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たぬきとどくだみ  作者: 葵陽
一章 有馬 → 喜瀬川
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七つまでは神のうち

「前の世界」ではどうかわからないが、今世で神と交信する行為、交信する人を指してかんなぎという。巫は神と対話、もしくは神をその身に宿すことで今後の吉凶を占ったり神託を頂いたりする。


私こと有馬初乃の家は、巫のお家。ただのお金持ちだったわけではない。立派な屋敷を構えてはいたが年貢、税で暮らしていたに過ぎない家だった。

この国、で神職は「公務員」と同等の扱いをされる。巫である有馬家もまた、そうだった。

ただし一般的な公務員と違うところは、誰もがなれるわけでもないところだろう。血筋も才能も必要となる、なにせ神の声を聴かなくてはならないわけだから。

たしかに血筋は大切だが世襲制というわけでもなく、巫、神との交信ができることが何より大事だという。実際先祖の幾人かは養子だったとのこと。

私は才能が皆無だったのか、はたまた転生をした身だからか神の声を聴いたことはない。弟、一佐も同様のようだ。一佐に至っては父の血が入っていないためともとれるが、私の守役によれば、父も幼いころから神の声を聴くことは叶わなかった。その弟である叔父も、神の声の受信しかできなかったとか。元一般人の私から言わせれば受信が出来るだけでもスゴイと言うべきなのだが。

我が一族はそれでも長子である父に家督を譲ったわけである。


ここで気になるのは、末弟の壮一郎だ。まだ赤子ゆえに巫の才があるか否かは不明である。出自は異父弟のはず、であるが母が出奔する時に押し付けてきた子ゆえに父親についてはまったく分かっていない。それどころか母の子であるのかどうかも定かではない。

それを言えば一佐とて同じだが、一佐の場合父親が外国人という点が分かっているだけマシなのだ。



私は普段、壮一郎を背中に背負って仕事をしている。私は便宜上そうしているに過ぎない。

赤ん坊はダッコするよりも背負っていたほうが子供の成育的に良いという話を思い出した、実際はどちらが良いのかは知らないが。

壮一郎は夜泣きをしない。夜泣きというか昼間も泣かないし、腹が減っても粗相をしても泣かない。ゆえに、いつ壮一郎が腹をすかし、いつ排泄をしたかということに気を配る必要がある。幸い日向子か一佐が気づいて私に知らせるというシステムが出来上がっているため、今まで大事に至ったことはない。

これが普通の赤ん坊ではないことは、前世、今世と育児をしたことがない私でも分かった。

これは私の勝手な想像だが、壮一郎には「聴こえて」いるのではないだろうか。時折何もないところを指さし、楽しそうに笑う壮一郎を見て私は思うのだ。聴こえている、というより「見えている」のが正しいか。よく赤ん坊は、神的なものが見えるとは聞くが。




 

根本的な問題だが神は本当に実在しているのか、そんなことを政治までも巫で決められるこの国で疑ってはならない。この国は神の声に従って成立し、神の声によって運営されている。

この国は「まだ」、政教分離ではないようだ。


巫にも聴ける神と聴けない神とがいる。巫の格、というわけではないがより強い力をもった神と対話するためには巫も強い力を持つ必要がある。

例えるならロールプレイングゲームの登場キャラクター、召喚士がレベルをあげないと強い召喚獣を呼び出せない、ことに近い。ただゲームと違って生きている人間のレベルをあげるのは死なない限り不可能だ、実質生まれ持った才能に余剰がなければ対話できる神はおのずと絞られてくる。

有馬家は、治める土地の産土神うぶすながみと対話することを生業としていた。産土神はその土地の守護神であり、巫は産土神と対話することによってその土地をより良いように治めていくことができた。

つまり、有馬家の人間はどれだけほかの神と対話できようとも、自治土地の産土神と対話できなければ意味がない。有馬家は産土神から土地を借りて治めていたに過ぎない、というのが私の乳母の見解である。

前述したが、私は残念なことに何者の声も聴いたことはない。が、日向子は神使かみのつかいの声を聴けるようだ。実際生家の周りには、「私には見えない」おきつねさまが沢山いたらしい。

エキノコックスが心配です。


可愛い妹の言うことを疑えるわけがない。自分は聴けなくとも神はいるのだと、私はそう信じたい。



今日は久しぶりに雲一つない晴れだ、と大量の洗濯物を干している。勿論、壮一郎には可愛い黄色のお帽子をかぶせた。

背中でまた、壮一郎が笑っている。壮一郎の目線の先を見ると、くぼうさまがテラスに座って本を読んでいた。


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