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剣姫の素性編 1章

 ゴン、ゴン。


 その日の昼前、朝の鍛錬のあと、水浴びをし終えたばかりのライのもとに、来客の足音があった。


 ゴン、ゴン。


 ドアが思いっきり叩かれる姿に、ライは小さくため息をし、バスローブを少し丁寧に巻き直してからドアを開ける。


「いらっしゃい、傭兵への依頼か?」


 そこには、ライと同じくらいの年の娘が、まだ幼さを顔に残す男の子の手を引いて立っていた。


「……ええ、まあ」


 ライのバスローブ姿に戸惑ったのか、ドアを叩いていた時の勢いを失った歯切れの悪い返事が返ってくる。


「すまない、水浴びをしたばかりだったから…。どうぞ、中へ」


 ドアを全開させると、娘は警戒心が強いのか、部屋の中を一見してから恐る恐る入ってくる。男の子と繋いでいた手に汗が滲んでいたのを背後から見て取れて、先程のドアを叩く勢いと合わせて、何か訳ありの依頼人だとライは思った。


「着替えるから、少しだけ待っててくれないか?――ロレン!」


 奥の部屋で訓練用の仕掛けを設置し直してくれていたのだろうか、名を呼ぶとひょいと現れてくれたロレンに、ライは続けてお願いする。


「お客さんだ。お茶を淹れてくれると助かる」


「分かった」


 相変わらず不愛想な受け答えに、ライは苦笑いした。


「…女に、子供…?」


 依頼者である娘が小さくそう呟いたのが耳に入るが、気にせず彼女達に席を案内すると、棚から普段着をとって奥の部屋へ進む。


「…お茶」


 程なくして、ロレンがお茶を運んでくる。テーブルの上に並べていると、ふいに話しかけられてしまう。


「ねぇ、きみ、いくつ?」


 頭を上げると、娘が連れた男の子が興味深くこちらを見ていた。


「…たぶん、8歳」


「たぶん?」


 正直、分からないのが本音だ。8歳というのはついこの間のライの見立てだったから、そう答えることにした。


「でも8歳ならぼくと同じだね。ぼくはマーリンって言うんだ、きみは?」


「…ロレン」


 先日まで、名乗る名なんてなかった。それが、こうして口にすることができるようになって、その響きが自分の身体中を駆け巡るようにして、何とも言えない嬉しさをかきたてる。


「いい名前だね!」


 その言葉に、胸の中でじんわり広がるものがあった。昔よりずっと、自分が人間らしく思えてくる。


「その辺にしておきなさい、マーリン」


「…ごめんなさい、お姉ちゃん」


 娘は瞳に警戒の色を落とさずに、マーリンを一瞥すると、丁度着替え終えて戻ってくるライを見つめた。


「すまない、待たせたな」


 その言葉には返事せず、視線を向けてくるだけの娘に対しライは困ったなと感じる。とりあえず向かいの席に座り、ロレンが淹れてくれた紅茶を一口すする。


「飲まないのか?」


「…結構です。お茶しに来たわけではありませんから」


「そう」


 紅茶が少し薄く感じられて、今度ロレンにもっとしっかりと教えとかないとな、なんて考えていると、我慢できなくなったとでもいうように娘は話を切り出す。


「あの」


「…なんだ?」


「傭兵の『ライ』さんは、今どちらに?」


「……すまない、自己紹介がまだだったね」


「…?」


 質問に対して見当違いの言葉が返ってきてきょとんとする娘を見て、ライは紅茶を置いて正面から向き直る。


「私が『ライ』だ。個人で傭兵業を営んでいる」


「……嘘、でしょ?」


 娘は相当戸惑っていた。ただ一つ気になった点と言えば、その瞳に浮かんだのは、不信よりも絶望の色だったのだ。


「…どこから私の名を聞きつけたのかは分からないけど、『ライ』というのは男女共に使える名前だ。こういうのもなんだが、女だからって舐めてもらっては困る」


「……嘘よ。他に行く宛なんて…」


 まるでライの話を微塵も聞いていないかのように、会話がすれ違う。その様子にライは少し考えて、もう一度向き直る。


「信用できない、というのは分かった。けれど私にたどり着く人というのは大抵訳ありだ。他では断り続けられた人や、裏社会の問題を抱えた人だったりする。秘密は必ず守ると約束するから、依頼するかどうかはともかく、せめて内容を聞かせてはくれないだろうか?」


