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たぬきとどくだみ  作者: 葵陽
六章 海と狸と駄菓子屋と
58/89

白昼の恐怖。

お読みいただければ、幸いです。





※とても言えた義理ではありませんが、

※ヒトを見た目で判断してはいけません

テストで百点をとったら、最初の三回くらいまでは誉めてもらえるの。だんだんと、私が百点をとるのが当たり前になってくると母さんはなにも言わなくなる。で、たまに百点以外をとった時になんで百点をとれないのと、責められるの。

母さんに誉められたくて、百点をとろうとする私がいた。でも母さんは、手のかかる姉や弟ばかりをかまう。二人ともあまり誉められはしない、むしろ叱られてばかりだった。だが母さんは二人の方が好きなのだと私は、『気づいてしまった』。


真ん中の、次女に生まれて私は要らない子なんだと何度も思った。姉は女だけど第一子、弟は三子だけど男だ。とても差別的思考だけど、未だに男性優位のこの社会では弟の方がチヤホヤされた。姉は待望の長子だから、蔑ろにされることもなかった。

じゃあ、『私は』なんなのだと。長子でもない、男でもない。母さんが私を見てくれないのは私が要らない子だからなんだと、本気で思った。


「成人まで養ってもらっておいて、なにを言っている。」

ヒトに相談したら、こう言われた。

生まれてはじめて、死にたいと思った。

インターネットで、死に方を検索した。

「命を大切に」と、その一文が出てきた。

ただ自殺を止めたいだけであって、具体的な解決策も救済も提示してくれないならその一文に価値はないと、そう思った。


私が死んだら葬式代がかかると思うので、遺書には葬式不要と書いておこう。

遺書を書いていると、辛くて涙が出てきた。

今度は自分を哀れみ涙を流す、自分自身が嫌いになった。



そうだ、あの遺書は何処に仕舞ったかな。

確か実家の部屋の、




そこで目が覚めた。

私は、体育座りのまま膝に顔を伏せて眠ってしまったらしい。かなり無理な体勢だったにもかかわらずからだの節々が痛まないのは、"玉体"になったからだろうか。

『目が覚めると、涙が頬を流れていた。』などというロマンティックなこともなく。


私のいる奥の座敷から駄菓子屋の、外の様子を見ることが出来るが相も変わらず八月半ば、真昼の陽気だった。つくつくぼうしが、命の限りを尽くして鳴いている。

二十四時間、三百六十五日夏休みの昼気分を味わえる世界(ワールド)であるからして、小学生が来たとしたらウハウハだっただろうなと思う。"永遠に終わらない夏休み"と題をつけたらホラーチックになってしまうのに。

あくまでも個人的にだが、夏の昼過ぎという時間帯、空気には特殊なものを感じる。夕暮れほどの怖さはないものの違った世界(せかい)の匂いがする。それを明確に説明せよ、と言われると困るが。


通常なれば暗闇こそ恐れの対象であるが、白昼だからこそより恐いことが起こりそうな予感がするのだ。

誰もいない真昼の公園。

遠くで鳴る小学校のチャイム。

昼だから安全だ、という常識を崩される恐怖。



そういえば、あの(たぬき)はまだ帰ってきていない。あのデカイ図体だ、駄菓子屋の中にいれば必ず視界に入る。

何処かへ行ったのか、それとも私に愛想を尽かして出ていったのか。

直接話したわけではないので推測だが、獣は私の世話係だったのだろう。


私はまた、同じ体勢に戻る。



ガタガタ、とガラス戸の開く音がした。

獣が帰ってきたのだろうか。それとも知らない誰かが来たのだろうか。ここは駄菓子屋だ、子どもが来ても不思議ではない。

"世界(ここ)"にあの獣と私以外ヒトがいるのかは、分からないが。


コッソリと、訪問者に見つからないよう駄菓子屋の入り口を窺う。


たすき掛けをした、着物の若いねーちゃんが仁王立ちでそこにいた。金髪で、右手には火のついた紙巻きタバコを持っている。



間違いねえ。不良だ、ヤンキーだ。




私はすぐさま隠れるために押し入れの襖を開けたが、先客がいて入れなかった。

お読みいただきまして、ありがとうございました。



風邪をひきました。

皆様も、お気をつけください。

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