38話「キメラウイルス」
「くっ……こいつ、この土壇場で、強い……!」
「俺が手に入れた友情を奪った……貴様らを、許さんンンンン!!」
ノドカはヒョリザンに膝で踏まれながら地面に倒れ伏せていた、避けることもままならない状況で、ヒョリザンは懐からピッケルを取り出しノドカの首を狙って振り下ろす。
「うぐゥ!」
咄嗟に腕で受け止めるも突き刺さり、ノドカの血が噴き出した。ヒョリザンは拳でノドカの顔面を殴り、腕から引き抜いたピッケルで再び首を狙う。
「激昂しても頭はキレていたようだが……忘れていたようだな」
ノドカは息を荒くしつつも、鋭く尖った視線でヒョリザンを睨みつける。
「なにをオ! お前は今死ぬのだ、お前の仲間も残らず殺すウゥ!」
「お前の体は磁石になっている、ウツリの鉄の鎌が狙ったのはお前の肉体だ、あのギンガミが庇ったせいで忘れたのか? お前の肉体は、もう俺には勝てない」
ノドカは出血する自分の腕に逆の手で触れ、磁力を流し込む。血液。ソレの中には『鉄分』が存在する。その鉄分を磁力で操り、腕の付近で高速回転させた。
「それがどうしたアァァァァ!!」
「これが何か分かるか? お前にトドメを刺す武器の名だ」
さらなる叫びとともにピッケルを振り下ろすヒョリザンの胸に、その高速回転する血の円盤は突き刺さった。
「ぐほォアッ!!」
「手裏剣だ。お前が俺の手を掴み取ってくれて助かったよ、俺の腕を『レール』にして放つこの手裏剣が、お前の体を狙える方向を作ってくれた」
ヒョリザンの胸板を回転しながら通過し、ヒョリザンの胸の肉を直線状に抉り取った。のけぞるヒョリザンの隙を突いてノドカは磁力を込めた反発蹴りで、彼を吹き飛ばす。
「ぐわあァァ!」
「俺たちの勝ちだ……なんとしてもアンヴィーは俺たちが止める」
地面に倒れ、ヒョリザンは出血多量、もはや体力の限界で体を動かせず仰向けになっていた。
「何故だ……何故俺から奪う……」
立ち上がるノドカは彼の呟く声が耳に入った。何も言わぬまま、続く彼の言葉に耳を向けていた。
「俺は……昔、登山家だった、山という試練を乗り越える事で、自分が成長出来るような快感があったから……共に山を歩む友も居た、だが彼は、もう少しで登頂という直前の橋で、事故に巻き込まれ……」
ヒョリザンの脳裏には走馬燈なのか、その情景が鮮明に浮かんでいた。奈落に落ちつつある彼の腕を掴み、引き上げようともがく自分のさまを。
「だが、助けられなかった……俺に力が無かったからだ、重力に引き寄せられるまま彼は地面に叩きつけられて血だるまになった。俺はもう二度と、友を失わないとこの手に誓った、なのに……何故、奪うのだ、私から友情を……!」
「……ノドカ」
ノドカの側にはウツリが立っていた。彼の話を、悲しそうに聞いている。罪悪感にさいなまれているのだろう、口や表情には出さないが、気分的にはノドカも一緒だった。
「ガア!」
その瞬間、彼の言葉は断末魔と共に止まった。彼が発するのは言葉ではなく血だった。トウカが彼にトドメを刺したのだ。硬質の糸で喉を貫き、殺した。
「聞くな、こんな奴の話。つまらねえ」
「いま、殺す必要はあったのか」
「ノドカ、何言ってんだ。情が移ったのか? こいつの激昂っぷりを見ただろ、相棒を殺された怒りで、こいつは死ななきゃ復讐鬼になる」
「……でも、その人」
「ウツリちゃん、辛いのは分かるが……これは戦いなんだ、もしこいつの復讐で、俺たちの中の誰かが死んだ時、後悔しても遅過ぎるんだよ」
トウカはそう言い、ノドカ達は小さく返事をした。これは戦いなのだ、この世界を脅かす敵を倒さなければ、その大義の為の。
「ノドカ、お前ケガしてるな、糸で治療するからちょっと見せてみろ」
「いや、これくらい大丈夫だ。なんともない、それよりもこの宿はもうダメだな、これからどうするか考えよう」
「……ああ、そうだな」
その脇で、レイカが叫んだ。
「リザが居ないわ! 瓦礫に潰されてしまったのかも!」