 ライの言葉に、娘は少しだけ顔を上げたが、言いにくそうに顔を歪ませて俯いた。

 彼女の言葉を待った。けれども訪れる沈黙を打ち破ったのは、隣にいた男の子の声となる。


「カルデリアの国王を殺してほしい」


「…!?」


 ライは驚きを隠せなかった。内容はこの国――大陸内最大の権力を持った国家の、国王の殺害。ただでさえ驚くスケールものである上に、ライの立場もあって…。


「ちょっとマーリン!」


 娘は焦りと怒りの入れ混じった声でマーリンを責め立てるが、負けじと彼は言葉を続ける。


「そうすれば、お姉ちゃんは幸せを取り戻せるから」


「断る」


 自分でも驚くくらいに声が低かった。その様子に威圧を感じたのか再び黙ってしまった二人を見て、ライは出来るだけ穏やかな声で説明を加える。


「殺しの依頼は受けないと決めているんだ、すまない」


「だけど」


 マーリンが食い掛かる。それを制するようにライはまっすぐに目を向けた。


「誰かを殺すことで幸せは得られない。こればかりは事実だよ、…マーリンと言ったかな?」


「…うん」


「憎しみからは何も生まれないんだ。これだけは覚えてほしい」


「……」


 勢いをなくしたマーリンに代わって、娘はもう一度名乗り出る。


「……依頼に見合うだけの報酬は、用意してあるんです。貴女がだめなら、他の傭兵を集めてください。何人でも何十人でも雇ってください、それだけの報酬は出します」


「だから、そういう問題じゃない」


「もうここ以外頼れる宛はありません。お願いです…!」


「帰ってくれ」


 重めの一言に、娘もやがて黙り込んだ。怒りと絶望を目に浮かばせながらも、これ以上ここで時間を費やしても意味がないと悟ったのから、マーリンの手を引いて立ち上がる。


「…ありがとうございました」


 全く感謝の響きを伴わない一言だけ残して、ライに背中を向ける。その様子にそれ以上の言及はせず、ライは静かに、少し冷めた紅茶を持って口に運ぶ。


 ――そして、カップが唇に触れる寸前で動きを止めた。


「待て」


 彼女としては珍しく、焦りを含んだ一言だった。


「…?」


 呼び止められた来客者二人は、きょとんとして彼女を振り向く。


「ロレン、二人を奥の部屋に通せ。絶対に出てくるな」


「……分かった」


 そのただならぬ様子を察したのか、ずっと横でやり取りを見ていたロレンは娘の手を引いて奥の部屋へ向かう。


「え、ちょっと、何よ!?」


 娘がマーリンの手を引いていたので、芋ずる式に三人とも向かう形になる。


「どういうことか説明し…っ」


 感情を露わにしながらライの方を振り向いた娘だったが、いつの間にかライが壁際に立ててあった剣を鞘ごと手に玄関の前に立ちはだかり、真剣な表情でそのドアを見つめているのを見て、言葉を飲み込んだ。


