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神が悪戯したこの毒の国で異能戦争  作者: 真鍋棒
3章「8人の刺客」
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27話「テラーマリン その2」


「ゥゴ……ぶばぁ、待てェ……!」



林の中から泥まみれで這い出てくるコレク、口から泥を吐き尽くし、ノドカ達の前に立ち塞がる。



「む、しつこいぞ。お前の能力に対応できる者がこちらには2人居る……たとえ俺たちを倒せたとしても彼女らに殺されることになる、その泥と俺の血でここはおあいこということにしないか」



ノドカの淡々とした口調を大人しく聞いていた、がしかし全く立ち塞がるその身を退けようとはしない。コレクの戦意は全く衰えていないということ。



「俺の能力は……俺自身の脳裏にある『恐怖』を『具現化』する能力だ、恐怖の瞬間を強く思い出せば出すほど良い、能力」



「なに……?」



「俺は今怖い、手の内を明かして、能力者2人も相手にして……下手すると負けるかもしれない、ここで勝ってもお前の仲間に殺されるのも十分ありうる、だが、その恐怖は俺にさらなる力を与えてくれるゥ」



「ウツリ、こいつは話が通じる相手では無いようだ」



「うん、そうみたいだね。やる気も満々のようだし」



コレクはまたしても、地面からサメを召喚する。尋常ではない無数の歯を尖らせ、見るだけでゾッとしてくる大口を開け、ギョロリ瞳を動かしてやってくる。



「く……ウツリ、掴まれ! 今はとりあえず俺の磁力であのサメより速く動く!」



「分かった!」



ノドカの腰に手を回し、がっしり掴むウツリ。そのまま反発蹴りで大きくサメとコレクから距離を離すノドカ。



「確かにサメも素早いが……まだ逃げ切れるッ!」



「ノドカ、今はとにかくレイカさん達と合流しよう! 私は能力を使えない、ノドカの消耗が倍になるだけだ、体力があるうちに逃げないとっ」



ノドカが無言でその言葉に頷いたその時、コレクが全速力で走ってノドカ達を追いかけやって来た!



「何故俺がサメを出せるのか、話を聞かせてやろう。俺はその昔家族が居た、愛する両親との旅行中、船の上で悲劇は起きた。海の真ん中で水難事故だ。天気も荒れ荒んでいたあの塩濡れの夜を俺は忘れもしない」




「こい、つ、死ぬ気で俺たちを追いかけてくる気かッ! 走ったままサメの上に飛び乗って……追ってくるとはッ!! まずい!」



このコレク。サメの泳動に振り落とされないように、サメに飛び乗った瞬間『金属の針を自分の両足に貫通させサメの体表に固定』したのだ。血をいくつか噴き出してでもノドカ達を確実に殺るという……深海のドス黒さをもった殺意をもっている!

ノドカはあまりに突然の出来事で、方向転換をせざるを得なかった、このまま直進すれば宿のある町の方へと戻ってしまう。こんな奴が町に現れれば大被害どころでは済まない、また林のある森方面へと逃げなければと、方向を急転換し逃げる。




「船員と船長は俺たち家族を含む乗客を全て見捨て、救命ボートで逃げ去った……! 俺の両親は、海に投げ出され、そのまま俺の目の前で大ザメに食われて死んだのだッ! 俺の人生はそこで深海に染まった……モノクロの後悔が襲い、あの時もっと力があればと、血とゲロを吐き荒んだ毎日を送った……ゾッとすることを言おうか、俺が恐怖を抱いたのはサメだけではない、もっと大きなもの、その事故が起きたその場所そのものも……俺のトラウマだ、分かるか?意味が」



「ノドカ! 奴が何か言っている! 何か惑わすつもりかも、聞いちゃダメっ」



反発の力で跳躍を続け逃げるノドカとウツリ。そのウツリの言葉に、ノドカはうんともすんとも答えなかった。ただ少しの間をおいて、ノドカの顔は汗にドッと濡れたのだ。戦慄。今の彼の顔を説明するならそれが相応しい。戦慄。



「いや……逆だ、奴は『親切』に教えてくれているッ! 自分の能力を、そしてこれから起こる現象をッ!」



「げ、現象……!? ノドカ、それって一体……」



ノドカはただひたすらに脚を速め、コレクから距離を取ろうと逃げ続ける、しかしその距離が縮まることはない。奴は、自分の産み出したサメの速度で、死ぬ気で追いかけ回すつもりだ!



