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5話「マグネットドライブ その2」

俺の名前はノドカ。これまでの旅というか道のりを、今までのいきさつを、少しばかり俺自身の中で「整理」がしたい。


俺はそこまで大きくもない普通の町で生まれて、育った。父は図書館を経営し、幼少から本を読むのが好きだった、というか本しか暇つぶしがないし。

親に心配されるぐらい人付き合いをあんまりしないし、友達も居なかった。


そんなとき名もなき少女と出会う、彼女は金属を体から放出する能力者であった。それがウツリだ。

今思えば凄い偶然だったな、能力者に会いたいと思ってたら会えたんだから……。



「この本の作者に会え」



そして死の間際の父から言われた、これが最後の言葉、だったかな。とにかくそれからちょいとばかし旅をして……。


ついに会えたのだ、町外れの館に住む「女」の「U・ツヴァイ・リピスラズリ」その本名「レイカ・バギーニャ」父に会えと言われた人物に!



「アッ、ちょっと待って! ノドカおい! レイカ様も待って下さいよ! 私の足! まるで石のよーに重くて、誰か手を貸してェ!」



「……」



それで今はこんなスペリィがぎゃーぎゃーとうるさい状況。レイカにうざく絡んでくるスペリィという仲間が居るとは知らなかったが、あしらい方を少しばかり心得てきたところだ。



「みんな薄情だー!」



頭の、犬みたいな耳をピョコピョコさせながらスペリィが叫ぶが、一同完全無視のスタイル。誰一人見向きはしてくれなかった。今はレイカという女の後ろを歩く、それが先決だ。


なにより、このレイカという女の発する「雰囲気」とか「印象」というのはとても不思議で「ついていかなくてはいけない」とか。上手く表現出来ないがそういうふうなことを思わせる感じだった。



「なぁノドカそういえばさ、スペリィとかいう奴を襲った獣の魔物……」



ウツリは小さな声でノドカに話しかけだした。



「うん、突然発火して死んだな……それと同じタイミングで、あのレイカという人は現れた。多分、偶然じゃない、彼女は特殊能力者なんだ、そしてウツリも俺も」



「ノドカの親戚ってこう、特殊な人が多いのか?」



そのウツリの言葉を言い終わった直後に、レイカが口を開いた。



「着いたわ、ここが私の部屋、でも奥の部屋は入ってはダメ、開けていいのはこの扉まで。もっと奥にある扉の向こうは、私の寝室なの」



「お邪魔します……」



ノドカとウツリは、レイカに案内され部屋の中に入った。

四角い部屋で、壁ひとつが本棚で埋め尽くされていた、真っ赤な本棚に。もう一面の壁には机。レイカは著者だからそれ専用の机か……画材とか、ペンとか「書くこと」に必要なものが、全て取り揃っているような、そういう机。



「あの……ちょっといいですか、トイレってどこ……ですか?」



ウツリが冷や汗の混じった顔で口を開いた、少しばかり急ぎの用事のようだ。レイカは優しい口調で答える。



「この部屋を出て、来た道の廊下を戻ると、左側に脇道があるわ。そこをまっすぐ進めば、そう、トイレよ」



「あ、ありがと!」



ウツリは早歩き気味にレイカの部屋を出て、トイレに向かって行った。



「ウツリが迷っちゃいけないから俺も着いて行くかな」



「ノドカ、その必要はないわ、むしろ都合が良い。話をしたいの、それにあなたがここに来たってことは、あなたのお父さん、無事じゃないんでしょう?」



「な……」



ノドカは言葉に詰まった。彼女は、レイカという女はこちらの事情を察知しているようだ。



「あのウツリって子は……すごく無邪気な表情をするわね、あなたと大違いで。知っているの? あなたの親のこと……」



「……ウツリは知りません、自分でもよく分からない、何が起こったのか。ウツリが怪物のようなものに化けていて、それが親を……俺は信じたくない、それに、ウツリには記憶も意識もなかったんです」



ノドカは普段と変わらない口調で、でも俯き気味に今までのいきさつを話し出した。レイカも、それに驚いてみせるようなことはなく、ただ、優しい笑顔のままノドカの話に耳を傾けた。



「やっぱりね、隠したのね親のことは、あなた優しそうな顔をしているもの、スッゴク落ち着いた風だけど。でもよかったわ、あの子が席を立ってから話を振って、私、そうよ、今気を使ったのよ? ふふ」



少し息を吸って、また続けてレイカが喋り出す。



「あなたのお父さんは、あなたに能力者の素質があることに感づいていたみたいね、かといって一歩使い方を間違えると危険な力だから、あえて黙っていたのでしょうけど」



「……しかし、死の間際にあなたの書いた「特殊能力者」について書かれた本。それを託されました、つまり父は最後に、俺に「能力」のことを気づかせようとしたんだと思います、そしてあなたに会えと言われた、父とあなたの関係ってなんなんですか?」



ノドカは淡々と話し始めた、そうして最後にレイカへの質問をぶつける。



「難しいことじゃないわ、私は著者、あなたの父は読者。あなたの父は私のファンだったって、それだけの話よ、あなたの父とは一度だけ会ったことがある、でも彼は能力者じゃなかった。息子が能力者だとは言っていたかしらね、だから多分、ウツリちゃんの能力の暴走の件も、あなた自身の能力のことも、私に託したんだと思う」