 バンッッ


 三人が身を隠した直後、玄関のドアは、斧で鍵ごと壊されぶっ飛んだ。


 すぐに駆け込んできた数名の兵士が、進路を塞ぐように立ちはだかるライを見て、武器を手に半円型に彼女を囲む。

 壊されたドアから吹き込んでくる風に髪を揺さられる以外に、彼女に動きはなく、左手にある剣は鞘に収められたままで、今のところ抜く気配はない。


 ドアの向こう側にはさらに何十もの兵士の姿が見え、その兵士たちを押しのけるようにして、最後に入ったのは指揮官らしき男だった。


「人を訪ねる時の礼儀というものを知らないのか」


 誰もが絶句するような状況の中で、彼女は凛とした声を響かせた。


「……ほう。それは、我々が何者かを知った上での発言か?」


 ゆっくりと見定めるように、指揮官の男は彼女のことを下から上まで、舐めるような視線を向ける。


「当たり前だ。その赤い甲冑に金の装飾、カルデリア王国兵以外に誰だというのだ」


 ライの立場的に無礼とも捉えられる発言により、彼女を囲む兵士達が武器を構え襲い掛かろうとするが、それを指揮官が制した。


「待て。……こういうタイプの女は嫌いじゃない、できるならお持ち帰りしたいところだ」


「断る」


「はは、即答とは実に面白い女だ。まあ良い、それよりも聞きたいことがある」


「…これが、人にものを尋ねる態度なのか?」


 言葉と連動するように辺りを見渡し、不自然にならない程度に状況を把握する。自分を囲んでいる一般兵が6人…先行隊なのだろう。そして目の前に指揮官クラス、外に控えている兵士はざっと数えて50程度。構えを見る限り、きちんと軍術訓練された兵士であり、そこら辺の強盗とはまるで格が違う。


(こんな町はずれの小屋に送る部隊としては絶対に数がおかしい。目的はなんだ…?)


 彼らの真意を見極めなければとライは考えた。


「まあ良い、聞くだけ聞いたら立ち去るつもりなのか?」


「それは、貴女の返答次第かな」


 指揮官は口角を持ち上げて答えた。


 *


 壁を一枚挟んだ向こう側で、娘は絶句していた。


「…私達の、追手だわ」


 逃げ切ったはずなのに、一体どうして。


「お姉ちゃん…」


 手をつないだままのマーリンが不安そうな声を出す。


「大丈夫…この手だけは、絶対に離さないから」


「うん…」


 そのとき、壁に空いた小さなキズ穴を見つけ、彼女は手を握りしめたまま、静かにそれを覗き込んで向こう側を見た。


「…!」


 女一人を囲む兵士達、そしてドアが取り除かれた玄関の向こうでは更なる兵が待ち受けていた。


「無理…よ、こんなの」


 こんなに多くの兵を相手に、女子供しかいないこの場で反抗なんて、できるはずがない。


「お姉ちゃん…?」


「――大丈夫だよ、マーリン」


 不安がるマーリンをなだめたのは、ロレンだった。


「ライは強い。とてつもなく強くて、美しい。…だから、大丈夫だ」


「…あの人はきみのお姉ちゃん?」


 そう聞いてきたのもマーリンだった。


「え……違う、けど」


「じゃあ、家族?しんせき?」


「…どれも違うけど」


「じゃあ、どうしてそんなに、信じられるの?」


「………」


 言葉をなくした、ロレンという少年を見て、これは自分がどうにかしなくてはと考えてしまう。せめてマーリンだけでも逃がしたい。…そう、ここから、奴らの手が届かないところまで。


 懸命に恐怖を抑え、部屋一面を見渡す。

 ここは、変わった部屋だった。先ほどの壁のキズ穴といい、木造の壁・天井・床のあちらこちらに傷がある。それも同じ場所を繰り返し、何十も、何百回も刺したような傷だ。家具は壁に沿うように並べられた棚以外になにもない。そして部屋の中央には――床に白いチョークで書かれた円があるだけだった。


 なんとも奇妙な空間だったが、今はそれどころではない。棚の後ろに半分隠れていた古臭いドアを見つけ、希望を見出す。


「ねぇ、あそこは裏口?」


 ロレンに小さな声で聞くと、彼は真剣な表情をして私を見つめた。


「…だめだよ。ここが一番安全なんだ」


「家族でもない人を信じるの?」


「それは…!」


「あの子は可哀想だけど、軍があの子に気を取られている間に逃げるしかないのよ」


 自分を止めようとするロレンの言い分は聞かずに、娘はマーリンを連れてその裏口らしきドアに向かう。


 *


「それで、一体何が知りたいんだ」


 武器を構えた兵士に囲まれても、ライの凛とした声は全く怖気を纏うことはなかった。


「うちの部下の報告によると、先程、この小屋に国家の大罪人が逃げ入ったのだという」


「ほう」


「…心当たりはないか?」


「国家の大罪人とはまた随分大げさに来たな。一体何をやらかしたというのだ」


「国王陛下の暗殺を企んだ者だ」


「……なるほど、ね」


「心当たりがあるだろう?」


 話の内容はともかく、男が陰湿な笑みを浮かべていたのが、ライからしては気に入らなかった。


「――いいや、ないね。身の程知らずにも、そういったことを企みそうなのはお前の方だ」


「貴様っ…ロズベルト様になんということを…!」


 取り巻きが一人進み出たが、ロズベルトと呼ばれた指揮官は腕を出してそれを阻止した。


「良い。まだ話の途中だ」


「!……これは、失礼しました」


 (ふん…この男、影響力はあるようね)