「うぅッ……まずい……!」



ノドカから声が漏れた。それと共に、コレクから逃げ惑うその速度も落ち、ノドカの動きはやがて止まりかけに近いくらいに遅くなったのだ。



「えっどうしたのノドカ!? ヤバイよ、立ち止まったらあいつが来る、追いつかれるよっ! って、冷た!」



ウツリは自分の膝から下がビショビショに濡れていることに気づく、ひんやりとしたその水は……いや、水ではなく……。



「な、なにこれ……! 私たちの周りが……海になっている!」



ウツリは周りを見回して驚愕した。辺り一面海、ノドカと共に半身海に浸かり、周りの木々や土くれ、岩も全てが海に沈んで消えてゆく。恐ろしすぎる。奴は、自分の恐怖の対象である『海』さえも再現するのだ。



「『恐怖』とは、誰の精神にも湧き、常にある感情だ……お前らも、俺にもな! 俺は能力の手の内を明かせば明かすほどにこの精神に恐怖を抱く、バラすということはリスクだからだ、だが、この身に恐怖を抱けば抱くほどに俺の能力は強くなる!!」



「くっ……ウツリ、大丈夫か」



「うん、なんとか……でもまずいよ、奴のサメが突っ込んでくる!!」



「ああ、だが安心してくれ、奴の攻撃を振り切る策がひとつだけある……」



ノドカとウツリはその辺に浮いてきた大木に掴まりしがみつく。泳ぎなんて両者とも経験したことが無い、この大木を手放せば慌てふためくうちにコレクのサメに食われて終わるだろう。



「策? それって一体」



ノドカはこの状況下で策を講じているというのだ、大木に掴まったままジッとコレクが突っ込んでくるのを待つ。



「両方とも! 恐怖に飲まれろオォォ!!」



波しぶきと共にコレクはサメと共に突っ込んできた。



「来たッ、今だ!!」



ノドカはウツリの腰に手を回しぎゅっと抱き寄せる。そして、全身に磁力を帯びさせ、宙に浮いたのだ!



「ひゃあぁ! ノド、ノドカっ!」



高い声を上げるウツリ、それとは関係なしにコレクの表情は驚愕に固まっていた。



「飛ん……だ? いや、辿ったのだ、俺の足に刺さるこの『金属の針』を、磁力で辿って飛んできたのかッ!」



「その通りだ、俺を気絶に追い込んだその針を使って俺を追ってきたのは間違いだったな……サメの上で身動きが取れないお前程度、倒すのは容易いぞ!」



サメの背中に居るコレクの脚に吸い寄せられるその勢いのままに、拳を握りしめ『反発パンチ』をお見舞いする。



「ごアァッ!」



ぶん殴られた勢いでのけぞるコレク、だが、すぐに体勢を立て直しノドカの胸ぐらを掴み寄せて、反撃と言わんばかりに殴り返した。



「がッ……こい、つ……!」



「お前の能力は磁力だったな……俺の脚に刺さる針に『引き寄せられて』ここまで飛んできた、ということは……お前の近くに針を出現させれば、お前は勝手にその針を引き寄せて刺さりまくるということ!」



「ノドカのパンチならこいつをサメの上から吹っ飛ばして引き剥がせたはずなのに……殴る直前に針が刺さってくるなんて!」



右の肩と腕に痛々しく刺さり、血染まりの右肩右腕のノドカ。



「ぐ……く……」



磁力の反発の作用を右腕に集中し、刺さる針達を引き抜き、血の中の鉄分を操って止血する。しかしコレクはその一瞬の隙を見逃す事は無かった。再び空中に針を出現させ、掴み取る。



「ノドカ、危ないっ!」



そのまま鋭利な棘をノドカに突き刺そうとするコレク。その動きを事前に察知し、ノドカの前に出たウツリが身代わりになった。



「な、ウツリ!!」



「うぅッ、痛あ……!」



ウツリは胸を軽く刺され、ぐらりと体を背後に落とす。ノドカは自分の止血をやめ、血を右腕から噴き出しながらウツリを抱き寄せ、コレクの眉間を狙い、渾身の蹴りを繰り出す。



