第0話 ボクはここから変わり始める
【これは一年前、ボクが初めて異世界へ行けるようになった時の記憶……】
「どうした? 俺様に偉そうなこと説いておいて、防戦一方じゃないか」
「クッ……」
いたっ! 勇者ザドだ。
ボクは草むらの茂みから、息を潜めて様子を伺うかがう。
剣を交えているのは、ギルドでボクを睨んできた、あの黒い甲冑かっちゅうの人だ。1対1で戦っているみたいだ。
……と思ったけど、ボクはすぐに気づいてしまった。ザドは仲間から補助魔法を受けながら、上質な薬草をムシャムシャと頬ばっている。
間違いない。3対1・・・だ。
「グハッ……」
甲冑の男が大木に叩きつけられた。
ボクは怖くなって後ずさる。
ボクの足元からミシッという乾いた音。
しまった、木の枝を踏んでしまった。
「っ……! 誰かいるのか!?」
ザドが叫んだ。ボクはやむを得ず、茂みから出て姿を現した。
「私……です……」
「なんだチカか、脅かすなよ……そうだ、いいこと考えた」
ザドは悪そうな笑みを浮かべる。
「おいアーシャ、チカに剣を貸してやれ」
「はい、勇者さま!」
褐色の肌の女性が、道具袋から何かを取り出し、ボクに手渡してきた。
「はい、『鋼の剣+2』だよ」
店で売っている鋼の剣より鋭い刃やいばだ。錬金術で作り出したものなんだろうか。
ボクは鋼の剣を受け取る。
「この馬鹿が俺様に騎士道なんて解いてきたんだ。チカ、お前がトドメを刺してやれ」
「オレハ……シンノ……ナイトニ……シヌワケニハ……!」
瀕死の甲冑の男は、最後の気力を使い、声を絞り出した。
【「俺さ……男になりたい・・・・・・んだ」】
その姿が、真の男を目指すヒロくんと重なって見えた。
ボクは俯いて、ゆらりと右手で鋼の剣を握る。
「喜べ! その男を始末したら、正式に俺様のパーティにくわえてやる!」
ボクは黒い甲冑の男に近寄り、そして左手をかざした。初めての呪文だ。上手くいくかはわからない……
「回復呪文ヒール!」
緑色の光が甲冑の男を包み込む。
そして、傷が癒いえていく。状況が呑み込めないのか、甲冑の男は困惑している。
「ナニ……ヲ……」
ボクは重かった鋼の剣を、甲冑の男の足元へと置き、勇者ザドと向き合った。
「……裏切り、確定だな」
ボクの胸が締め付けられる。けど、後悔はしていない。ボクは自分の正義を貫くんだ!
「勇者ザド……ボクが相手だ!!」