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たぬきとどくだみ  作者: 葵陽
八章 消えてしまった。
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《閑話》監視業務

お読みいただければ、幸いです。



「メイド」より

「メード」の方が

なんとなくかっこよい

(ただそれだけのために)

初乃たちの住む、国の名を正式には和洲(わしゅう)皇国という。八つの島からなる島国であり、ほぼ鎖国状態の国である。


他国との貿易を自国(じぶん)から避けている、わけではなく貿易をしようにも厳しすぎる自然環境がそれを阻止している、と言ってよいだろう。

別段外国人の入国を禁止しているわけでも、自国民の海外渡航を禁止しているわけでもない。


だが音信不通、未開の国であるがゆえに、他国からは警戒されているのが現状である。






人工的に造られた、陸地の上に大型双眼鏡を覗き込む男と思しき人物がいた。大仰な防護マスクと防護服を装着して。


マスクの口部分より時折、コフーコフー、と呼吸音が聞こえている。



男は、おもむろに顔を上げて傍らにいる金髪の女性に話しかけた。


「マルガリテス。」


マルガリテス、と呼ばれた助手と思わしき女性は整った顔をしている。顔が分かる通り、女性の方は防護マスクも防護服も身に付けてはいない。彼女は濃紺の、ロングスカートにエプロンを身に付けて、男性の傍らで作業をしている。女給さん、メードのような格好だ。


女性の睫毛や眉毛が白くパリパリと凍りついていることから、外気がいかに寒いかが窺えるだろう。


が、女性が寒さを感じている様子はない。


「・・・・・」

女性は黙ったまま、男の傍らで備品の片付けをしている。備品同士のぶつかる、カチャカチャという音はしているが聞こえていないわけでは、ない。


「マルガリテス、おい、マルガリテス!」


「・・・・・」

男は再度女性の名を呼んだが、依然として黙ったままである。気のせいか、女性は少しだけ気に召さない顔をしていた。しゃべれないわけでも、ない。


「マーガレット!」


「はい。御用でしょうか、クラウス様。」

男が"愛称"で呼ぶと女性、"マーガレット"は返事をする。その顔は、作り物の笑顔を浮かべていた。


「一度で返事をしろと言うておろうが。お前はほんとに僕の助手か?」


「わたくしの付けられた名は確かに、マルガリテスです。しかしながら"かわいくないので"返事をしませんでした。どうかマーガレット、と御用の際はお呼びくださいませ、御主人(クラウス)様、と何度も言っているではありませんか。」


機械(ドール)がかわいい、かわいくないを気にするのか。」


「マルガリテス、はかわいくないので仕事のモチベーションが上がらないのです。」


「それだけの理由か。

お前、ほんとは人間だろう?」


「ふふ、実はそうなのかもしれませんね。」


マーガレット、もといマルガリテスはクニの技術の粋を集めて造られたオートマトン、機械の人形である。その機械のからだには、高性能の人工知能が組み込まれている。このホシの自然環境はおおよそヒトの生身で過ごせるものではないが、彼女は機械であるために生身で外に立っていても何ら問題はない。

難しい説明は省かせてもらうが、玄人たちからタコ殴りになる覚悟で例えるならば彼女は、手足の付いたパソコンというか、機械の脳みそを持ったメードといった感じだと思っていれば良いだろう。



人工的に造られた陸地の、これまた簡易的に作られた小屋に入る二人、いや、一人と一体。

"クニ"に定期の報告をする時間である。


マーガレット一体がいれば、仕事も出来るし家事もやってもらえる。一家に一体あればどれだけ便利なことだろうが、便利なものは大体にして高価なものだと決まっている。無論、マーガレットはクニからの借用物であった。


クラウスとマーガレットは、小屋中央のダイニングテーブルに腰を降ろす。

椅子に座ると、マーガレットはからだからカタカタという音を鳴らし始める。別段壊れたわけではないので、安心してほしい。



「今日の記録を、中央に送信いたします。三、二、一、中央ネットワークに接続完了いたしました、接続終了まであと二十九分五十四秒です。」


マーガレットの、緑色の瞳が赤く変わる。接続中という意味だ。


「本日、イチヨンマルマル。クラウス=アルブレヒト調査員報告、早朝より快晴なり。地表および海面に、異常はありません。和洲皇国より船、飛行物、危険物はなしであります。報告は以上、次いで補給物資を要求いたします。助手三十八号、マルガリテスの燃料と鉛筆、ノートを一ダース、調査員の食糧三週間分を要求いたします。以上。」


「報告内容を送信しました、接続を終了しますか?」


「ああ、終了してくれ。」


「接続を終了いたします。」


キュウウウン、という終息音とともにマーガレットの瞳が赤から緑へと戻る。


「クラウス様、わたくしの食物(あぶら)は請求していただけましたか。」


「ああ、ちゃんと請求したさ。お前が動かなくなると困るのは僕だからな。」


「品目まで?」


「品目?お前たちは液状の油なら、機能できるのだろう?なんだって良いではないか。」


「いいえ、いいえ、よくありません、クラウス様。

油はどれも同じではありません。

新品の高級油と使い古されたフライオイルは、全く違うものなのですよ。以前品目まで指定してくださらなかった時、何が届いたか覚えておいでではないのですか?」



「マーガリン。」



固 形 物 。

お読みいただきまして、ありがとうございました。



《ざっくりした人物紹介》

・マーガレット(本名:マルガリテス)

AI(人工知能)を保有するオートマトン

通称「助手38号」

好きな燃料(あぶら)は、エゴマ油

簡単に言うと手足の付いたパソコン

簡単に言うと機械の脳みそを持った家政婦


・クラウス=アルブレヒト

離れ小島の小役人。妹がひとりいる。

寒いのは苦手。

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