清潔感のある子なら誰でもいいよ。いやむしろそれがいいよね。わかるかなあ?普通って。普通でいいんだよ僕は。」
よし決まった。若干早口だったか?いや大丈夫だ。
あとは適当に言わせておけば僕のターンは終わる。
「でたー!坂ちゃんそればっかりだなあ!」
まあまあ。
「本当か?この中だったら一番性癖エグいくせに。」
え?
「本当はすごいことしてそうだよな。」
うん、まあジムで見つけたシックスパックと逆三角形のマッチョお持ち帰りしてます。なんてことは言えないよね?
「実際のとこどうなんすか?」
話を広げてこられた事による若干の焦りを全力で偽った。
「え、えー?聞いちゃう?それ聞いちゃいます?まあ?今なら別に言ってもいいけどなあ、でも君ら引いちゃうんじゃないかな?別に僕は言ってもいいけどね、朝になっちゃうかもよ?それでもいいの?えっとねー…」
野次が飛んできて遮られる。
またどっと盛り上がる。
このまま溶け込んでいればいいんだ。
西郷にでも話を振って終わらせよう。
「ああーっつと!そういえば、仕事も恋愛も完璧な?イケメンそっしー君はどうなのかな?ああー、竹馬の友といえど知らないなあ、僕知りたいわあ!」
僕が声が張ると一斉に西郷に注目がいった。
よしよし。これでいい。
えー?と頭をかいているマヌケな西郷を横目に少しぬるくなったビールを豪快に呑んだ。
喉を通る炭酸と頭がふんわりする感覚が心地よかった。
自分がまだ酔ってないことに気づいた。
聞きたくなかった。
あいつの話なんて。一番聞きたくなかった。
今すぐ寝てしまいたい。
「タイプというタイプはないけど、やっぱ脚だよね。好きだなあ。まずそこにどうしても目がいく。スラッとしてるよりかは、ムチムチしててほしいな。あとエロい時とか積極的だとやばいな。」
うわ、好きそうだなあ。
何語ってんだこのゴリラは。
僕は舌打ちをした。
周りがうるさくてもちろん聞こえていない。
でも、と一言呟いて箸を置いた西郷は意外にも真剣な口調で続けた。
「一番は、素直な人かな。自分の意思がはっきりしてて好きなこと嫌いなこと、やりたいこと、やりたくないこと、自分でわかってる人。自分にも人にも素直に接する人。」
周りが静かになった。
「へえ、いいなあ。」
無意識のうちに言葉が漏れていた。
西郷と目が合ってハッとする。
見透かされたような気がした。
「坂本さんは? 正直に。」
そう言ったきり西郷は目を逸らした。
は?なんだよそれ。
なんだか急に不安になって、何も考えられないまま浮かんだ言葉を一つ一つ呟いた。
「優しい人。怒らない人。よく笑う人。いつも一緒にいてくれる人。……優しくて怒らなくていつも笑っててずっと一緒にいてくれる人。僕のこと好きな人。」
何故か涙が出そうだった。
恥ずかしくて俯いた。
西郷の顔が見れなかった。
多分僕の顔は真っ赤だ。
「そう、きっと素敵な人なんだろうね。」
素敵な人だよ。
震える声で答える。
「へえ、いいなあ。」
素敵な人は世界一優しい声でそう言った。