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たぬきとどくだみ  作者: 葵陽
四章 蛇の口から
34/89

みかん、食べたい

お読みいただければ、幸いです。



熱帯夜

エアコンのない寝室

たすけてください

俺がいるだろ?

せ、扇風機アニキ!


抜けるような青空だった。

強い日差しを遮ろうと思い、右手を顔の前に出す。

生白い人形のようなそれではなく、平凡なひとりの女の手がそこにあった。

いま思えば、初乃の身体は人間的ではなかったのだと改めて思う。勝手にとはいえ、二十数年使っていた身体ではあったけれど。


ここはどこだろうか、と視線を巡らせる。

全体的にオレンジ色の景色、と言うのだろうか。踏みしめている地面も建っている家々の外壁も、空気に舞う砂埃さえも橙の世界だ。どこか、異国の景色を思わせる。"世界の景色"的なテレビの番組で見たことがあったような。


そこらの家々に、ヒトの気配も感じない。まるで街全体が無人のような、私がこの街でひとりきりのようだ。


私はこんな景色を知らない。否、実体験として知らない。

"初乃"のときも、"前"のときもこんな街に行ったことはないと"思う"。"思う"というのは私自身、自分の記憶に自信がないから。

"前"の場合はもっとだ。なにせもう、私は半世紀も生きている。肉体的には一度、死んでいるようなものだが。




とりあえず、私は目の前に伸びる橙色の道を進んでみることにした。家々に挟まれたその道の、はるか向こうのその先は、砂埃が酷く視認することはできない。


履いているのは、"生前"に使っていた、スニーカーだった。私の足はでかく、通常の店ではサイズが無かったものだから通販で買っていた。そういえば、その通販を紹介してくれたのも恭子だった。


無意識に涙と、鼻水が飛び出してくる。

ずびずびと、顔からあふれでてくる液体を袖で拭った。


汚い。


私は、帰りたいのだろうか。

それとも、死にたいのだろうか。

それすらも未だ分からない。

帰ったら帰ったで、また就活しなきゃいけないし、このままここに居続けることは出来ないものだろうか。


腹さえ減らなければそれも良いかな、と思ってしまう。



でも、恭子にはもう一目、逢いたい。


お読みいただきまして、ありがとうございます。

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