「まぁ、ここに来たのはもう一つ目的があってな。――伝説の傭兵『ライ』を探してるんだが…」


 またこの流れか…、とライはため息をついた。


「………私だ」


「……どうも、見当違いだったらしい。」


「私ではなにか不満でもあるのか?」


「いや、本当に強い野郎だったら契約したかったんだがな。しかし、これはこれでいい。どうだ、私の屋敷にでも来ないか?その美貌に甘んじて、愛人くらいにならしてやっても――」


「断る」


「……そうか。これだけの兵を目の前にして、そんなことを言うとはな。どうなるか、分かっているんだろう?」


「………」


 ライは何も答えず、一つ深呼吸をし、左手の剣を鞘ごと、腰のベルトに差し込む。これから彼が言う言葉と共に、恐らく始まるだろう“戦い”に備えて。


「殺れ」


 その言葉と同時に、兵たちは一斉に足を踏み込み、武器を振りかざそうとする。

 だが、ライは左手で腰の鞘を掴みながら、蝶のように華麗に、身体を回し彼らの軌道を避ける。そして――


 シュッ


 彼女が右手を剣の柄に当てたかと思うと、勢いよくこれを引き、銀の剣身が露わにする。そしてこれが、攻撃のために体勢を崩している目の前の兵士の腰を――斬る。


「うわぁああ」


 悲鳴が上がる。傷はそんなに深くはないのだろう、命に関わるほどではないが、少なくとももう彼は戦えない。そう判断すると同時に、剣を翻しこの状況をまだのみ込めていない隣の兵士の肩に剣を当て思いっきり――引く。


「だぁああ」


 辺りに鮮血が飛び散る。右肩を狙ったのでもう彼は武器を持てないのだろう。

 ……あと四人。

 焦った兵士たちは、武器を構えて追撃をしようと、再び自分に向かってきている。その様子を見てライは少し口角を上げる。――こちらから攻撃するよりも、相手から来てくれた方が幾分か手間が省けるのだ。


 シュッ シュッ


 次々に武器が振り下ろされるが、蝶のように舞うライにそれが当たることはない。避けた先で入れ違いに彼女は一人につき一度、相手に剣先を軽く当ててこれを引くだけ。


「ああああ」

「ぬわああ」


 ……自分の家が他人の血で汚れていくのはいい気がしなかった。怪我をした兵士が次々と逃げるようにして下がっていき、途中でぶつかるテーブルに当たって、その上のお気に入りのティーカップを落とし、これが派手な音を立てて割れたりする。


「………」


 初めに家に入ってきた六人を斬り終えると、ライは一旦立ち留まり、残る司令官に向かって剣を静かに上げる。


「……もう一度話し合おうか。私は自分の家で斬りあいなんてしたくはない。今すぐ出て行ってくれるってんなら、深追いはしない」


「………貴様、一体何者だっ」


 熟練の兵士を一気に六人も片すとは思わなかったのだろう、驚きを隠せない司令官に対して、ライは変わらない声で答える。


「だから、傭兵の『ライ』だと言っている。……ああ、それとも、あんた達にはこう名乗ったほうはよかろうか?――剣姫、ソラン=ベランテラン」


「…ベランテラン、だと?王家にしか許されぬ名を、なぜ貴様のような小娘が……っ」


「……知らぬか。歴史を学びなおしてくるといい。それで?引くのか、このまま私と斬りあい続けるのか」


 初めこそ余裕ぶっていたものの、目の前で繰り広げられる剣技を見て戸惑い始める司令官をみると、そこまで阿呆というわけでもなさそうだ。ここで数にモノを言わせ、後ろに控えている全ての兵をこの狭い小屋に入れて戦わせるような馬鹿が一番面倒である。