「俺は触れた人間の恐怖の記憶を読むことができる……ノドカ、お前を殴ったその時、お前の過去の記憶から、お前が何に対して恐怖を覚えるのか理解した」



コレクはノドカの蹴りを読んでいた。その証拠に、ノドカの右脚には長い布が巻きついており、ノドカは脚をコレクの眉間まで届かせる事が出来なかったのだ。



「な……に!? 脚が……!」



「お前も俺と同じく、両親を亡くしているようだな。顔には出さんのだろうが、お前は『身近な人が亡くなることを』人一倍恐れている! 物や自分への執着は全く無いようだが、その弱点を実現するのにその女はかなり役立ったぞッ」



「この布……いや、白い服は、ドレスか、ウェディングドレスだ!」



ノドカの脚に絡んだのはそのウェディングドレスの、上半身の部分。そしてスカートの部分は……遥か下に垂れ下がり、ノドカ達の下、サメの口の中に吸い込まれていくのだ! コレクの狙いはひとつ、サメの口とノドカを直結させるということ! いくら磁力のパワーでコレクの脚の針に吸いつこうとしても、巨体の鮫が口で海と共に獲物を食らおうとするパワーには敵わない!



「落ちろ! 恐怖のどん底に!!」



その言葉とともに、コレクは大きく右足を振り上げ、サメの背中に今一度思い切り突き刺す。



「グォォォォォ!!」



あまりの痛みに上体をまるごと起こしたサメは、固定されたコレク以外、つまりノドカとウツリを空中に投げ出し、そのまま落下してくるのを大口を開けて待つ!



「しまった……!」



「やったぞ! 2人……恐怖を乗り越えて俺は敵を2人殺せた! 恐怖の次に訪れる感情は喜びと安心だ! お前らが血だるまになって食われゆくさまを見て、安心させて貰うとしよう! フハッハッハッハッハ!」



「オ、ゴ、オォォ……」



高笑いとともに瞳を下に向けると、何かようすがおかしい、サメの呻きと震えが聞こえるのみで一向にノドカ達を飲み込みやしないのだ。水中に目をやれば、ノドカはウツリを抱えながら、手を前にかざしながら動かない。



「こい、つ……磁力を使っているな! しかし待て、鉄を生み出す相方のウツリは再起不能だ、一体何をして」



「グギャッ」



焦るコレクをさらに煽るように、鳴き声と共にサメの体にはポッカリと風穴が空いた。何かが口の中を突き抜け、そして尾びれの辺りから飛び抜けたのだ。体がズタズタになったサメにもはや泳ぐ力は無い。力なく海の底に沈んで行き、コレクも慌てて脚の針を引き抜いて、海の中にダイブする。



「プハッ! く、くそ……まずい、脚から血が止まらん……溺れ死ぬ」



コレクはせかせかと泳いでとにかくノドカ達から逃げようと試みる。



「しかし、ここまで追い詰められたことで俺の恐怖は最高潮だ……もう、アレを使うしかない……アレを!」



バシャバシャと海を鳴らすコレクの上空から、何かが飛んで迫ってきた。



「ゴボッ……飛んできた……!?」



ノドカ。彼が水面に磁力を流して反発の作用で水面を利用して、ウツリをわきに抱えながらすっ飛んできたのだ。



「逃げられると思うな」



「う、うわあああぁぁ!?」



拳を込めて飛んでくるノドカに対し、コレクは慌てて海の中に潜り姿を消す。



コレクの消えた水面に着水したノドカは、海の中に顔を埋め、水面下に消えたコレクを視界で探す。



「何処だ……この海を元に戻してくれなければウツリを治療できない、またサメでも出すつもりか?」



その時。辺りがグラグラと揺れ始めた、海面に波が立ち、ノドカはウツリを抱えながら流されないように近くに浮き出ていた大木にしがみつくので精一杯だった。



そして轟音とともに、遥か水中から姿を表す『巨大なもの』



「な、なんだとッ!?」



「うわ、あ、ノドカぁ! あれはヤバイって!」



それは……巨大な船! 客船! このコレクが生み出した半径50m範囲の海を覆い尽くさんとばかりの客船! それが現れたのだ! 真っ黒に腐敗し錆びきった『戦艦』にも見受けとれるような強靭さを誇ったその船は、ノドカとウツリを波で吹き飛ばす!

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