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たぬきとどくだみ  作者: 葵陽
六章 海と狸と駄菓子屋と
54/89

ありがとうと、いってもらえたら

お読みいただければ、幸いです。



気がつけば

カナカナカナと

蝉が鳴く

あれはひぐらし

だったたろうか

「これにて最後の拝顔となりましょう、お嬢さん。」

獣が来ると、あにいは番台から立ち上がる。


私が神になったことにより、あにいとの接続が無事切れたらしい。「私が神になった」というのは、ものすごいパワーワードだ、改めて。


正直、恥ずかしい。


できることなら、あにいには居て欲しい。

獣とふたりきりになるのは少しだけ、否、すごく怖い。


ふと獣の様子を見ると獣は駄菓子屋の前の、古びたベンチにちょこと座っていた。獣はウトウトと船をこいでいるようだ。



「差し支えなければ是非とも、御芳名をお聞かせ願いたい。」


ほうめい、という言葉に聞き覚えはなかったのだがなんとなくの雰囲気を察して「名前」のことであると思った。

名乗れば、あにいは帰ってしまう。

だが、これ以上はお引き留めも出来ないだろう。


「あさだ。朝夕のあさではなく、麻縄の。」


「ほお、存外良いものをお持ちだ。」


存外かよ。


「こちらも聞いてよろしいか、貴方の」

「神に名など無い。と言ってしまえばこれから面倒ごとが少なくて済むよ、あさ殿。」


「ああ・・・なるほど、覚えておきましょう。」


詐 欺 師 か


「神にも親が有り、当たり前に愛情もあるのだから名があるのは普通なのだけれども。」


名はあるが、名乗れない。

名乗りたくない、というわけか。


「神は、ひととの関わりに苦慮することが多い。ひとはつい無意識に、神との間に一線を引く。それは畏敬でもあるし忌避、という場合もある。勝手に崇拝し勝手に期待し、そして勝手に失望していく。あまりにも身勝手で愚かな、ひとの行いに神は振り回されていく。神はひとではないから、ひとが心配することや労うのは不敬に当たるだろうと。

神様だって"ありがとう"と言われたいときもある、いつも言われたいと思っているかもしれないのに。というか俺は言われたい。」


「思い切り、私情ではないか。」


「神が私情に、とらわれてはいけないのだろうか。」


神様は、願望を叶える道具ではない。

だが、そんなことは存じていますと口にするひともいない。


「ひとと神様はとても近くにいるようで、とても遠くにいる関係なのだと思うよ。」


そばに居て欲しいけど、そばに居ると畏縮してしまうから遠くから眺めていたい。


「そのこころは」

「恋する女子学生と、運動部のエースだろ。」



おまえ、今日はよくしゃべるな。


お読みいただきまして、ありがとうございました。



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