「能力の……暴走?」



ノドカは疑問を浮かべた、特殊な能力をもったもの自体、ウツリ以外見たことがない。もちろん、その能力が「暴走」するなんてこと、ノドカは知る由もなかった。



「あなた、父から託された私の本、少しでも中を見た? 見たなら分かると思うけれど、この世界には能力者が稀に存在するの。確率で言うと何かしらね、私の人生経験とか色々でもって言うと、1000人に1人とかその辺かしらね、あ、当てにしないでねそこは」



「つまり、俺とウツリはごく稀な存在……同じ能力者、か」



「うーん、能力者っていう意味では同じね、でもじつは違うの。能力者の中にも、実は二種類の人間がいる、ノドカとウツリちゃん、それに私とスペリィも能力者。でも私とノドカ、ウツリちゃんとスペリィで違う、実は「最初」が違うのよ」



「最初……?」



レイカはだんだんと真面目な顔つき、そして少し困ったような表情に変わっていっていた。

常日頃からそうなのだろう、そう思わせる余裕な表情、その彼女のポーカーフェイスさえも悩ませる問題があるとでも言うらしい。



「ノドカと私は、生まれつき能力の素質を持って生まれてきた人間……ウツリちゃんとスペリィは、元々能力の素質なんて無く生まれてきた、けれども「生きている途中」で「能力の素質を植え付けられた」人間なの。そして後者は「暴走」を起こす、能力を使いこなす特訓をしない限り、その暴走は続く……」



「能力の素質を……植え付けられた? 一体、誰に? どういう方法で?」



「それが分からないの、いえ、植え付けられたって表現も私の決めつけ。でも後者、暴走する能力者の方は後天的とでも言おうかしら、そういう後天的な能力者達は皆「過去の記憶が無い」のよ」



ここで少し整理をしよう、この世界には能力者が居る。生まれつき能力の素質があるものと、何かの原因があり能力の素質を後天的に発現したもの。

後者は記憶をなくしている(自分の名前も分からないくらいに)能力を使いこなせないうちは意識が無くなりながら暴走する、前者は暴走しないし記憶も無くなっていない。



「ん? 少し変だな……レイカ、あなたは能力者がごく稀な存在だと言っておいて、ここに四人も集結してるし「皆」という発言もしている。俺たち以外の能力者にも会ってるって事ですよね、人が一生のうちで出会い、知り合える人間はせいぜい多くても2000人だとも聞く。あなたは一体どうやって能力者と会っているんですか?」



「ふふ鋭いわね、また少し話すわ、私のこの館にはね、能力を持った人間が迷い込むの、私という人間を求めてね。私は、そういう人間を救う、手助けするっていう仕事……いや趣味ね、そういう事をしているの、迷ってる能力者は私のもとに訪れる、そういう風になってるの」



「なるほど、それはすごいことをしてるんですね。だが俺の質問はそうじゃない、あなたはどうやって能力者を引きつけているのか、この館に秘密があるんですか? 心理に働きかけて、人と違う「能力」を持っている人間だけが気に止めるような色合いやつくりにしてあるとか」



「あはは、ごめんなさいね、しっかり質問に答えてるようで答えになってなかったって奴だったわ」



少なくとも笑い事ではない。そう思いつつもノドカはレイカの言葉に耳を傾ける。



「私には生まれつき才能がある、あ、能力とは別にね、私の能力は「発火現象を起こす能力」だもの。これだけ引っ張っておいてあっさりバラしただなんてガッカリしないでね」



「今はそこ重要じゃないので大丈夫です」



「ええ、私には発火現象の能力とは別に執筆の才能があるの。ウーン……能力と才能、能が被っててややこしいのね、そうね、能力と「技術」まあそう呼びましょ。能力っていうのは人間には本来無い突拍子もない力で、技術は人間として使役できる技とか術とか、努力のたまものだったりするもの」



レイカは息を吸って少し強い口調で言い放った。



「覚えて、この世界には「能力」と「技術」がある」



「……分かりました」



「私には執筆の技術がある、私の文には人を惹きつける力がある。私の文に惹きつけられたものは、私に会おうとしてくる、料理の本を書けば、料理に興味がある人がやってくる、動物の本を書けば、動物に興味がある人が……私はこの執筆の技術を使って、今、数々の能力者を救っているの」



「なっ……!」



「でも困りごととしてもうひとつ、この世界に能力者がものすごく増えてるのよ最近、凄く増えてる。誰かが増やしてるかもしれない、だから私はそう、さっき「植え付けられてる」って表現したのよね」



ノドカは驚いた。人を惹きつけて自分のもとへと向かわせる執筆が技術とは、もはや人間業じゃないし、技術という言葉に収まるのかそれは……人を操っているに近いぞ。それに能力者が増えているというのも初耳だ。これは詳しく話を聞きたい、と思った瞬間、背後から声が。



「ただいま……あは、遅くなって面目ない……」



ウツリが部屋に戻ってきたのだ。幸い、ノドカの親の死や、ウツリの暴走のことに関しては聞かれてはいないはず。

良かった一安心……ノドカが少し息を吐き出すと同時に、レイカがまた一層にこりと微笑む。

レイカはおもむろにノドカの腕を引っ張り、口を開いた。



「さ、ついてきて、修行をしましょう。ノドカ、それにウツリちゃん? 能力を使いこなせるようになる修行をね」



「修行? ということは私またさらに強くなれる感じか!? もう既に強いけど、なんだか面白そう!」



レイカに対しいきなり何を言い出すのだ彼女は、というノドカの思考はあったが、それは置いておく。レイカは本棚にある隠しボタン的なものを押した、すると本棚が横に音を立てて動き、地下への階段が現れた。

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