6話「マグネットドライブ その3」
「おお、こういうのダンジョンって言うんだっけ」
「うわ、すごい! ノドカこれすごいぞ! 隠し通路だ!」
ノドカとウツリは地下への階段がゴゴゴ……と現れたもんで興奮を示す、その一方でレイカはノドカの近くへやってきて耳元で囁く。
「安心して、ウツリちゃんには気の利いた嘘をついておくから。あなたの両親のことは絶対喋らない、きっといつかは言い出せるときがくるはずよ、今のウツリちゃんには残酷すぎるもの。そう、私今、スゴく気を使っているのよ、上手いの私、気を使うのが」
「……頼む」
「よしノドカ! 私の鉄とノドカの脚! 修行しよ修行!」
「脚?」
一同は階段を降りながら話す、その途中でウツリが発した言葉、脚という言葉にレイカは反応した。ウツリはレイカに話しかける。
「ノドカはすっごく脚が速い能力者なんだよ、それにジャンプもできる! あ、敬語使うの忘れてた」
「そう……脚力の能力ってとこかしら」
レイカの声のトーンが明らかに下がった、目線も下がってる。なんだその期待はずれ感が否めない顔は。
「ん? ウツリ、寒いか? 少し手が震えている」
「え? あぁ、大丈夫だよ、ちょっと寒い、かな? でも大丈夫」
「そうか、なら良いんだが何かあればすぐ俺に……」
と、その瞬間、ノドカ達の後ろから大声が。
「脚が速いィ~!? ショボッ、なんだあそのショボい能力! 全身の筋力増加とかじゃなくて、脚だけってのががっかり感満載だよな! アハハッ~!」
遅れて合流してきた、スペリィだ。置いていかれた腹いせとばかりにノドカを渾身の力でバカにしてくる。
「あ! ノドカをバカにしてんのか!? こら!」
ウツリも応戦し、地下へと続く階段は口論のお祭り騒ぎとなった。
「はあ」
そんなお祭りなど所望してねぇと言わんばかりに、レイカはスペリィの頭を鷲掴みにする。
「声が大きいわよスペリィ、というかあなたはさっさと田舎に帰ればいいのに。助けられたご恩! とか言って私の家に住み着くのはいいけどやかましいわ、それにノドカの脚力、私が思うにそれは本質じゃないと思うの、能力のほんの一部分でしかない感じ」
そう言うとスペリィの付け耳を発火させた、意味はないが発火。
「アッヅゥー! なんで!? なんで燃やされたの私!?」
「それ付け耳でしょ外しなさい、ああノドカ、ごめんなさいね、スペリィの能力は「気配を消す能力」よ、覚えておいて、彼女は身体能力も高いの、爪も長いし、野生児ね」
またあっさり能力をバラした。しかも人のを。
「あぁー! レイカ様なんでバラすんです!? タメてたのに引っ張ったのに! 「一体こいつの能力はなんなんだ!? どう攻略すればいいんだ!?」って敵が苦戦するのがいいんじゃないっすか!」
「漫画の見過ぎよ、あっ地下に着いたわね」
地下室、それはとても広い部屋だった。全体が丸い部屋で、まるでドームのような、走り回れるような膨大な部屋。一体どうやって作ったのか気になるけれど。
「さてノドカ、少しいいかしら、あなた脚は短くないし。ちょっとスペリィの頭を蹴ってみて」
レイカの提案。
「は?」
驚くスペリィ。
「はい」
即答のノドカ。
もちろん有言実行、スペリィの頭を(たぶん手加減してる)蹴る。
「痛ァ! なにすんだ!」
「さぁスペリィ、ちょっとこっちを向いて」
レイカはポケットからペンダントを取り出した、金属製のペンダント、何か変哲があるわけではない。
だが、レイカが手に持つペンダントは、まるで何かに引っ張られるような反応を見せた。
「……なるほどね」
レイカはそう言うとペンダントを手から放す。
「がぺぁ」
バチィン! という音とスペリィの叫び声。スペリィの頭部めがけて、ペンダントが飛んできて張り付き、巻きついていた。レイカは手を放しただけで投げてはいないのに不思議な現象だ、まるでスペリィの頭に吸い込まれるように。
「判明したわね、廊下でスペリィの脚を凄く重くした時からもしや、と思ったけれど。ノドカ、あなたの能力」
「まさか俺の脚……蹴ったものを磁石に!?」
「そう! ノドカ、あなたの能力、それは……磁力を操る能力! 何故蹴りが強くなったり脚が早くなったのかと言えば、それは磁石的な言葉で言う「反発」のパワー、反発をすることで脚力強化、磁力を送り込むこともできるって仕組みに違いないわ!」
「そ、そうだったのか、これが俺の能力……! じ、磁力、マグネット的か、なぁウツリなんだか不思議だな、ウツリが鉄で俺が磁石、凄くマッチしてる感じが……」
ノドカは少し喜んでいるようだった、珍しく笑顔だ。
遂にノドカの能力が判明! 磁力! それを操る能力!
「うん……」
……一方ウツリは、ノドカの言葉に返事することはなかった。何も返事はなく、うずくまっていた、具合が悪いのか。
「ウツリ……? 大丈夫か!?」
ノドカが駆け寄り、ウツリのそばに腰を下ろし顔を覗き込んで具合をみる。顔色が悪い、汗がポタポタと垂れて……いやよく見ると汗じゃない。
スペリィがうろたえる。
「まさか暴走……!?」
「いや、違うわね……そう、違う……」
レイカはすごく「しまった」という顔をしていた。それは、ノドカも同様だったかもしれない。ウツリは酷く泣いていた。
「……ノド、カぁ……どうしてだ? どうして……どうして私に嘘をついたんだ?」
「ウツリ……いや、俺は」
「聞いちゃったんだ、二人の話……おかしいよな、私が何も知らないなんて、ノドカが知らん風を通すなら私も、私もそれに合わせようと思った……でもだめだ、人殺しじゃないか、人殺しだ、私! うっううッ……!」
……ただっぴろい地下室で、ただ一人の泣き声、それだけが響いた。ノドカは何も……喋ることは出来なかった。
ウツリは聞いていた、トイレに駈けていったそのときに、ノドカたちの声が聞こえてしまっていたのだ。ノドカの嘘は今ばれた、もう隠し通すことはできない、嘘がばれた。