「くっ……」


 司令官が歯を食いしばった、その途端だった。


 バァアアン――ッ


「っ!?」


 激しい爆発音と立っていられないほどの揺れ。背後からだ。

 振り向くと、既に屋根は半分くらいが吹き飛ばされていて、青空が見える。その青空の隙間に、――黒曜の翼。


「ドラゴンナイト…!?」


 空を駆るドラゴンを人間が従わせることに成功したのは近年の話だが、まさか、こんなところで…。


「!……ロレン!?」


 ドラゴンの上の人物――赤い鎧の奴の両腕には二人の少年が抱えられていた。片方は先程の依頼客の少年、そしてもう片方がロレンだ。

 下の方に目を返すと、ぶっ飛んだ壁の向こうに、依頼客の女が血を流しながら瓦礫の下敷きになっているのが見えた。生きているのか――それとも死んでいるのか。


「なぁ、ロズベルトよぉ、ターゲットは10に満たないガキだと聞いたんだが、どっちだ」


 ドラゴンに乗っている男が、自分を通り越して背後の司令官に向かって問いかける。


「……私に聞くな。分からんっ」


 私に怖気づいているのか、控えめに彼は答える。


「まぁいいか、両方連れて行けば済む話だ」


 そう呟くと、ドラゴンナイトの男は足でドラゴンに合図し、それは黒曜の翼を翻して大空へ飛び立とうとする。


「!――待てっ」


 手に抱えられているロレンは意識を失っているのか、力なく体を預けている。話の様子からして死んでいるわけではなさそうだが、このままでは、どこに連れ去られてしまうか分かったものではない。


「ああ、そうだ。ロズベルト、さっさとここを離れた方がいいぜ。俺が投げた爆弾は二発。もう一発は時限爆弾だ。もうすぐそのボロ家は証拠もなく消え去る」


「!――て、撤退だ」


 ロズベルト――と呼ばれた司令官は、すぐさま身を翻して、軍を連れて去っていこうとする。

 …だめだ。こいつらを完全に逃してしまえば、手がかりが全て消えてしまう。

 そう感じたライはせめて軍の方を追いかけようとした、ところが振り向く途中でもう一度目に入ったのは――瓦礫の下のあの女のことだ。


「――くそっ!」


 ドラゴンナイトの言う言葉が本物だとすれば、時間がない。その中でやらなければならないことは何か、分かっているつもりだ。


「おい!?生きてるかっ!?」


 手にある剣を鞘に納めると、急いで壊れた壁を飛び越え、女の元へ駆けつける。


「………っ……」


 彼女は息をしていた。それを確認するとすぐさま彼女に重なっている瓦礫を蹴り飛ばし、振り払い、彼女を腕に抱きあげる。

 ふと、足元に何かが転がっていることに気づく。すぐさまにそれが爆弾だということに気が付く。かなりの大きさだ、この家が丸ごと吹き飛ぶのだろう。そしてその導火線がもう本体のすれすれで火を飛ばしていることを知ると、本能のままに足は強く地面を蹴った。


 ダァアアアン――


 空中で爆風に身体を吹き飛ばされる。制御が利かない。

手に抱えた女を庇うようにして、地面に叩き付けられるようにして落ち、そのまま二人して転がっていく。


「が――っ」


森の木の根にぶつかってようやく止まることができた。


「……っ」


 全身が強く打撲を受けていて、痛い。しかし構わずに起き上がり、手に抱いた彼女を見るが、辛うじて死んではいない。それを確認すると空に目を向けるが、ドラゴンナイトの姿はもうなく、同じく地をゆく軍の姿も、森の木々に隠れもうどこを進んでいるのかはっきりわからない。


「……とりあえず、こいつの手当てしないと……」


 ――やっと、やっと見つけた、自分を理解してくれる人を連れ去られてしまった。


「ロレン……っ」


 同時に家も失い、そこにあった財産も全てなくしてしまったのだろう。残っているのは、腰に刺さっている剣と、目の前にいる、突然訪れてきた依頼客の女――。


「………」


 あの軍隊とドラゴンナイトを連れてきたのが、彼女とあの少年だということは理解できる。国王暗殺などと謳っていれば当然の結果だが――どうも、訳ありだと感じた。彼女が敵だろうが味方だろうが、今、ここで死なせるわけにはいかない。


 ロレンを取り戻すための手がかりは、もう、彼女しか残っていないのだから。

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