レイカは慌ててあたりにある瓦礫を漁り始めた、懸命にリザを探すその姿に見かねて、ウツリも協力して手伝いはじめた。その様子に、トウカは声をかける。
「おーい、リザがどうしたってんだ、あいつは敵だろ!」
「違うわトウカ、彼女は私を守ってくれたのよ。アッシュという名前を褒められたから助けたってそう言ってたの、あの子は悪い人じゃ無いと思うの、むしろ私あの子の心が救われる手伝いをしたいって思ったくらいだもの、きっと仲間になってくれる!」
「居ないもんは仕方ないだろ、多分逃げたんだぜ! 俺たちの目的はまずアンヴィーをぶっ殺すことだろ!?」
「きっと瓦礫の中に居るのよ! 簡単に死んだりしてないはずよ!」
「レイカァ、お前は根本的に甘いんだよ。敵に何想ってんだ? ミカルナとかいう敵とも友達になるしよ、なんだ? お前にとってこの旅は友達作り、子供の遠足なのかよ!?」
どんどんと険悪になっていく雰囲気に堪え兼ね、ノドカは間に割って入る。
「待て、待てみんな。とにかく今は宿を探そう、この町から出て次の町を探すんだ、レイカさん。多分これだけ探しても居ないならリザはもうここには居ない。今はみんなで宿を探そう、いいか?」
「……分かったわ」
「了解っ」
快く返事をしなかったのはトウカのみだった。ノドカの事を気にくわなさそうに睨みつけ、ゆっくりと口を開く。
「なあノドカ、お前その手の怪我、血が止まってねえじゃねえか。なんで俺が治療するのを断ったんだよ、なあ」
「……俺はお前の事が少し嫌いになった、それだけだ。だが仲間として信用はしている、ウソは無い」
「そーかよ、バッサリ本音で助かるぜ」
トウカは皮肉交じりにノドカの肩を軽く押し、この街の出口を求めて歩み始めた。ノドカ達もそれに続いて歩き出す。
一方。城下町の外れの裏通りで猫と戯れる少女が居た。
「可愛いわね、動物ってやっぱり。にゃーん?」
灰色をした野良猫の頭をガシガシと撫で、笑みを浮かべるその少女は、アンヴィー。ノドカ達が追っている、敵。
「次は猫の能力者を作ろうと言うのかね」
その背後から、男の低い声が響き渡る。アンヴィーはにこやかな笑みを凍りつかせ、イラついた表情を浮かべながら振り返る。
「……そんな事はもうしないわ、私はこの子を愛してるだけ。私の能力は、人間以外に使ってはいけないことぐらい分かってるわ」
その男はカイン公爵だった。アンヴィーを追い詰めんとしたスペリィを圧倒的な力で粉砕したあの男。アンヴィーの仲間。つまりはノドカ達の敵。
「フン、そうかね。私は君のその能力は人間以外に使った時の方が面白いと思うがね」
「つまんない話をするのはやめて」
「君はその昔、犬を能力者に仕立て上げた事があるそうだね。確か……狩りの民族の猟犬を」
「……聞こえないの?やめて。あの子には気の毒なことをした、私は二度と、この能力を動物には使わない」
「そうかな」
アンヴィーの死角に、いつの間にか人間が居た。そいつは一瞬のうちにアンヴィーの顔を抑え気絶させ、抱きかかえてカインの側まで歩んできた。
「ご苦労。では城に戻るとするか、アンヴィー。君の力はとことん利用させて貰うよ、もはや私の野望の前に選択権などは無い。さぁ行くぞ」
そいつは無言で頷き、気絶したアンヴィーを肩に抱えたまま路地裏から去るカインの後ろを付いて歩いた。
「私の父が残した毒の能力による新物質『キメラウイルス』を人類に使う日は近い……新たなる世界をこの私が作り出す。フフッ、ハッハッハ!」
キャラクター
ヒョリザン
元登山家。登山中に親友と欠落事故に手をつかめたが。引っ張り上げることが出来ず落として死なせてしまう。
能力名『ギルティドロッパー』
ギンガミ
元コック。見習いで周りから見下され、心無い同期からの嫌がらせを受け、料理に虫を混入させられたせいで破門され料理への道という名の夢を失うことになる。
能力名『ルック・ダウン・バグィ』




