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たぬきとどくだみ  作者: 葵陽
一章 有馬 → 喜瀬川
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不思議な道具なんかより、あのあおいねこちゃんがほしいと思ったことはないか。

※この作品はフィクションであり、専門用語は創作です。信じないで!

お読みいただければ、幸いです。


空が飛びたい?世界旅行に行きたい?

そんなことより、君がほしい。

片道六時間、船と列車を乗り継いであの道を帰る。


 生家の村がある「島」は、かなり遠い。

列車が最終の駅に着くころには、雪が降っていた。確か、有馬を追い出されたころも雪が降っていたと思う。

 

気づいていると思うが、くぼうさまが住んでいた町は私たちが来た当時夏の気候だった。生家の村との気候が正反対だったことを疑問に思ったことだろう。


まず、話すべきは今の時代のことだ。

線路を走る蒸気機関車、洋装を着ている人もいるが庶民の平服は着物。移動手段も馬車か人力車、車は鉄の馬と呼ばれている。

文明開化真只中、一見して明治か大正時代と錯覚してしまうが。


今は西暦二千百十三年だという。


信憑性というなら、私の手元にある新聞を見てほしい。

発行年は、二千百十三年である。無論これは国際政府発行の、信頼がおける新聞である。面白グッズでもなければ、今日は四月一日でもない。

残念ながら青い猫型ロボットは、誕生していない。

くぼうさまやあらたさんに訊ねたところ、首都部では人型ロボットやアンドロイドの運用が開始されたばかりだという。くぼうさまが住んでいる町には、ロボットの「ロ」の字もない。


それでなぜ、「島」によって気候が違うのかという問題だが、くぼうさまたちの住んでいた「島」は特殊な機械によって「夏の気候」を再現していた。時代が進みすぎて、この国は一年のほとんどが雪と氷に覆われている。ゆえに人が密集している「島」は、機械によって気候を管理しているとのことだ。

専門的なことなので、詳しい機械の仕組みは分からないがその機械がなければ生命は生き永らえることが出来ないという。ただの「氷河期」というわけでもないようだ。




さて、駅に着くと有馬家から迎えが来ていた。鉄の馬ではなく、生きている馬だ。

雪の降る中、馬に道を走らせるのはなかなかに酷なことと思うのだが誰かが楽をするということは誰かが苦労をするということだ。

気休めかもしれないが、労いのつもりで私はそっと馬を撫でる。馬は静かに撫でられるままだった。


あの日、もう二度と戻れないと思った生家の敷居をまたぐ。玄関には東彦様の守役、八重婆が鎮座していた。

ちょっと、ビックリした。




「お久しぶりで御座います、東彦はるひこ様。

東彦様におかれましてはご息災のご様子、お慶び申し上げます。」


荷解きもそこそこに、大広間へ呼び出され従兄に挨拶をする。

時差などはあまりないが、片道六時間一睡もしていないので大いに疲労していた。

正座が辛い。


「初乃も元気そうでなによりだ、日向子たちも息災だろうか。」

「おかげ様で皆、息災で過ごしております。」


マニュアル通りの挨拶をする。

いまだ東彦は未婚なのだと、八重婆が嘆いていたのを思い出す。その容姿、性格、家柄ならばより取り見取り、嫁など選び放題だろうに。てっきり私はもう結婚して、子供の二、三人でもいるのかと思っていたのだが本人としては結婚している場合ではないということなのだろうか。

優良物件が、惜しいことだ。全ては私の愚かな父が起因なのだが。



「八重婆から聞きましたが、令室をお持ちになっていないとか。嘆いておられましたよ。

 東彦様ならば、嫁様などより取り見取りなのに。」


「いや実際、見合いの話は一件もない。こんな旧家に嫁に来てくれる殊勝な女性が、いるとは思えん。」



三年前に当主の叔父上が亡くなり、東彦が当主となった。私の父が当主の座から引きずり落されて、逼迫した有馬家の財政を立て直したのは叔父や東彦だ。その功績は評価されて然るべきと思うのだが、家中の叔父親子の評価はあまりよろしくはない。かといって悪く言う人も有馬の爺たちしかいないのだが。相談役の爺たちも、

随分愚かだと私はひそかに冷笑する。


やはりこの家で称賛されるべきは、かんなぎの力の有無なのだろう。実際東彦にも、巫の力は皆無だという。

持って生まれた才覚も必要だが、信心も必要なのだと聡明なる従兄殿は言っていた。

無理もない、神の声を聴く前に神を信心しろなど正気ではない。

それでなくとも東彦はリアリストだ。血筋がよろしくとも、いくら修行しても信心がなければ神の声は聞こえない。


「今日私をお呼びになったのは、」

「お察しだが、相談役の爺たちだ。」

「ではやはり壮一郎の、」

「ああ、壮一郎に巫の才があると知るや一度追い出した子供を呼び戻せと。我が父祖ながら自分勝手すぎて反吐が出るよ。

だが、今の有馬にはもう巫がいないんだ。爺たちが焦るのも、無理からぬ話ではあるがな。」



この「島」には件の、気候の制御機械がない。ないというより、かなりの旧式を使っていると言うべきだろうか。それゆえこの島に、春や夏は滅多に来ない。

だからこそ、巫による神託が他の島より重要視される。


お読みいただきありがとうございました。

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