クールで冷淡に見える彼女。後編
昔の僕天才か・・・・?
「私は、貴方が好きよ。」
彼女はそう言った。確かに、好きといったのだ。彼女いない歴イコール年齢の俺には到底その言葉から何かを察することはできなかったし、先ほどまで抱いていた気丈に振舞おうとしていた俺の体は、キスの感触と向けられた好意によって、まるで毒を飲み干してしまったかのように甘い疼きに苛まれていた。
「あら、どうしたの?もしかしてキス、初めてだったかしら」
彼女は表情筋を少し緩めたかと思うと、お互いの距離を詰めようと一歩足を踏み出した。
俺は恐怖した。このまま得体の知れない女に呑まれてしまいそうで、底を感じられないようなこの女に、恐怖した。
「そんなに怖い顔をしないで頂戴。何も取って食おうというわけではないのだから。」
彼女は笑みのない笑顔でじりじりと、カツカツと、確実に近寄ってきている。
お前のほうが怖いよ。なんて言えるわけもない。安直な表現で蛇に睨まれた蛙というものがあるが、それを今俺は実感していた。声が出ない。体は当然動かない。なのに心臓だけが煩く収縮している。
別に死の恐怖を感じているわけでもないし、直接的な狂気に触れたわけでもない。
認めたくないが、期待しているのだ。このまま何をされてしまうんだろうと。
あれこれ思考するうちにお互いの距離は50cmほどに近づいていた。
俺は妄想で頭の中がいっぱいになる。先ほど感じていた甘い疼きは下腹部に集まりじんわりと全身に広がっていく。
突然。彼女の動きが止まる。
「どうかしたのかしら?」彼女は可笑しそうに首をかしげる。
想定外だ、このまま何かされるとばかり考えていた。
「黙っていては分からないでしょう?どうかしたの?」と彼女は上目遣いで心底不思議そうに俺のことを見つめてくる。
「あ……」やはり声が出ない。
「『あ……』って何よ。製薬会社か何かかしら?」と俺のことを詰りつつ、続けて「それとも貴方、もしかして私とお話ししたくないのかしら?」と彼女は悲しそうな顔で俺の顔を覗き込む。
「いや……ちが……」少し声が出たがこれでは喋ることができたとは到底言えないだろう。俺は少し悔しくなった。好意を寄せてくれている人間に何もできないのか。抑えようとすればするほど気持ちは増幅していく。これ以上はいけない、泣きそうだ。
「ふふ……あははははっ……」
彼女は突然笑い出した。いったいどういうつもりだろうか。
「少し意地悪しすぎてしまったみたいね。ごめんなさい。」
俺はポカーンと知った顔で彼女を見つめる。
「最初に行ったでしょう?貴方のことは何でも知っているって。あなたがこうなってしまうことくらい察しがついたわ。」
彼女は最初の冷淡なイメージとはかけ離れた可愛らしい笑顔を携えてこう言った。
「こんな私だけど、もちろん付き合ってくれるわよね?」
着地点が見えない